8/19-8/25の香港市場は反発しました。中国当局が利下げに続いて追加的な財政支援策を発表し、投資家センチメントを押し上げました。
今回は、決算発表を終えた主要銘柄の業績動向(対市場予想比)と、過去4週間における業績修正の状況を確認してみたいと思います。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:8/25(木)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)
注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(8/25(木)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02020 | 安踏体育用品 [アンタ・スポーツ] | 14.1% | 5.7% | 23.0% | スポーツ用品大手。1-6月期の純利益は前年同期比7%減となった。減益率が市場予想以下となり、好感された。決算発表後、大手証券会社による目標株価の引き上げが目立った。 |
09618 | JDドットコム | 13.1% | -0.3% | 24.0% | EC大手。4-6月期の売上高と調整後純利益がともに市場予想を上回り、好材料となった。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き上げた。 |
00883 | 中国海洋石油 [CNOOC] | 12.8% | 10.8% | -5.3% | 中国石油・天然ガス大手。下落傾向が続いていた原油先物価格が反発し、買い材料となった。 |
01378 | 中国宏橋集団 | 8.8% | 8.5% | -10.5% | アルミニウム製品メーカー。中国当局がインフラ債の増発を発表。インフラ投資の拡大を織り込み、建設資材が買われた。 |
00857 | 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] | 8.0% | 2.2% | -9.2% | 中国石油・天然ガス最大手。下落傾向が続いていた原油先物価格が反発し、買い材料となった。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02688 | 新奥能源 [ENNエナジー] | -6.3% | -7.7% | -0.6% | 天然ガス供給会社。1-6月期の純利益が前年同期比18%減となり、売られた。天然ガス価格の上昇を受けた調達コストの増加が減益につながった。 |
00012 | 恒基兆業地産[ヘンダーソン・ランド] | -6.6% | -3.7% | -19.4% | 香港の不動産会社。1-6月期の純利益が前年同期比34%減となり、市場予想を下回った。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。 |
00968 | 信義光能 [シンイー・ソーラー] | -6.9% | -13.7% | -18.2% | 太陽光発電ガラスメーカー。太陽光発電産業をめぐり、競争激化と生産能力の過剰に対する懸念が浮上した。中国本土の大手投資ファンドが同社へのポジションを大幅に減らした。 |
01211 | 比亜迪 [BYD] | -7.5% | -7.6% | 0.4% | 中国EV最大手。新興EV大手のシャオペンの7-9月納車台数ガイダンスが市場予想を大幅に下回り、EV関連銘柄が売られた。EV市場全体の需要鈍化に対する懸念につながった。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | -8.4% | 2.1% | -1.8% | 大手光学機器メーカー。アップル関連銘柄が売られた。アップルがインドでの生産拡大に向けサプライヤーと取り組んでおり、iPhone14のインド生産を通常より早く開始することを目指していると報じられ、売り材料となった。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09618 | JDドットコム | 13.1% | -0.3% | 24.0% | EC大手。4-6月期の売上高と調整後純利益がともに市場予想を上回り、好材料となった。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き上げた。 |
00020 | SenseTime Group Inc | 13.0% | -2.1% | -51.0% | AIソフトウェア大手。中国H株指数の構成銘柄になったことに加え、ハンセンテック指数の構成比率の上昇を受け、パッシブ運用による資金流入が入った模様。 |
09961 | 携程旅行網 [トリップドットコム゚] | 10.7% | 6.3% | 44.5% | オンライン旅行サービス大手。上海市が消費支援措置として、旅行や飲食向けに10億元相当の商品券を発行する予定。期間は8月下旬から11下旬で、夏休みの終盤と国慶節連休の期間が含まれるため、旅行需要を押し上げると期待されている。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のTCOMとなっています。) |
