旧正月連休明け(2/4-2/9)の香港市場は上昇しました。連休中に世界株式市場が底堅く推移し、キャッチアップラリーとなりました。中国政府系ファンドが2/8に中国本土A株を買い支えたと報じられたことも、好材料となりました。中国当局は2/9の朝、介入を否定しましたが、投資家の買い意欲は強く、ハンセン指数は2/9に2%強上昇し、節目の25,000ポイントを試す展開となりました。
今回は、電気自動車(EV)の販売動向とEVメーカーの株価推移、および旅行やカジノなどレジャー関連銘柄の動向を確認したいと思います。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:2/9(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数騰落率(2/9(水)までの騰落率によります)
注:業種別騰落率はハンセン総合指数が母集団です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(2/9(水)までの騰落率によります)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02020 | 安踏体育用品 [アンタ・スポーツ] | 11.1% | 20.0% | 0.9% | スポーツ用品大手。北京オリンピックの開催期間中に、中国ではウィンタースポーツがブームとなり、スポーツ用品メーカーが買われた。 |
00941 | 中国移動 [チャイナモバイル] | 10.3% | 16.5% | 20.4% | 中国通信キャリア最大手。大手証券数社が同社の目標株価を引き上げた。 |
01211 | 比亜迪 [BYD] | 10.0% | -1.5% | -21.6% | 中国EV最大手。1月の電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売がともに好調で、買い手掛かりとなった。 |
06862 | 海底撈(Haidilao) | 9.7% | 9.8% | -11.8% | 火鍋チェーン中国最大手。オミクロン変異株に対する懸念の後退で買われた。 |
02331 | 李寧 [リー・ニン] | 9.2% | 8.4% | -11.3% | 中国国産ブランドのスポーツウエア大手。北京オリンピックの開催期間中に、中国ではウィンタースポーツがブームとなり、スポーツ用品メーカーが買われた。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | 0.4% | -9.9% | -0.8% | 大手光学機器メーカー。大手証券会社が目標株価を引き下げた。売り買いが交錯するなか、株価は小幅高となった。 |
02313 | 申洲国際 [シェンジョウインター] | 0.4% | 1.7% | -11.6% | ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。特段材料がないなか、売り買いが交錯し、小幅高となった。 |
01113 | 長江実業[CKアセット] | -0.5% | 4.8% | 7.5% | 不動産会社。昨年12月以降、上昇傾向が続いたが、1/24にRSIが80近く達した後は、短期的に買われすぎ懸念で利益確定売りに押された。 |
00960 | 龍湖集団 [ロンフォー・グループ] | -1.2% | 14.7% | 34.4% | 中国不動産大手。RSIが80近くに達し、短期的に買われすぎ懸念で利益確定売りに押された。 |
02269 | 薬明生物 [ウーシー・バイオロジクス] | -18.9% | -23.7% | -40.0% | バイオ医薬品開発受託大手。米国の未検証者リスト(UVL)入りが売り材料となった。詳細は本文をご参照願います。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09626 | ビリビリ | 11.6% | -8.5% | -55.7% | 動画プラットフォーム大手。大手ファンドによる買い増し報道を好感した。RSIが売られ過ぎサインとなる20近くまで下落したこともあり、自律反発狙いの買いも入ったもよう。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のBILIとなっています。) |
