先週は大手小売企業の決算で人件費や物流費の上昇による利益率の悪化がネガティブサプライズとなって週半ばから大幅に反落、S&P500指数は7週連続の下落を記録しました。今週の株価材料として、企業業績の修正動向、中国の新型コロナ対応、米中の経済指標、などが注目されます。
米銀大手バンク・オブ・アメリカが提唱する「FAANG2.0」の各注目分野から、エクソン モービル(XOM)、ニュートリエン(NTR)、ロッキード マーチン(LMT)、カメコ(CCJ)、ニューモント(NEM) を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
5月に入って市場の焦点は、「インフレ高進、金利上昇を受けたPER調整」から「経済、企業業績に対する懸念」にシフト、下落基調が続いています。一方、株価は長期の上昇トレンドまで回帰しているとみられます(本文をご参照ください)。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 1.1% | 6.7% | 20.9% |
ヘルスケア | 0.9% | -3.0% | 2.6% |
公益事業 | 0.4% | -3.9% | 10.2% |
素材 | -0.1% | -3.9% | 0.9% |
不動産 | -1.8% | -14.3% | -3.8% |
金融 | -1.8% | -9.1% | -14.2% |
コミュニケーションサービス | -3.0% | -6.1% | -12.9% |
S&P500 | -3.0% | -8.7% | -7.7% |
資本財・サービス | -3.7% | -9.0% | -6.2% |
情報技術 | -3.8% | -8.9% | -11.4% |
一般消費財・サービス | -7.4% | -20.4% | -17.2% |
生活必需品 | -8.6% | -11.5% | -6.1% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
ファイザー | 5.1% |
アメリカン・タワー | 5.0% |
シティグループ | 4.4% |
メルク | 3.5% |
エクソンモービル | 3.4% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ターゲット | -29.3% |
ウォルマート | -19.5% |
コストコホールセール | -16.3% |
テスラ | -13.7% |
クラフト・ハインツ | -13.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
5/16(月)、5/17(火)は、(1)米4月小売売上高、鉱工業生産の堅調、(2)中国の新型コロナにともなう行動制限が緩和される可能性、などを背景に反発基調となりました。
一方、5/17(火)に決算発表のウォルマートが利益率縮小を理由に利益予想を下方修正したのに続き、5/18(水)に発表のターゲットも通期の営業利益率見通しを下方修正したことから、利益率縮小は業界全体のトレンドと判明、5/18(水)の米国市場は大幅反落、終値ベースの年初来安値を更新しました。
5/19(木)は押し目買いで前日比プラスに浮上する場面もありましたが、経済・企業利益の先行きに対する懸念は根強く、2日連続で年初来安値を更新しました。5/20(金)も不安定な相場が続き、日中取引の年初来安値を更新しています。
S&P500指数は週間で3.0%、NYダウは2.9%、ナスダック指数は3.8%の下落でした。S&P500指数は、4/4(月)に始まる週から7週連続の下落となっています。
業種指数では、原油価格の堅調を受けて「エネルギー」が上昇したほか、ディフェンシブの「ヘルスケア」「公益事業」がプラスの一方、「生活必需品」「一般消費財・サービス」の消費関連が大幅な下落となりました。上昇率トップのファイザー(PFE)は、新型コロナ関連の売上増で業績が拡大する中、大幅に増えたキャッシュを使って偏頭痛治療薬をもつバイオヘブンの買収を発表しています。
経済指標では、4月小売売上高が前月比0.9%増(市場予想は同1.1%増)、4月鉱工業生産が同1.1%増(市場予想は同0.5%増)と堅調となった一方、5月のニューヨーク連銀およびフィラデルフィア連銀の製造業景気指数が前月から大幅に悪化して、今後の製造業景気の悪化を示唆しました。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、企業業績の修正動向、FOMC議事要旨と物価指標、中国市場の動向、などが注目されます。米国株式市場の焦点は、5月に入って「インフレ高進、金利上昇を受けたPER調整」から「経済、企業業績に対する懸念」にシフトしたとみられます。このため、相場の本格的な反発には、経済、企業業績の悪化の程度が見えてくる必要があるでしょう。
