先週は個人消費支出(PCE)物価指数の一段の上昇のほか、中国のロックダウンによる景気への懸念、アマゾン、アップルの失望決算など悪材料が重なってS&P500指数は4週連続の下落となりました。今週の株価材料として、FOMC(米連邦公開市場委員会)、米国の経済指標、ウクライナ情勢、などが注目されます。
今回は先週に好決算を発表した銘柄から、マイクロソフト(MSFT)、クアルコム(QCOM)、ビザ A(V)、コカ-コーラ(KO)、メタ プラットフォームズ A(FB)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
様々な悪材料が重なって筆者の想定を上回る下落となり、終値ベースで2月、3月に付けた安値を下回りました。それでも悪材料の織り込みが進んだことで、今年は「SELL IN MAY」ではなく「BUY IN MAY」となる可能性が高まってきたのではないでしょうか。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
素材 | -0.8% | -4.6% | -1.2% |
情報技術 | -1.3% | -11.2% | -13.8% |
エネルギー | -1.3% | -2.5% | 9.5% |
生活必需品 | -2.1% | 1.1% | 1.2% |
ヘルスケア | -2.5% | -5.6% | -2.3% |
S&P500 | -3.3% | -9.1% | -10.0% |
資本財・サービス | -3.3% | -6.9% | -7.5% |
コミュニケーションサービス | -4.1% | -16.5% | -24.3% |
公益事業 | -4.1% | -5.7% | 2.7% |
金融 | -4.6% | -9.8% | -13.5% |
不動産 | -5.7% | -5.6% | -2.8% |
一般消費財・サービス | -7.9% | -13.2% | -12.6% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
メタ・プラットフォームズ | 8.9% |
クアルコム | 5.2% |
メルク | 4.8% |
イーライリリー | 4.8% |
マスターカード | 3.5% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ゼネラル・エレクトリック(GE) | -16.3% |
チャーター・コミュニケーションズ | -16.2% |
ボーイング | -15.9% |
アマゾン・ドット・コム | -13.9% |
テスラ | -13.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
4/25(月)はFRBによる積極的な利上げ姿勢を嫌気する流れが続いて前日比マイナスで推移していましたが、テスラのマスクCEOによるツイッターの買収合意を受けてナスダック指数主導で反発に転じました。
4/26(火)は中国のロックダウンや市場で織り込まれる急速な利上げが景気鈍化懸念につながって大幅安となりました。S&P500指数は前日比2.8%安、ナスダック指数は同4.0%下落しました。景気懸念を受けて米10年国債利回りは2.9%台から2.8%台に低下、原油価格(WTI先物価格)も大幅に下落しました。
4/27(水)は堅調な売上高見通しを示したマイクロソフト、パンデミックからの回復が続くビザなどが主導してS&P500指数は前日比1.6%高の場面がありましたが、売り圧力も強く小幅高で引けました。
4/28(木)はメタプラットフォームズがデイリーアクティブユーザー数が市場予想を上回る増加となって大幅高となったことで幅広い銘柄に買い戻しを誘ったとみられ、株式は大幅反発となりました。1-3月期実質GDPが予想外のマイナス成長となりましたが、内容はさほど懸念するものではないと捉えられました。
一方、4/29(金)は、アマゾンドットコムが赤字転落を受けて大幅安となったほか、アップルの売上見通しも冴えないことから、企業業績への懸念が高まり大幅反落となりました。また、FRBが重視するとされる個人消費支出(PCE)物価指数も前月から伸びが高まりました。
S&P500指数は週間で3.3%、NYダウは2.5%、ナスダック指数は3.9%の大幅続落でした。