00268 | 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] | 11.6% | -14.4% | -22.8% | ソフトウェア会社。中国ネット大手に対する見直し買いが進み、買われた。 |
09961 | 携程旅行網 [トリップドットコム゚] | 11.5% | 11.5% | -9.1% | オンライン旅行サービス大手。オミクロン変異株に対する懸念後退やウィンタースポーツブームを受け、旅行関連株が買われた。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のTCOMとなっています。) |
06060 | 衆安在線財産保険 | 10.3% | 3.0% | 8.7% | オンライン保険大手。大手証券会社が同社の営業利益率は今年上期に改善する可能性があると指摘した。 |
09888 | 百度 [バイドゥ] | 9.5% | 5.7% | 0.0% | 検索エンジン大手。中国ネット大手に対する見直し買いが進み、買われた。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02018 | 瑞声科技 [AACテクノロジーズ] | 0.4% | -27.5% | -26.1% | 音響部品メーカー。特段材料がないなか、売り買いが交錯し、小幅高となった。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | 0.4% | -9.9% | -0.8% | 大手光学機器メーカー。大手証券会社が目標株価を引き下げたが、売り買い交錯で小幅高となった。 |
03888 | 金山軟件 [キングソフト] | 0.3% | 4.3% | 6.9% | ゲーム・ソフトウェア大手。大手証券会社が目標株価を引き下げたが、売り買い交錯で小幅高となった。 |
02518 | 汽車之家 | -0.3% | -11.2% | -20.9% | 平安保険(02318)傘下の自動車インターネットプラットフォーム会社。1/25に50日移動平均線を下回った後、やや軟調だった。(SBI取り扱いなし。リンク先は米国上場のATHMとなっています。) |
06690 | 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] | -5.6% | -13.1% | 6.7% | 大手家電メーカー。大手証券会社がパソコン需要の鈍化とサプライチェーン問題の影響を理由に、目標株価を引き下げた。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
旧正月連休明け(2/4-2/9)の香港市場は、ハンセン指数が4.3%上昇、ハンセンテック指数は4.1%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は、9.5%上昇しました。
連休中に世界株式市場が底堅く推移したことを受け、香港市場はキャッチアップラリーとなりました。中国政府系ファンドが2/8に中国本土A株を買い支えたと報じられたことも、好材料となりました。中国当局は2/9の朝、介入を否定しましたが、投資家の買い意欲は強く、ハンセン指数は2/9に2%強上昇し、節目25,000ポイントを試す展開となりました。
業種別では、電気通信、素材、一般消費財、エネルギーが上昇をけん引しました。電気通信は、主にチャイナモバイル(00941)やチャイナテレコム(00728)など大手通信キャリアの上昇が寄与しました。安定成長や比較的高い配当利回りが評価され、大手証券会社がチャイナモバイルの目標株価を引き上げました。
素材およびエネルギーは、主にアルミニウムや石油・天然ガス関連銘柄が大幅に上昇しました。アルミニウム先物価格が2008年以来の高水準になったことを受け、中国アルミ(02600)や中国宏橋(01378)が急上昇しました。石油価格の先高観を背景に、ペトロチャイナ(00857)やCNOOC(00883)も大きく買われました。
一般消費財は、電気自動車(EV)関連銘柄とレジャー関連銘柄の上昇がけん引しました。その要因と関連銘柄については、「今回のトピックス」部分をご参照願います。EV関連銘柄のうち、上昇が顕著だったのはシャオペン(09868)です。主な要因は、同社が香港上場株が深セン-香港ストックコネクトの対象銘柄入りを発表したからです。それにより、中国本土の投資家はコネクトを通じ、同社の香港上場株を取引することができるため、本土マネーの流入期待が膨らみました。
