8/26-9/1の香港市場は反落しました。米FRBのパウエル議長がインフレ抑制まで利上げを継続すると表明し、世界株式市場は再び波乱の展開となりました。資金流出懸念で香港市場もさえない展開となりました。ただし、中国株主要指数の下落率は欧米の主要株価指数に比べて限定的でした。
今回は、バフェット氏のBYD(01211)売りを取り上げたいと思います。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:8/25(木)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)
注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(9/1(木)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00688 | 中国海外発展 [チャイナオ-バ-シ-ズランド] | 3.4% | 0.9% | -9.1% | 中国不動産大手。1-6月期の堅調な決算を受け、反発した。他の不動産デベロッパーがシェアを落とす中、同社はシェアを伸ばしており、業界4位に浮上した。 |
00101 | 恒隆地産 [ハンルン・プロパティーズ] | 2.5% | -2.4% | -9.6% | 香港の不動産会社。同社副社長による持ち株比率の引き上げが好感された。 |
06862 | 海底撈(Haidilao) | 2.2% | 10.5% | 14.6% | 火鍋チェーン中国最大手。1-6月期の赤字幅が縮小し、買い材料となった。新型コロナの感染拡大の影響で店舗の閉鎖を余儀なくされたが、閉鎖店舗の一部について営業再開を検討していることも好感された。 |
01928 | 金沙中国 [サンズ・チャイナ] | 2.1% | -7.0% | 14.9% | カジノ大手。マカオ訪問客の人数が8/19-8/25の週に前年同期比で25%増加し、カジノ関連株が買われた。 |
01093 | 石薬集団 [CSPCファーマシュ-ティカル] | 1.6% | -4.3% | 1.9% | 医薬品大手。4-6月期の決算内容はおおむね市場予想通りだった。決算発表後、大手証券会社が目標株価を引き上げた。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02007 | 碧桂園 [カントリー・ガーデン] | -10.1% | -20.6% | -52.6% | 中国不動産大手。1-6月期の純利益が前年同期比96%減となり、売られた。 |
01211 | 比亜迪 [BYD] | -11.3% | -21.4% | -17.7% | 中国EV最大手。大株主であるバークシャーハサウェイが持ち株比率を引き下げ、売り材料となった。詳細は本文をご参照願います。 |
00881 | 中升集団 | -12.1% | -19.8% | -39.4% | 自動車販売会社。1-6月期の純利益が前年同期比7%減となり、市場予想を下回った。決算発表後、大手証券会社が目標株価を引き下げた。 |
01378 | 中国宏橋集団 | -14.3% | -7.3% | -25.0% | アルミニウム製品メーカー。1-6月期の純利益が前年同期比4%減となり、市場予想を下回った。決算発表後、大手証券会社が目標株価を引き下げた。 |
00316 | 東方海外 | -27.6% | -40.1% | -37.3% | 海上貨物輸送を手掛ける。上海コンテナ運賃指数が下落し、海運株が売られた。同社の株価下落は配当など権利落ち分の押し下げ効果も影響した。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00285 | 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] | 7.5% | 7.0% | 29.5% | BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。1-6月期の決算内容は強弱まちまちだったが、大手証券会社が自動車向け製品の好調を理由に、目標株価を引き上げた。 |
06690 | 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] | 7.2% | 5.4% | -4.0% | 大手家電メーカー。4-6月期の決算内容が市場予想を上回り、買い材料となった。主力製品である冷蔵庫のシェア拡大も好感された。 |
02018 | 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] | 7.0% | 2.7% | -13.2% | 音響部品メーカー。4-6月期の決算内容が市場予想を上回り、買い材料となった。アンドロイド携帯向けの製品が予想外に好調だった。 |
00909 | Ming Yuan Cloud Group | 6.3% | -11.8% | -34.6% | 不動産会社向けソフトウェア大手。不動産デベロッパー100社の不動産販売の減速が弱まり、買い手掛かりとなったもよう。(SBI証券取り扱いなし) |
06060 | 衆安在線財産保険 | 4.4% | 14.1% | -11.1% | オンライン保険大手。1-6月期は純損益ベースで赤字に転落したが、主に投資や為替の影響によるもので、保険料収入は前年同期に比べ7%増加した。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00992 | 聯想集団 [レノボ・グループ] | -5.0% | -9.9% | -15.6% | パソコン大手。8/9に決算発表後、冴えない展開が続いている。決算発表会で同社CEOは、今年の世界パソコン需要はコロナ前に比べ10%減少する見込みだとした。8月末にかけて大手証券会社数社が持ち株比率を減らした。 |
06618 | 京東健康(JD Health) | -7.2% | -11.8% | 7.9% | JDドットコム(09618)傘下のインターネットヘルス大手。市場予想を上回った決算を発表した後、反発する場面もあったが、200日移動平均線を突破できず、その後は売りが優勢となった。大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。 |
09868 | 小鵬汽車[シャオペン] | -7.2% | -28.3% | -24.2% | 新興EVメーカー。7-9月期の納車台数ガイダンスが市場予想を大幅に下回ったことが引き続き、嫌気された。バフェット氏が同業のBYD(01211)の持ち株比率を減らしたことも、EV関連銘柄にとって売り圧力となった。 |
