9/2-9/7(※)の香港市場は調整しました。米長期金利の上昇で軟調地合いが続いたなか、中国の成都市がロックダウンを延長し、投資家心理に影を落としました。グロース株に加え、消費関連銘柄が売られました。
(※本レポートは毎週金曜日の掲載でしたが、今週より木曜日掲載となります。したがって、今回の市況部分は9/2-9/7の動向となります。)
今回は、石炭株を取り上げたいと思います。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:9/7(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)
注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(9/7(水)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (4日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02007 | 碧桂園 [カントリー・ガーデン] | 8.8% | -12.9% | -49.0% | 中国不動産大手。不動産大手数社が資産売却を進めたことを手掛かりに、不動産関連株が買われた。資産売却によるバランスシートの改善が期待されている。 |
00960 | 龍湖集団 [ロンフォー・グループ] | 7.5% | 4.3% | -26.6% | 中国不動産大手。不動産大手数社が資産売却を進めたことを手掛かりに、不動産関連株が買われた。資産売却によるバランスシートの改善が期待されている。 |
06098 | CG SERVICES | 7.5% | 1.9% | -50.8% | 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。不動産大手数社が資産売却を進めたことを手掛かりに、不動産関連株が買われた。資産売却によるバランスシートの改善が期待されている。(SBI証券取り扱いなし) |
01378 | 中国宏橋集団 | 7.3% | -4.0% | -24.6% | アルミニウム製品メーカー。電力コストの増加を受け、欧州のアルミ大手数社が減産を発表し、買い材料となった。 |
00688 | 中国海外発展 [チャイナオ-バ-シ-ズランド] | 7.2% | 6.9% | -1.1% | 中国不動産大手。不動産大手数社が資産売却を進めたことを手掛かりに、不動産関連株が買われた。資産売却によるバランスシートの改善が期待されている。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (4日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00883 | 中国海洋石油 [CNOOC] | -5.3% | 4.4% | -17.9% | 中国石油・天然ガス大手。欧州の天然ガス価格が一時大きく下落し、売り材料となった。 |
00241 | 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] | -5.4% | -11.0% | -2.3% | アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。米長期金利の上昇を受けたグロース株への売りが波及したもよう。大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。 |
00175 | 吉利汽車 [ジーリー・オートモービル] | -5.7% | -20.0% | -4.2% | 大手自動車メーカー。バークシャー・ハサウェイがBYD(01211)の持ち株をさらに売却したことが明らかになり、自動車関連株が売られた。同社に対しては、大手投資ファンド数社が持ち株比率を引き下げた。 |
06862 | 海底撈(Haidilao) | -6.6% | 3.7% | 3.5% | 火鍋チェーン中国最大手。成都市のロックダウン延長に加え、深セン市でも一部地域でロックダウンが実施され、売り材料となった。 |
02313 | 申洲国際 [シェンジョウインター] | -6.9% | -13.2% | -36.6% | ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。その理由として、1-6月期の粗利益率の低下や世界的な需要低迷が挙げられた。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (4日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00285 | 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] | 11.4% | 9.7% | 33.5% | BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。会社側がファーウェイの最新ハイエンドスマホ「Mate 50 Pro」のメインサプライヤーであると表明し、買われた。 |
