ブラジル中央銀行は29日、政策金利を8.00%から50bps引き下げ、過去最低の7.50%とすると発表した。今回の利下げにより、同国中銀は昨年8月から9回連続で利下げを決定したことになる。事前予想でも50bpsの利下げが予想されていたので、市場においてサプライズとはなっていない。
これまでのレポートの中でも、同国中銀の政策に対する不信感や、同国の構造不安などを背景に、レアルに関しては懐疑的な見方を続けてきた。当面はレアル安が続くだろうとして、同国通貨を投資対象として考える場合、しばらくは慎重に見るべきというスタンスをかれこれ1年以上続けていた。
今回の利下げを受け、昨年からの利下げサイクルは終了した可能性が高いと考えている。あっても、年内にあと1回あるかどうかというところだろう。
この1年間の間に計500bpsも政策金利が引き下げられたことになるが、我々日本人の感覚からすれば、相当な勢いで金利が下がったという印象があり、実際にそれを受けてレアル相場も大きく崩れていった。同国通貨建ての資産を持っていた投資家にとっては非常に厳しい1年となったであろう。
結果として、様子見のスタンスは正解だった訳だが、この場を借りて新たな投資見解を記したい。
図1:ブラジルの物価指数と政策金利の推移
そもそも、同国の政策金利が世界的に見ても高かった背景の一つがインフレ対策だった訳だが、インフレ退治を目的とした高金利政策は諸刃の剣であり、同時に高金利に目をつけた投機資金の流入により、過度な通貨高を招いてしまった。結局、通貨高を先に封じようということで、同国中銀は利下げに踏み切った訳だが、結果的に欧州債務危機による世界経済の減速等も運よく重なったことで、インフレ圧力も次第に下がっていった。
これまでの大幅な利下げの効果もあり、同国経済は内需を中心に底堅い。16日に発表された6月の小売売上高は前月比+1.5%増と事前予想の同0.3%減を大きく上回った。また、昨今の減速感が懸念材料であった製造業に関しても、徐々に明るい兆しは見え始めている。この背景には政府の景気刺激策があることはしっかりと認識すべきであろう。また、雇用環境も相変わらずしっかりとしており、5月の失業率は5.8%と昨年末に記録した4.7%からみれば多少は上昇しているものの、ここ数年でみれば依然として低水準に落ち着いていることが分かる。
しかし、一方でタイトになった労働市場や、年初に行われた最低賃金の引き上げ等を背景に、再びインフレ懸念が浮上してきているように思える。7月の消費者物価指数(IPCA)は前年比5.20%増と、前月の同4.92%増から加速し、4か月ぶりに5%台にのった。前月比で見ても0.50%増と足元の上昇率も前月の同0.15%増から加速している。今回のインフレ圧力の上昇は主に食品・飲料品の価格上昇が寄与しているが、コアベースでみても僅かではあるものの、伸びが拡大していることから、徐々に賃金上昇などを企業側が最終製品に転嫁し始めている影響が出ているのかもしれない。実際に消費者物価の先行指標である生産者物価(IPA-DI)も上昇している。また、通貨安による輸入価格の上昇もインフレという観点からすると悪影響を及ぼしている可能性がある。
以上のことを全て勘案し、利下げサイクルはそろそろ一巡し、次第に金融緩和の方針にも変化が出始めると考える。冒頭でも書いたとおり、まだ利下げの余地は残っており、可能性としてもゼロではないと考えるため、この瞬間がレアルの底だとは考えていない。しかし、1年以上にわたる追加利下げと同国通貨の下落にはそろそろ歯止めがかかり始めると想定しており、再び投資対象のカバレッジにレアルを戻し始めても良い時期は来たと考える。