一方、ヘルスケアは逆行安となりました。主に、バイオ医薬品開発受託大手である薬明生物(02269)を筆頭としたバイオ関連銘柄の急落によるものです。きっかけは、米国が自国からの輸出品がどう利用されているかが検証できないとし、薬明生物の傘下子会社を「未検証者リスト(UVL)」に追加したことです。UVLは米国のエンティティリスト(禁輸リストやブラックリストとも呼ばれる)とは異なり、UVL入りしたからといって米国事業体から製品を購入できなくなるわけではありません。ただし今後、追加免許が必要となる可能性が出てくるかもしれません。
薬明生物は、2/8に一時売買停止となりましたが、2/9に売買を再開しました。同社は売買再開時に、「UVL入りは、エンティティリスト入りと異なり、米国の輸出業者と取引禁止になることを意味するものではない。過去10年間で、我々は米国の輸出管理規則を遵守しており、また一部輸出制限のある機器の輸出に関しても米商務省から輸出許可を得ている。UVL入りは、我々が世界中の顧客にサービスを提供するうえで重大な悪影響を及ぼすことはない。」と声明を発表しました。
薬明生物は中国のバイオ医薬品メーカーだけでなく、米国をはじめ世界の医薬品メーカーに向け、バイオ医薬品開発受託のサービスを提供しています。地域別売上高構成比(20.12期)は中国が5割、北米が4割となっています。北米の比率は19年12月期の5割強よりは低下したものの、4割と依然として高い割合を占めています。UVL入りが同社の今後の業績にどう影響してくるか、現時点では判断が難しいのが実情です。同社をはじめとするバイオ関連銘柄については、しばらく米国政府の動向を注視する必要がありそうです。
一方、今回の事件で特記すべきことは、米国の新しい制裁措置による影響が該当する企業や業種にとどまっている点です。過去ならば相場全体に悪影響を及ぼしかねない材料ですが、今回はヘルスケアだけが調整し、ハイテク株やその他の業種は大きく上昇しました。またヘルスケアのなかでも、明暗が分かれました。たとえば、薬明生物は急落しましたが、京東健康(06618)や中国生物製薬(01177)、石薬集団(01093)は上昇しました。全般的にみて、米制裁措置が中国株に与える影響力は低下しているといえそうです。
今回のトピックス
【EV販売好調も、関連株の戻りはやや鈍い、押し目買いは時間分散?!】
2/1-2/4の米国市場と2/4の香港市場では、中国の電気自動車(EV)メーカーの株価がそろって反発しました。各社が発表した1月のEVおよびPHEV(プラグインハイブリッド車)の販売が好調となり、買い手掛かりとなりました。
EV販売は昨年に急増したこともあり、市場では今年は一定の販売鈍化を予想していました。しかし、1月の販売動向はおおむね予想を上回りました。特に中国EV最大手のBYD(01211)は、EVとPHEVの販売台数がそれぞれ前年同月比221%増、761%増と、いずれも好調でした。新興EV3社(ニオ(NIO)、リーオート(LI)、シャオペン(XPEV))は、ニオのEV販売台数が同34%増にとどまりましたが、リーオートとシャオペンはそれぞれ同128%増、同115%増と堅調でした(図表4)。
それを受け、上記4社の株価はいずれも2/1-2/4に急反発しました。しかし、その後は戻りが鈍く、年初来騰落率では依然としてマイナス(2/9まで)となっています。背景として、米長期金利の急上昇を受けた投資家のリスクセンチメントの変化が挙げられます。図表5を確認してみると、主要EVメーカーの株価は10年債利回りが急上昇し、その後も上昇傾向が続いた局面(緑色の矢印部分、それぞれ2021年初と2022年初)では、大幅に調整しました。
2021年初と2022年初に、米10年債利回りが急上昇したのは、いずれもインフレ懸念の高まりが背景です。2021年はその後、インフレ懸念が一旦収まりましたが、2022年はインフレ圧力がより強くなっています。インフレを抑制すべく、米国をはじめとする主要先進国は2022年に入ってから本格的な利上げへシフトしつつあります。
利上げへのシフトはEVメーカーや投資家にとってみれば、新型コロナの“おかげ”で続いた世界的な低金利によってもたらされた好環境が変わることを意味します。金利が上昇すれば、企業の資金調達コストは増加し、投資家のリスク許容度も低下する傾向があります。したがって、2022年は2021年に比べて、高PER(株価収益率)銘柄や赤字のグロース株(EVを含む)に対する投資家の評価が厳しくなることが想定されます。