S&P500指数の予想EPSが上方修正基調に回帰できるか、引き続き注目されるでしょう。先週はターゲット、ウォルマートの決算が小売企業の利益率悪化を示したため、今週発表のコストコホールセール、ベストバイ、ダラーゼネラルなども注目を集めるでしょう。また、エヌビディアの決算は高成長のテクノロジー株への波及が想定されます。
市場の注目は、インフレおよび政策金利の引き上げからやや離れているとは言え、FOMC議事要旨(5月3日、4日開催分)とFRBが重視する4月の個人消費支出物価指数には引き続き要注目でしょう。FOMC議事要旨では、経済が想定どおり展開した場合の6月、7月会合での各0.5%の利上げを含め、今後の引き締め計画を確認することになるでしょう。
また、5/27(金)に発表の4月個人消費支出物価指数は前年比4.9%増の予想で前月の同5.2%増から低下の見込みです。消費者物価指数、生産者物価指数の結果と合わせて、インフレピークアウトが確認されれば、株式相場にポジティブと考えられます。
中国では大きな規模ではないながら断続的に景気支援策がでてきており、新型コロナの新規感染者数が減少傾向にあるため、行動制限の緩和の期待もあります。中国経済に対する懸念が後退すれば、相場の下支えとして期待できるでしょう。
経済指標では、5/24(火)に米国の4月新築住宅販売件数(前月比1.1%減の予想)、5/25(水)に米国の4月耐久財受注(前月比0.6%増の予想)、5/26(木)に米国の1-3月期実質GDP改定値(前期比年率1.3%減の予想、速報値は同1.4%減)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、ズームビデオコミュニケーションズ、エヌビディア、コストコホールセール、アルタビューティ、ダラーゼネラルなどの決算発表が予定されています。
長期トレンドまで調整したS&P500指数
年初来の米国市場の調整は、新型コロナのパンデミックによって引き起こされた様々な「歪み」(異次元の金融緩和、緊急財政支援、インターネットへの依存、モノに対する需要集中)からの巻き戻しの結果と捉えることができるでしょう。
そこで「歪み」が発生する前の2019年末の株価を基準に、S&P500指数の過去30年間(1989年〜2019年)の年平均上昇率である7.7%を使って、2020年末、2021年末、2022年末の長期トレンドからみた「妥当株価」を計算してみたのが図表3です。
これをみると、2020年、2021年に長期トレンドから大きく上方乖離した株価が、現在は長期トレンドまで回帰していることが確認できます。もちろん、市場は短期的には「オーバーシュート」(行き過ぎる)するのが常ですので、相場下落がここで止まる保証にはなりません。
しかし、長期のトレンドまで回帰していることから、ここからの下げは中長期の投資であればリターンが期待できる水準と言えるのではないでしょうか。押し目を買うスタンスが妥当な水準まで調整が進んだと言えそうです。
今週の5銘柄
米国株式市場は不安定な状態が続いており、短期的には主力銘柄の押し目買いにはまだ早いのかもしれません。
そのような環境下、5/20(金)付日経新聞の「いつまで続くか個人投資家の売り(NY特急便)」で「インフレ圧力の拡大と景気見通しの悪化は、株式相場を動かす主役の顔ぶれの交代も促しつつある」する記事が目に留まりました。
同記事は「FAANG2.0――。米銀大手バンク・オブ・アメリカは顧客向けに株式相場押し上げの主役が、米主要ハイテク企業5社のフェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグルから、次世代のFAANGに移行したという議論を展開した。それを構成するのは、燃料(Fuels)、航空・防衛(Aerospace and defense)、農業(Agriculture)、原子力・再生エネルギー(Nuclear and renewables)、貴金属・鉱物(Gold and metals/minerals)だ。」