業種指数では全業種が下落となり、アマゾンやテスラの下落が効いた「一般消費財・サービス」の下げが最もきつくなっています。また、配当利回りの高さからこれまで相対的に堅調となっていた「不動産」「公益事業」が大きく下げたことも目立っています。一方、「情報技術」は意外に下げが小さくなっています。
個別銘柄では、決算発表を受けたアマゾン ドットコム(AMZN)の下げが目立ちました。1-3月期決算は、ネット通販の売上が前年同期比3%減となり、リビアン株の評価損で大幅な赤字に転落しました。4-6月期の売上が前年同期比3〜7%増にとどまり、営業利益は10億ドルの赤字〜30億ドルの黒字(前年同期は77億ドルの黒字)とするガイダンスが嫌気され、4/29(金)に14%の下落となりました。
経済指標では、米国の1-3月期実質GDPが前期比年率1.4%減と10-12月期の同6.9%増から大幅に減速、市場予想の同1.1%増も下回りました。予想外の収縮となりましたが、旺盛な内需を背景とした輸入の急増、在庫投資の減速が主因で、個人消費、企業の投資は堅調なため、経済の実態は強いというのが市場の見方です。
3月の個人消費支出(PCE)物価指数は、前月の前年比6.3%増から同6.6%増に加速の一方、コア指数は前月の5.3%増から同5.2%増に減速しました。指数全体では加速が続くものの、コア指数には鈍化の兆しがみられ、3月の消費者物価指数(CPI)と同様の傾向を示しました。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、FOMC(米連邦公開市場委員会)、米国の経済指標、ウクライナ情勢、などが注目されます。S&P500指数の予想PERは2022年予想EPS(230.09ポイント)基準で18.0倍、2023年予想EPS(251.57ポイント)基準で16.4倍、両年の平均を基準に17.2倍まで調整しています。FOMCを無難に通過できれば、反発が期待できるタイミングを迎えているのではないでしょうか。
今回のFOMCでは、0.5%ポイントの政策金利引き上げと量的引き締め(QT)開始の決定が予想されています。FF金利先物市場から計算される政策金利の市場予想では、7月27日のFOMC時点で1.95%と、0.5%上げが3回+αまで予想されています(図表3)。
これは複数の金融当局者が0.5%ポイントの利上げを複数回行うべきだと発言、さらにパウエルFRB議長が「利上げはフロントローディング(最初に重点的に行う)が良い」と発言したことで利上げの織り込みが進んだ結果です。
このような状況を考えると、今回のFOMCで0.5%ポイントの利上げがあったとしても株式市場がネガティブサプライズと捉える可能性は小さそうです。むしろ、重要なイベントが通過したと捉えられ、1-3月期決算の好調銘柄が改めて買い直されると想定できそうです。
米国の経済指標については、4月雇用者統計の非農業部門雇用者数はやや鈍化するものの、堅調な雇用増加を示すと見込まれています。また、企業景況感も製造業、非製造業とも前月からの若干の改善が見込まれていることから、相場を支える要因と期待できそうです。
ウクライナ情勢は、ロシア軍が戦力を集中させているウクライナ東部ドンバス地方の戦線では膠着状態になりつつあると報じられています。米英の国防当局はウクライナ軍の抵抗に加えてロシア軍の士気低下により進軍が遅れているとの見方が示されています。ロシアは5月9日の対独戦勝記念日までに今回の侵攻による成果を示す欲求があるとされ、当面は戦闘の激化が懸念されます。
1-3月期の決算発表は、主要銘柄については先週でピークを越えました。S&P500指数採用銘柄の1-3月期予想EPS(発表済み企業の実績と今後発表される企業の予想の混合)は、前年同期比7.1%増が予想されています(FactSet社の集計、4/29(金)時点)。3月末時点では同4.7%増、4/22(金)時点では同6.6%増が予想されていましたので、発表された決算は全体としては市場予想を上回ってきたことが確認できます。
さらに、保有株式の評価損を主因に38.4億ドルの純損失を計上したアマゾンを除くと同EPS増加率は10.1%増と試算されています。企業決算は、引き続きマクロ環境の変化に揺れる株式市場の下支えの役割が期待されます。
経済指標では、5/2(月)に米国の4月ISM製造業景気指数(前月の57.1から57.6に改善の予想)、5/3(火)に米国の3月製造業受注(前月比1.2%増の予想)、5/4(水)に米国の4月ADP雇用統計(前月比39.5万人増の予想)、米国の4月ISM非製造業景気指数(前月の58.3から58.5に改善の予想)、5/6(金)に米雇用統計(非農業部門雇用者数は前月比39万人増の予想)などの発表が予定されています。