00981 | 中芯国際 [SMIC] | 4.5% | -12.4% | -12.4% | 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。国産技術100%の14nm生産ラインの量産開始(2023年)や自社株買いが買い材料となった。 |
00020 | SenseTime Group Inc | 1.3% | 2.7% | -60.2% | AIソフトウェア大手。需給要因のもよう。大手投資ファンドによる持ち株比率の引き上げがみられた。 |
01347 | 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] | 0.9% | -18.7% | -23.6% | 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。半導体国産化の進展を背景に、買い優勢となった。(中芯国際(00981)部分のコメントをご参照願います。) |
03888 | 金山軟件 [キングソフト] | 0.4% | -10.6% | -14.7% | ゲーム・ソフトウェア大手。需給要因のもよう。大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (4日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09868 | 小鵬汽車[シャオペン] | -6.4% | -32.9% | -36.6% | 新興EVメーカー。同社CEOが米当局によるエヌビディアに対する対中輸出規制は自動運転技術のクラウドトレーニングに影響を与える可能性があるとコメント。同時に、すでに向こう数年分の需要に対応できる半導体を買ってあるとコメントしたが、売りが優勢となった。バークシャー・ハサウェイがBYD(01211)の持ち株をさらに売却したことを嫌気し、自動車関連株が売られた。 |
00772 | 閲文集団(China Literature) | -6.8% | -6.0% | -16.4% | オンライン文学プラットフォームを運営。同社の大株主であるテンセント(00700)の資産売却観測を嫌気した。テンセントは上場株式ポートフォリオのうち約1,000億元相当を今年中に売却するという「緩い目標」を設定したと、フィナンシャル・タイムズが報じた。なお、テンセントの担当者は同報道を否定した。 |
09698 | 万国数拠服務 | -7.9% | -21.2% | -19.3% | データセンターを運営。大手証券会社が同社の米国上場ADRの目標株価を引き下げた。 |
09626 | ビリビリ | -8.4% | -9.6% | -10.9% | 動画プラットフォーム大手。同社の大株主であるテンセント(00700)の資産売却観測を嫌気した。テンセントは上場株式ポートフォリオのうち約1,000億元相当を今年中に売却するという「緩い目標」を設定したと、フィナンシャル・タイムズが報じた。なお、テンセントの担当者は同報道を否定した。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のBILIとなっています。) |
00909 | Ming Yuan Cloud Group | -10.5% | -19.2% | -43.7% | 不動産会社向けソフトウェア大手。大手証券会社が投資判断「売り」で新規カバレッジを開始し、売り材料となった。(SBI証券取り扱いなし) |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
9/2-9/7(※)の香港市場は、ハンセン指数が2.1%下落、ハンセンテック指数は3.1%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、1.3%下落しました。米長期金利の上昇で軟調地合いが続いたなか、中国の成都市がロックダウンを延長し、投資家心理に影を落としました。
(※本レポートは毎週金曜日の掲載でしたが、今週より木曜日掲載となります。したがって、今回の市況部分は9/2-9/7の動向となります。)
業種別では、情報テクノロジーやヘルスケアが軟調でした。米長期金利の上昇を嫌気したグロース株の売りが背景です。
情報テクノロジーは、中国のロックダウンも嫌気されました。中国主要都市の一つである成都市がロックダウンを延長したほか、深セン市でも一部地域でロックダウンが実施され、景気回復が一段と遅れる可能性が警戒されました。消費関連のアリババ(09988)やJDドットコム(09618)が反落しました。
テンセント(00700)や、ビリビリ(09626)や快手科技(01024)などテンセントが大株主となっている銘柄群は、株式の需給懸念も追い打ちとなりました。テンセントについては、同社の大株主による追加売却が明らかになりました。なお、テンセントは8月中旬以降(9/7まで)、再び自社株買いを実施しました。
テンセントが出資している銘柄群については、フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道が嫌気されました。FTは事情に詳しい関係者の情報として、テンセントは上場株式ポートフォリオのうち約1,000億元相当を今年中に売却するという「緩い目標」を設定したと報じました。テンセントの担当者は同報道を否定しましたが、軟調地合いのなか、売りが優勢でした。