今回はこれに沿って、銘柄をご紹介いたします。燃料(Fuels)からはエクソン モービル(XOM)、航空・防衛(Aerospace and defense)からは軍用機のロッキード マーチン(LMT)、農業(Agriculture)からは肥料のニュートリエン(NTR)、原子力・再生エネルギー(Nuclear and renewables)からはウラン生産のカメコ(CCJ)、貴金属・鉱物(Gold and metals/minerals)からは産金大手のニューモント(NEM)、を選んで今週の5銘柄といたします。
図表3 S&P500指数は長期の上昇トレンドまで調整している
注:2019年末の株価を基準に、年7.7%上昇した場合の各年末の株価水準です。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (5/20) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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エクソン モービル(XOM) | 91.86ドル | 9.3 | 【総合エネルギーの最大手】 ・原油・天然ガスの探鉱及び生産、石油製品・石油化学製品の製造等を行う総合エネルギーの最大手です。EU諸国がエネルギーのロシア依存を低下させる意向を示したことから、原油価格の上昇傾向が続くと見込まれ、恩恵が期待されます。また、当社が権益を持っている中南米のガイアナ沖鉱区では過去10年で最大級の石油鉱床が発見されており、長期的な成長ドライバーになる可能性として注目されています。 ・2022年1-3月期決算は調整後EPSが前年同期月3.2倍になりましたが市場予想は下回りました。調整後セグメント利益を見ると、上流がエネルギー高の恩恵で同3倍、下流が精製マージン向上等で黒字転換、化学はメンテナンスコスト等の影響で同4%減でした。自社株買い計画を従来の100億ドルから最大300億ドルへ拡大すると発表しています。 | ||
ニュートリエン(NTR) | 97.02ドル | 5.5 | 【カナダ本拠の肥料世界最大手】 ・ 2018年にポタシュとアグリウムが合併してできた肥料の世界最大手で、本拠地はカナダです。肥料の三要素をいずれも扱い、カリ肥料で世界トップ、窒素肥料で世界3位です。売上全体では肥料が62%を占めます。世界的な肥料の供給不足懸念に対して、3/16(水)にカリ肥料の増産を発表、2022年の生産量は2020年比20%増、この間の世界の供給増の約70%を占める見込みとしています。 ・2022年12月期についてCEOは、「世界の農業および農業投入物(種子、肥料、農薬など)の市場見通しは非常に強く、当社は2022年に大きな利益およびキャッシュフローの増加を達成できるポジションにある。」とコメントしています。2022年12月期の調整後EBITDA(利払い、税金、償却前利益)は100〜112億ドル(前年比40〜57%増)、調整後EPSは10.2〜11.8ドル(同64〜89%増)を見込んでいます。 | ||
ロッキード マーチン(LMT) | 424.15ドル | 5.5 | 【米国最大の軍用機メーカー】 ・軍事機・宇宙関連機器の大手メーカーです。2021年の売上構成比は、航空機部門(F-35、F-16などの戦闘機)が40%、ロータリー・ミッションシステム部門(ヘリコプターなど)が25%、宇宙システム部門が18%、ミサイル・火器制御部門が17%です。米国政府を中心に約30ヵ国と取引があり、海外売上は27.5%を占めます(2021年)。 ・軍需関連の売上が世界最大であり、また、同売上構成比も89%に達することから、米国および世界の軍事費が増加する場合にその恩恵を受ける確度が高く、代表的な軍需銘柄です。2021年12月期の業績は、F-35戦闘機や軍用ヘリコプターの需要増で売上・営業利益とも前年比3%増と堅調です。2022年12月期の業績ガイダンスは、売上が約660億ドル(前年比2%減)、調整後EPSが26.7ドル(前年比10%増)です。 | ||