01833 | 平安健康医療 [ピンアン・ヘルスケア] | 10.7% | -1.4% | 16.0% | 平安保険(02318)傘下のインターネットヘルス大手。1-6月期決算の純損失が前年同期の半分に縮小した。損失額が市場予想を下回り、買い材料となった。 |
09888 | 百度 [バイドゥ] | 10.5% | 2.8% | 22.8% | 検索エンジン大手。ハンセン指数の構成銘柄となり、買われた。世界で初めて量子コンピューターを企業や個人が利用できるプラットフォームの運用を始めたことも、買い手掛かりとなった。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02018 | 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] | -6.0% | -9.4% | -9.1% | 音響部品メーカー。アップル関連銘柄が売られた。アップルがインドでの生産拡大に向けサプライヤーと取り組んでおり、iPhone14のインド生産を通常より早く開始することを目指していると報じられ、売り材料となった。 |
03888 | 金山軟件 [キングソフト] | -6.1% | -14.8% | -3.7% | ゲーム・ソフトウェア大手。1-6月期の調整後純利益が前年同期比10%減となった。決算発表後、大手証券会社1社が投資判断を「買い」から「中立」に引き下げた。 |
00268 | 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] | -6.6% | -13.6% | 8.1% | ソフトウェア会社。1-6月期の純損失が前年同期より拡大し、売られた。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | -8.4% | 2.1% | -1.8% | 大手光学機器メーカー。アップル関連銘柄が売られた。アップルがインドでの生産拡大に向けサプライヤーと取り組んでおり、iPhone14のインド生産を通常より早く開始することを目指していると報じられ、売り材料となった。 |
09868 | 小鵬汽車[シャオペン] | -12.3% | -21.5% | -7.3% | 新興EVメーカー。7-9月期のEV納車台数について、会社側は2.9万-3.1万台を見込んでおり、市場予想(約4.5万台)を大幅に下回り、売り材料となった。4-6月期の実績は3万4,422台で、会社側が示したガイダンスの上限だった。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
8/19-8/25の香港市場は、ハンセン指数が1.0%上昇、ハンセンテック指数は1.8%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、8.7%上昇しました。
HXC指数の上昇率が堅調だったのは、主に8/25(米国時間)の大幅高(6.3%上昇)によるものです。中国ADRの上場廃止回避に向けた米中協議に、新たな進展が示唆されたためです。ウォール・ストリート・ジャーナルは8/25に、事情に詳しい複数の関係者が明かした情報として、中国ADRの上場廃止問題を巡り、解決に向けて米中が合意に近づいていると報じました。それを受け、ピン多多ADR(PDD)やビリビリADR(BILI)、JD ドットコムADR(JD)、アリババADR(BABA)などがそろって大幅高となりました。
なお、8/19-8/25の香港市場が上昇したのは、中国当局が利下げに続いて追加的な財政支援策を発表したからです。
中国人民銀行は8/22に、5年物ローンプライムレート(LPR)を4.45%から4.30%へ、1年物LPRを3.70%から3.65%引き下げました。5年物LPRの引き下げ幅は市場予想を上回りましたが、1年物LPRの引き下げ幅は市場予想を下回りました。それを受け、利下げ当日の相場の反応は限定的でした。
1年物LPRの利下げ幅が不十分との指摘もあるなか、中国国務院は8/25に追加的な景気刺激策を発表しました。インフラ事業に投資可能な資金としてさらに3,000億元を追加するほか、19項目の政策パッケージも準備したと発表しました。7月に入ってから大規模な景気支援に対して慎重姿勢を示してきた中国当局が本格的な景気支援に動き出しました。
中国国内では、中国当局が3月中旬に打ち出した一連の措置を「景気支援策・第1弾」と称し、今回はそれに匹敵するものとして、「景気支援策・第2弾」として捉える向きも強いです。
業種別ではエネルギー、情報テクノロジー、素材が堅調でした。エネルギーは、下落傾向が続いていた原油先物価格が反発し、ペトロチャイナ(00857)やCNOOC(00883)が買い戻されました。ヤンクアン(01171)やチャイナシェンハ(01088)など石炭大手も上昇しました。世界的な石炭の供給ひっ迫や中国の一部地域での電力不足を受け、石炭価格が上昇し、買い材料となりました。
情報テクノロジーは、好決算を発表したJDドットコム(09618)を筆頭に、アリババ(09988)やテンセント(00700)などネット大手が堅調でした。中国当局が本格的な景気支援に動き出したことを受け、業績悪化懸念が後退しました。