01024 | 快手(Kuaishou Technology) | -9.1% | -15.3% | -13.3% | ショート動画大手。市場予想を上回った決算を発表した後、反発する場面もあったが、その後は売りが優勢となった。大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。 |
09961 | 携程旅行網 [トリップドットコム゚] | -11.2% | -2.6% | 13.5% | オンライン旅行サービス大手。中国の一部地域での新型コロナの感染拡大が売り材料となったもよう。8月末にかけてポジション調整による売りがみられた。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のTCOMとなっています。) |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
8/26-9/1の香港市場は、ハンセン指数が1.9%下落、ハンセンテック指数は1.5%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、2.4%下落しました。
米FRBのパウエル議長がインフレ抑制まで利上げを継続すると表明し、世界株式市場は再び波乱の展開となりました。資金流出懸念で香港市場もさえない展開となりました。ただし、中国株主要指数の下落率は欧米の主要株価指数に比べて限定的でした。たとえば、8/26-9/1にS&P500指数は5.5%下落し、ナスダック指数は6.8%下落し、ユーロ・ストックス50指数は5.9%下落しました。
業種別では、素材、一般消費財、工業が軟調でした。素材は、米FRBパウエル議長の利上げ継続表明を受けたドル高(ドル建て商品価格は下落)に加え、中国のコロナ対策(一部都市で行動制限)による需要減懸念が響きました。産金大手のツージンマイニン(02899)や銅大手のコウセイコパー(00358)、アルミ大手の中国アルミ(02600)がそろって反落しました。
一般消費財は、新エネルギー車最大手のBYD(01211)を筆頭とした電気自動車(EV)関連銘柄が下げを主導しました。BYDの大株主であるバークシャー・ハサウェイが保有するBYD株を一部売却したことが判明し、売りを誘いました。更なる売却を警戒し、BYDが急落したほか、ニオ(09866)やシャオペン(09868)など新興EV銘柄も調整しました。
工業は、海運株の下落が顕著でした。8/26に公表された上海コンテナ運賃指数(SCFI)が前週比で8%下落し、海運大手のコスコシッピング(01919)や海上貨物輸送を手掛ける東方海外(00316)が調整しました。東方海外の株価急落は配当など権利落ち分の押し下げ効果も影響しています。上海コンテナ運賃指数の下落は欧米の景気減速懸念が背景にあります。
一方、業種別で唯一プラスのパフォーマンスとなったのは、不動産でした。不動産大手の中国海外発展(00688)と万科企業(02202)が堅調でした。厳しい事業環境にもかかわらず、いずれも1-6月期に堅調な決算となり、見直し買いが入りました。
今回のトピックス
今回は、バフェット氏のBYD(01211)売りを取り上げたいと思います。
バフェット氏によるBYD売りに対する懸念は、7/11から始まりました。7/11に、バークシャー・ハサウェイ(バフェット氏が会長、以下バークシャー)が保有する株数に相当する株式が香港の清算決済システムに反映されました。それ以降、大株主であるバークシャーがBYD株を売却するのではないかとの観測が広がりました。
その後8/29に、バークシャーは香港証券取引所にBYDの保有株数変更に関する届け出を出しました。それによると、バークシャーは8/24にBYD株を133万株売却(平均売却価格は277.10香港ドル)しました。それにより、BYDに対する保有比率は20.04%から19.92%に低下しました。
バフェット氏の中国株投資で、BYD以外で注目を集めたのがペトロチャイナ(00857)に対する投資です。中国株が急騰していた2007年に、バフェット氏はペトロチャイナを売却しました。当時、ペトロチャイナの株価はバフェット氏が最初に投資した時点から7倍上昇していました。
バフェット氏が売却した後、ペトロチャイナの株価はしばらく上昇し続けました。市場ではバフェット氏の売りは早すぎたのではとの声もありました。しかし、数カ月後、中国株だけでなく世界株式市場が調整し、ペトロチャイナも急落しました。バフェット氏は「天井こそつかめなかったものの、うまいタイミングで利益確定売りをした」と、後になって評価されるようになりました。
今回のバフェット氏によるBYD売りは、ペトロチャイナの対する売りを幾分連想させています。ペトロチャイナを売却した際、バークシャーは数回(数カ月)にわたって売却を進めました。したがって、バークシャーによるBYDの売却懸念は続く可能性があり、警戒が必要です。実際、BYDの株価はバフェット氏が最初に投資した時点から30倍近く上昇しました。
バークシャーはなぜ今のタイミングでBYDを売却したのか、今のところ理由が示されていないため、市場では憶測や解釈が飛び交っています。バリュー投資で著名なバフェット氏だけに、バリュエーション懸念(割高感)が理由である可能性と指摘されています。
なお、バークシャーの保有株動向を確認してみると、今年6月末時点でシェブロン(CVX)などエネルギー関連株を買い増し、自動車メーカーのゼネラルモーターズ(GM)を一部売却しました。この点からすると、中国新エネルギー車最大手のBYDに対する一部売却は、BYD自体対する評価に加え、バークシャーの世界経済やエネルギー産業・自動車産業に対する見通しも反映している可能性もありそうです。今年はロシアのウクライナ侵攻を受け、原油価格が急騰し、新エネルギーへの移行加速が期待されていました。一方、現実的には新エネルギーへの移行はそう簡単ではなく、まだ時間がかかることが示されました。
バークシャーがBYD売りの理由について公表していないため、その真意は不明ですが、一部売却したのは事実です。ペトロチャイナの経験からすると、今後、さらに売却を進める可能性も否定できません。バークシャー側が正式に意向を明かさない限り、しばらくBYD、および電気自動車(EV)関連銘柄にとっても売り圧力は続くかもしれません。
図表4 BYD(01211)の株価推移(2008年以降)
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
図表5 BYD(01211)の業績推移(半期ベース)
※BloombergをもとにSBI証券が作成。