中国のEV大手4社を確認した場合、BYDは黒字状態ですが、足元の予想PERは130倍と高水準です。新興EV3社の場合、いずれも今後は販売台数の拡大とともに黒字転換が予想されるものの、足元では赤字状態です。金利上昇懸念や投資家のリスク許容度の低下が続いた場合、EVメーカーは1ヶ月のみの数字だけでなく、1四半期-数四半期の販売実績などの継続的な成長性を“証明”し、投資家を納得させる必要がありそうです。
一方、EV化は長期トレンドであり、先行組はブランド力や量産体制の優位性によって今後、販売拡大が見込まれるため、調整局面は押し目買いのチャンスといえそうです。ただし、上記で確認したように2022年の金利環境や投資家のリスク許容度は2021年と大きく変わってくる可能性があるため、EV関連銘柄については毎月および各四半期ごとのEV販売動向を確認しながら、押し目買いは時間分散(投資するタイミングを分散)の手法を取り入れた方が良いかもしれません。
【コロナ収束は先だが、レジャー関連株は堅調】
新型コロナの感染者数は、香港でも増加傾向にあります。中国本土の場合は、絶対値では低水準ですが、一部都市では「ロックダウン」が実施されています。コロナ収束はまだ先の印象です。しかし、株式市場では足元で、コロナ収束を織り込む形でレジャー関連銘柄が上昇しています。
背景には、オミクロン変異株が最初に確認された南アフリカで感染のピークが過ぎたことに加え、英国や米国でも新規感染者数が減少傾向にあることが挙げられます。レジャー関連銘柄は過去2年間で、新型コロナによる影響で業績と株価がともに大きな打撃を受けましたが、コロナ収束に伴い業績回復が期待されています。
EV関連銘柄と比較した際、年初来の株価動向からすると、投資家はレジャー関連銘柄に対する評価や期待は、幾分“楽観的”な印象を受けるかもしれません。理由として、EVとレジャーでは株価上昇の要因や時間の尺度が異なる点が挙げられます。というのは、EV化は世界的なトレンドであり、より中長期的な”ストーリー“となっています。それに対してレジャー関連銘柄の業績回復は、コロナ収束とともに急ピッチで進む可能性が高く、近いタイミングでの出来事となりそうです。
レジャー関連銘柄は今年に入ってから見直し買いが進みましたが、株価は依然としてコロナ前の水準を大きく下回っています。「ポストコロナ」相場に備えて、レジャー関連銘柄への投資を検討するのもまだ遅くないかもしれません。図表6は、代表的なレジャー関連銘柄(EV関連銘柄も含む)のデータです。
図表4 中国主要EVメーカーのEVおよびPHEVの販売動向
※各社資料をもとにSBI証券が作成
図表5 主要EVメーカーの株価と米10年債利回りの推移(株価は2020/6/30=100として指数化)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6 レジャーおよびEV関連銘柄(株価は香港上場株:香港ドル、米国上場株:米国ドル)
銘柄 | 株価(2/9) | 52週高値 | 52週安値 | 来期予想増収率(%) | 来期予想増益率(%) |
金沙中国(01928) | 22.95 | 40.55 | 14.64 | 42.57% | 294.34% |
銀河娯楽(00027) | 47.15 | 80.30 | 38.00 | 47.28% | 482.93% |
トリップドットコムADR(TCOM) | 29.59 | 45.19 | 21.40 | 24.08% | 291.38% |
中国南方航空(01055) | 5.41 | 6.30 | 3.89 | 29.61% | 赤字縮小 |
中国東方航空(00670) | 3.23 | 4.08 | 2.66 | 42.91% | 赤字縮小 |
海底撈(06862) | 18.40 | 85.80 | 15.86 | 25.73% | 1973.91% |
BYD(01211) | 243.60 | 324.60 | 138.40 | 36.59% | 69.81% |
シャオペン ADR(XPEV) | 40.73 | 56.45 | 22.73 | 101.91% | 赤字縮小 |
ニオ ADR(NIO) | 26.10 | 64.60 | 19.31 | 77.34% | 赤字縮小 |
リーオート ADR(LI) | 30.13 | 37.45 | 15.98 | 80.57% | 黒字転換 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成