一方、電気自動車(EV)関連銘柄は軟調でした。EVメーカーで最も先に決算を発表したシャオペン(09868)が7-9月期のEV納車台数について、市場予想を大幅に下回るガイダンスを示し、悪材料となりました。EV市場全体の需要鈍化を警戒し、BYD(01211)やニオ(09866)も連れ安しました。今後は、BYDやニオが決算発表でシャオペンと同様に軟調な見通しを示すかどうか、そして9月初めに発表される各社の8月の納車台数実績が注目されます。
投資家のリスク志向の回復を受け、ディフェンシブ銘柄のチャイナモバイル(00941)やチャイナテレコム(00728)が小幅安となりました。コングロマリットも軟調でした。主に子会社のさえない業績を嫌気した中信 (CITIC)(00267)の下落によるものです。
今回のトピックス
今回は、決算発表を終えた主要銘柄の業績動向(対市場予想比)と、過去4週間における業績修正の状況を確認してみたいと思います。
図表4を確認してみると、ネット大手の4-6月決算では、JDドットコム(09618)が調整後EPSベースで市場予想を大幅に上回りました。アリババ(09988)とテンセント(00700)の場合はJDドットコムほどではなく、市場予想を小幅に上回る程度でした。一方、快手(01024)は調整後EPSが市場予想を大幅に下回りました。他方、全般的にみると、決算発表後はネット大手に対する業績見通しの上方修正が目立ちました。4-6月期の厳しい事業環境下でも比較的底堅い決算を発表したことが、業績懸念の後退につながった模様です。
一方、スマホ・PCや自動車関連の決算は、市場予想を下回るものが目立ちました。新型コロナの感染拡大を受け、一部都市で実施した行動制限が予想以上にスマートフォンやPC、自動車の販売に打撃を与えた模様です。特にスマートフォンの需要鈍化に対する懸念は強く、決算発表後は関連銘柄の業績見通しの下方修正がみられました。
他方、飲料やビール、スポーツ用品など消費関連銘柄の決算は比較的堅調でした。これらは市場予想ほど行動制限の影響を受けていないようです。決算発表後の業績修正は、小幅にとどまりした。コロナの感染状況やコロナ対策が依然として流動的であるため、今後の状況を確認しながら業績修正が行われていくものと想定されます。
図表4 ハンセン指数とハンセンテック指数の主要構成銘柄の決算動向
4-6月期あるいは1-6月期の業績対予想比 | 7-9月期あるいは7-12期月期の業績予想修正(過去4週間) | |||||
関連分野 | 銘柄名 | 売上高 | 調整後EPS(あるいは調整後純利益) | 売上高 | 調整後EPS(あるいは調整後純利益) | 決算期 |
ネット大手 | JDドットコム(09618) | 2.3% | 44.5% | -0.8% | 7.8% | 四半期 |
アリババ(9988) | 0.8% | 4.2% | -0.8% | 2.1% | 四半期 | |
テンセント(00700) | -1.2% | 17.4% | -2.2% | 5.6% | 四半期 | |
綱易(09999) | 0.1% | 9.6% | -0.8% | -3.9% | 四半期 | |
快手科技(01024) | 4.7% | -75.0% | -1.0% | 9.4% | 四半期 | |
スマホ・PC関連 | 小米(01810) | 0.4% | -4.8% | -13.0% | -32.9% | 四半期 |
舜宇光学(02382) | -3.7% | -21.4% | -11.4% | -20.0% | 半期 | |
瑞声科技(02018) | 2.1% | 16.4% | -6.2% | -24.0% | 四半期 | |
レノボグループ(00992) | 0.1% | -0.1% | -4.1% | 3.1% | 四半期 | |
半導体関連 | SMIC(00981) | 0.5% | 1.4% | -1.0% | 3.4% | 四半期 |
華虹半導体(01347) | 0.8% | -3.2% | -0.2% | 21.5% | 四半期 | |
自動車関連 | シャオペン(09868) | - | -10.8% | - | - | 四半期 |
吉利汽車(Geely)(00175) | 9.4% | -55.9% | -2.0% | -9.6% | 半期 | |
消費関連 | 百威亜太控股(01876) | -5.8% | 14.7% | 0.1% | 0.0% | 四半期 |
華潤ビール(00291) | 1.3% | 8.0% | 0.4% | -3.0% | 半期 | |
農夫山泉(09633) | 1.2% | 19.4% | -2.2% | 0.0% | 半期 | |
リーニン(李寧 )(02331) | 7.4% | 1.6% | -0.2% | -0.3% | 四半期 | |
安踏体育用品(02020) | 6.8% | 7.3% | 0.1% | 3.4% | 半期 | |
医薬品関連 | 薬明生物技術(02269) | 4.9% | 6.4% | 0.4% | -1.1% | 半期 |
※BloombergをもとにSBI証券が作成。