企業イベントでは、モザイク、ファイザー、AMD、スターバックス、モデルナ、ブッキングホールディングス、ブロック(旧スクエア)、ロイヤルティファーマ、バージンギャラクティックホールディングス、などの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は先週に好決算を発表した銘柄から、マイクロソフト(MSFT)、クアルコム(QCOM)、ビザ A(V)、コカ-コーラ(KO)、メタ プラットフォームズ A(FB)を選んでご紹介いたします。
図表3 市場が織り込むFRB政策金利の推移
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 1-3月期決算の概要
銘柄(コード) | 前年同期比成長率 | 事前予想比サプライズ | ||
売上増加率 (%) |
EPS増加率 (%) |
売上増加率 (%) |
EPS増加率 (%) |
|
マイクロソフト(MSFT) | 18.4 | 13.9 | 0.7 | 1.4 |
クアルコム(QCOM) | 40.8 | 69.0 | 5.3 | 9.5 |
ビザ A(V) | 16.4 | 16.4 | 6.8 | 10.1 |
コカ-コーラ(KO) | 25.7 | 29.7 | 4.9 | 7.2 |
メタ プラットフォームズ A(FB) | 6.6 | -17.6 | -1.2 | 6.1 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (4/29) |
予想PER (倍) |
ポイント |
---|---|---|---|---|---|
マイクロソフト(MSFT) | 277.52ドル | 25.8 | 【クラウドサービスがけん引】 ・1-3月期決算は、売上が前年同期比18%増、調整後EPSが同14%増で、いずれも市場予想を上回る好決算でした。部門別の売上は、インテリジェントクラウドが前年同期比26%増、プロダクティビティ&ビジネスプロセスが同17%増、モアパーソナルコンピューティングが同11%増で、いずれも市場予想を上回りました。 ・成長をけん引しているアジュールおよびクラウドサービスの売上は同46%増と10-12月期と同レベルの伸びを確保、為替の影響を除くベースでは同49%増と加速しました。一方、4-6月期のガイダンスは為替の影響を除くベースで同47%増と、1-3月期から2%ポイント減速のガイダンスを示していますが、高水準持続と言ってよいでしょう。IBM、アルファベット、同社の決算動向から企業のIT投資が活発であることが確認されており、物色の中心テーマになると期待できそうです。 | ||
クアルコム(QCOM) | 139.69ドル | 11.3 | 【5Gスマホの普及を受けて業績拡大】 ・ 1-3月期決算は、5Gスマホの普及を背景に売上が前年同期比41%増、調整後EPSが同69%増で、市場予想に対してもそれぞれ5%、10%上回る好決算でした。部門別の売上は、QCT部門(半導体製造)が前年同期比52%増の一方、スマホの販売数に連動しやすいQCL部門(通信規格のライセンス料)が同2%減でした。 ・QCT部門の製品別には、主力のスマホが同56%増のほか、高周波部品が同28%増、自動車が同41%増、IoTが同61%増でした。会社は「スマホへの依存を減らす事業の“トランスフォーメーション”が順調に進んでいる」とコメント、中期的の成長にも期待できるでしょう。4-6月期のガイダンスは、売上が105〜113億ドル(市場予想は99.7億ドル)、EPSは2.75〜2.95ドル(市場予想は2.60ドル)として、いずれも市場予想平均を大きく上回りました。 | ||
ビザ A(V) | 213.13ドル | 29.7 | 【パンデミックからの回復が順調】 ・ 1-3月期決算は売上が前年同期比25%増、EPSが同30%増と好調でした。会社はオミクロン株の影響は短期にとどまり、昨年央から始まった世界的な経済回復の動きが継続したとコメントしています。米国のカード決済額をパンデミックによる凸凹を排除する目的で2019年実績と比較すると、2022年3月、4月1日〜21日とも30%台後半の伸びとなっています。政府による財政支援の剥落などの要因で伸び率は徐々に鈍化しつつありますが、カード利用の基調は強いとみられます。 ・株式市場では新興フィンテック企業による新たな支払い手段の普及がビザやマスターカードが提供する電子決済ネットワークをどの程度侵食するか注視していますが、いまのところ大きな影響は出ていないようです。また、新たな決済手段の成長機会に参画するため、スウェーデンの新興フィンテック企業「Tink」(オープン・バンキング・ネットワークの企業)を3月に買収するなど対応を進めています。 | ||