電気自動車(EV)をはじめとする自動車関連株も、ロックダウンの影響と需給懸念で売られました。先週のレポートで「バフェット氏のBYD(01211)売り」を取り上げましたが、その後、バークシャー・ハサウェイ(バフェット氏が会長)がBYD株を追加売却したことが明らかになりました。BYDが大幅に続落したほか、新興EVメーカーのシャオペン(09868)やニオ(09866)、大手自動車メーカーの吉利(00175)も調整しました。
EV関連銘柄をめぐっては、米中ハイテク戦争による影響も懸念材料として浮上してきました。きっかけは、米半導体大手のエヌビディア(NVDA)がデータセンター向けGPU2種について、中国顧客への販売に米当局の承認が必要との通知を受け取ったと発表したことです。中国の新興EVメーカー・シャオペンのCEOは、この措置は自動運転技術のクラウドトレーニングに影響を与える可能性があるとコメントしました。今回の米国の措置がいつまで続くかは不明ですが、長引く場合、中国EV各社の新車開発などに影響を及ぼす可能性があります。
一方、米中ハイテク戦争の最初の段階で米当局に制裁を課されたファーウェイ(未上場)の関連銘柄やSMIC(00981)は、逆行高となりました。
ファーウェイは9/6に、米アップル(AAPL)より数日早く、衛星通信にも対応した(携帯電話の電波が届かない場所でもメッセージや位置情報を送受信できる)最新ハイエンドスマホ「Mate 50 Pro」を発表しました。SMICは、国産技術100%の14nm生産ラインの量産を2023年に開始すると発表しました。14nmは決して最先端ではありませんが、AI(人工知能)や自動運転向けの半導体に広範に使用されています。SMICは最先端の7nmの技術も確立していると、業界ウオッチャーのテックインサイツが報じました。米国の制裁のなか、ファーウェイとSMICは着実に国産化を進めると同時に技術力をアップしています。
米中ハイテク戦争について中国は、長丁場を覚悟しています。一方、米国はできる限り中国に時間的な余裕を与えないようにし、中国企業に対して制裁を課してきました。足元では米国企業の対中輸出にも、制限を課す動きを強めています。しかしながら、ファーウェイやSMICの進展からすると、米国の対中政策はむしろ中国の国産化のスピードを加速させることになるかもしれません。
今回のトピックス
今回は、石炭株を取り上げたいと思います。
今年は悪材料が重なったことで軟調相場が続き、個別銘柄では下落した銘柄がほとんどです。しかし、上場来高値を更新している銘柄もありました。たとえば、中国石炭大手のヤンクアン(01171)がその代表例です。ヤンクアンは9/5に上場来高値を更新しました。足元では、高値警戒感から利益確定売りに押されています。一方、ヤンクアンの上昇要因からすると、調整一巡後は再び高値を試す可能性もありそうです。
ヤンクアンの上昇要因は一言でいうと、欧州のエネルギー問題を背景とした石炭の復活です。ロシアがウクライナに侵攻してから、エネルギー面でロシアを強く依存してきた欧州にとって大打撃となりました。石油・天然ガスの不足により、「脱石炭」を強力に進めてきた欧州は、エネルギーの安定調達を求めて石炭の購入を増やしています。
その動きは足元でも続いています。冬場の電力需要に備える必要性があるためです。また、ロシアがロシアからドイツに続くパイプライン「ノルド・ストリーム1」を経由する欧州へのガス供給を完全に停止したことも影響しています。当初ロシアは、「ノルド・ストリーム1」について、修理のため8/31-9/2に停止すると説明しましたが、9/2にガスタービンのオイル漏れが見つかったとし、稼働を停止し続けると発表しました。再開の時期について明示しなかったこともあり、欧州は冬場のガス不足に備える必要性が一層高まりました。
それを受け、石炭先物価格は高値を更新し、ヤンクアンをはじめ、チャイナシェンハ(01088)や中国中煤能源(01898)などの石炭大手が買われました。ヤンクアンの上昇がより堅調なのは、同社がオーストラリアの石炭大手であるヤンクアン・オーストラリア(03668)(SBI証券取り扱いなし)を子会社に持っているからです。
図表4 石炭先物価格と中国の石炭大手の株価推移(2021年以降)
注:ヤンクアン・オーストラリア(03668)はSBI証券では取り扱っておりません。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
図表5 石炭関連銘柄の業績動向やバリュエーション(EPS:1株当たり純利益、PER:株価収益率)
2021年通期の調整後EPSの成長率(%) | 2022年通期の調整後EPSの予想成長率(%) | 予想PER(倍) | 過去5年平均PER(倍) | 過去10年平均PER(倍) | |
ヤンクアン(01171) | 792.3% | 64.0% | 5.43 | 3.75 | 25.52 |
ヤンクアン・オーストラリア(03668)(*) | 黒字転換 | 507.7% | 1.89 | - | - |
中国中煤能源(01898) | 177.5% | 45.2% | 3.89 | 6.88 | 20.42 |
チャイナシェンハ(01088) | 39.5% | 41.5% | 6.51 | 6.66 | 11.30 |
注:ヤンクアン・オーストラリア(03668)はSBI証券では取り扱っておりません。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。