カメコ(CCJ) | 23.46ドル | 143.4 | 【原子力発電に使用されるウラン生産の最大手】 ・ウランの探鉱、開発、採掘、製錬、転換、成形を手掛けるカナダの会社で世界的な最大手です。北米を中心に中央アジア、オーストラリアでも採掘事業を展開、年間30百万ポンド以上の生産能力と464百万ポンドの確認埋蔵量を保有しています。「脱ロシア」「脱炭素」を両立するために、原子力エネルギーに対する需要は拡大することが見込まれ、その燃料であるウランを生産する同社には、中長期に恩恵が期待できるでしょう。 ・世界的に原子力発電の見直しが続いたことから2013年から2021年まで8年連続で減収、利益も減少傾向が続き、2021年の営業利益は2013年の14%の水準まで落ち込みました。しかし、ウラン価格の上昇を受けて四半期ベースでは2021年1-3月期を底に増収傾向に転じています。2022年1-3月期は、ウランの平均販売価格が前年同期比34%上昇したことで、売上は398百万ドルで前年同期比37%増、純利益は40百万ドルで黒字転換しています。2022年12月期の売上ガイダンスはウラン価格の上昇継続を受けて17.3〜18.8億ドル(前年は12.7億ドル)に上方修正されています。 | ||
ニューモント(NEM) | 67.19ドル | 20.7 | 【世界最大級の産金会社】 ・19年1月にカナダのゴールドコープを買収してできた世界最大級の産金会社です。中核の北米主力鉱山のほか、豪州、ガーナ、南米に拠点を展開しています。金価格はロシアのウクライナ侵攻を受けて1トロイオンス2,000ドル超まで上昇しましたが、その後米10年国債利回りが急上昇したことで同1,800ドルまで下落しました。長期金利の上昇が一服となる一方、景気の先行きに対する懸念が高まっているため、金価格は安全資産として堅調な値動きとなる期待があるでしょう。 ・1-3月期の業績は、売上が前年同期比5%増ながら営業費用が同10%増となったため、EPSは同20%減と低調でした。金の平均販売価格は前年同期比8%増の一方、金生産量が8%減少し、増収は銅など副産物の増収によります。通年の金産出量6.2百万トロイオンスの見通しは維持する一方、直接操業コストの見通しを5%引き上げています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
23(月) | ・ドイツIFO企業景況感(5月) ・シカゴ連銀全米活動指数(4月) ・auじぶん銀行日本製造業PMI(5月) |
ズームビデオコミュニケーションズ |
24(火) | ・S&Pグローバルユーロ圏製造業PMI(5月) ・S&Pグローバル米国製造業PMI(5月) ・米新築住宅販売件数(4月) |
ベストバイ、ラルフローレン |
25(水) | ・米耐久財受注(4月) ・FOMC議事録(5月3日、4日開催分) |
・ツイッターの年次株主総会 (同社に対してイーロン・マスク氏が買収計画を表明している) ・アマゾンの年次株主総会 (1対20の株式分割が提案されている) エヌビディア |
26(木) | ・米実質GDP(1-3月期、改定値) ・米新規失業保険申請件数(5月21日に終わる週) ・米中古住宅販売成約(4月) |
アリババグループ、コストコホールセール ダラーゼネラル、ダラーツリー、アルタビューティ |
27(金) | ・中国工業部門利益(4月) ・米個人所得・個人支出(4月) ・米個人消費支出物価指数(4月) ・ミシガン大学消費者マインド(5月、確報値) |
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30(月) | ・米国休場(メモリアルデー) ・日本鉱工業生産(4月) ・中国製造業・非製造業PMI(5月) ・ユーロ圏景況感(5月) |
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31(火) | ・中国財新製造業PMI(5月) ・S&Pコアロジック住宅価格指数(3月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(5月) |
セールスフォースドットコム、ニオ(E) |
6月 1(水) |
・米ISM製造業景気指数(5月) ・米求人労働異動調査(4月) ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) |
シースリーエーアイ |
2(木) | ・米ADP雇用統計(5月) ・米新規失業保険申請件数(5月28日に終わる週) ・米製造業受注(4月) |
クラウドストライクホールディングス、ブロードコム |
3(金) | ・ユーロ圏小売売上高(4月) ・米雇用統計(5月) ・米ISM非製造業景気指数(5月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。 ※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成