コカ-コーラ(KO) | 64.61ドル | 26.2 | 【パンデミックの影響から徐々に回復】 ・ 1-3月期は売上が前年比16%増、オーガニック売上成長が同18%増(内訳は価格/製品ミックスが同7%増、販売数量が同11%増)、調整後EPSは同16%増と好調でした。地域別の売上は、欧州・中東・アフリカが同22%増、南米が同39%増とけん引、北米も同14%増でした。 ・会社は販売数量の拡大はパンデミックからのシクリカルな回復だけでなく、継続的な投資が背景にあるとコメントしています。ノンアルコールパッケージ飲料の市場シェア(金額ベース)は、家庭内市場、家庭外市場とも拡大が続いています。同社は2018年には英コーヒーチェーンの「Costa」を買収、2021年11月にはスポーツドリンクの「ボディアーマー」の所有比率を100%に引き上げ、成長性が低下している炭酸飲料への依存引き下げを進めています。 | ||
メタ プラットフォームズ A(FB) | 200.47ドル | 14.6 | 【懸念されていたユーザー数が予想以上に拡大】 ・1-3月期の決算は売上が前年同期比7%増と市場予想を1%下回ったものの、同18%減となったEPSは市場予想を6%上回りました。前回決算で減少して懸念が高まった「Facebook」のデイリーアクティブユーザー数が19.6億人と10-12月期末の19.3億人から増加、市場予想の19.5億人も上回って好感されました。 ・4-6月期の売上ガイダンスは280〜300億ドルと、市場予想の307.4億ドルを下回りました。ウクライナ侵攻と時期を同じくして1-3月期の後半から売上が軟調となっており、このトレンドが継続すると想定されています。一方、通期の総費用が従来予想の900億〜950億ドルから870億〜920億ドルへと引き下げられたことは好感されました。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、マイクロソフトが2023年6月期、クアルコム、ビザが2022年9月期、その他は2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
5月 2(月) |
・米ISM製造業景気指数(4月) | ダイヤモンドバックエナジー、モザイク |
3(火) | ・米製造業受注(3月) ・米求人労働異動調査(3月) ・米自動車販売台数(4月) |
ファイザー、AMD、BP、エアビーアンドビー スターバックス、エスティローダー |
4(水) | ・米ADP雇用統計(4月) ・米貿易統計(3月) ・米ISM非製造業景気指数(4月) ・米FOMC政策金利 |
モデルナ、パイオニアナチュラルリソーシズ、アルベマール コンチネンタルリソーシズ、ブッキングホールディングス マリオットインターナショナル、CFインダストリーズ |
5(木) | ・OPECプラス閣僚級会合(オンライン) ・米新規失業保険申請件数(4月30日に終わる週) |
ブロック(旧スクエア)、ロイヤルティファーマ バージンギャラクティックホールディングス ブラジル石油公社 |
6(金) | ・米雇用統計(4月) ・米消費者信用残高(3月) |
ビヨンドミート |
8(日) | ・香港行政長官選挙 | |
9(月) | ・ロシア対独戦勝記念日 | パランティアテクノロジーズ、アップスタートホールディングス |
10(火) | ・NFIB中小企業楽観指数(4月) | ユニティソフトウェア、コインベース |
11(水) | ・米消費者物価指数(4月) | ウォルトディズニー、マルケタ、リビアンオートモーティブ フレックス |
12(木) | ・米生産者物価指数(4月) ・米新規失業保険申請件数(5月7日に終わる週) |
アファームホールディングス |
13(金) | ・米輸入物価指数(4月) ・ミシガン大学消費者マインド(5月、速報値) |
アリババグループ |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成