先週は公表されたFOMC議事要旨によってFRBのタカ派姿勢が確認され、米10年国債利回りが一段と上昇、株式はテクノロジー株、景気敏感株が主導して下落しました。今週の株価材料として、ウクライナ情勢、米国の物価指標、1-3月期決算発表の開始、などが注目されます。
今回は先週に52週高値を更新した銘柄群から、ユナイテッドヘルス グループ(UNH)、ジョンソン & ジョンソン(JNJ)、 ウォルマート インク(WMT)、コカ-コーラ(KO)、コストコ ホールセール(COST)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
一目均衡表の「雲」上限が下値を支持しているようです。ただ、インフレ高進、長期金利上昇など不安定な投資環境から考えて、基準線程度までの調整はあるかもしれません。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
ヘルスケア | 3.4% | 11.0% | 4.3% |
エネルギー | 3.2% | 4.3% | 25.6% |
生活必需品 | 2.7% | 10.6% | 2.8% |
公益事業 | 1.9% | 9.9% | 11.0% |
不動産 | 0.8% | 8.4% | 1.5% |
素材 | -0.8% | 8.4% | -1.1% |
金融 | -1.0% | 4.3% | -8.5% |
S&P500 | -1.3% | 6.8% | -4.8% |
資本財・サービス | -2.6% | 1.9% | -6.1% |
コミュニケーションサービス | -2.7% | 5.1% | -12.3% |
一般消費財・サービス | -3.3% | 7.8% | -10.0% |
情報技術 | -4.0% | 6.1% | -9.3% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
ターゲット | 10.8% |
アッウ゛ィ | 7.5% |
ファイザー | 7.0% |
ユナイテッドヘルス・グループ | 6.5% |
イーライリリー | 6.5% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
エヌビディア | -13.5% |
スターバックス | -10.9% |
フォード・モーター | -9.6% |
フェデックス | -8.9% |
ブッキング・ホールディングス | -8.5% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
4/4(月)はロシア軍による民間人殺害を受けて経済制裁の強化が懸念され、原油価格が大幅に反発しました。一方、株式はテスラ株の上昇やマスク氏による株式取得に刺激されたツイッター株の大幅上昇を受けてナスダック指数主導で上昇しました。
4/5(火)はFRBのブレイナード理事のタカ派発言を受けて米10年国債利回りが上昇、株式は大幅に反落しました。ブレイナード氏は、利上げを着実に実施する一方、5月にもバランスシート縮小を始め、前回の縮小時よりも早いスピードで進める意向だと発言しました。
4/6(水)はFOMC議事要旨で、FRBのタカ派姿勢が確認されて続落、0.5%の利上げを1回ないし複数回行うことが議論されたと判明しました。一方、原油価格(WTI先物価格)は国際エネルギー機関(IEA)が加盟国で調整して石油備蓄を放出すると発表、1バレル100ドルを割り込みました。4/7(木)はディフェンシブセクターが買われて小幅に反発、4/8(金)は米10年国債利回りが続伸して2.7%台に乗せたことから、テクノロジー株主導で下落しました。
S&P500指数は週間で1.3%、NYダウは0.3%、ナスダック指数は3.9%の上昇でした。長期金利の上昇を受けてテクノロジー株、成長株を中心に売られました。
業種指数では、ディフェンシブの「ヘルスケア」「生活必需品」に対する物色が目立っています。一方、テクノロジー株を多く含む「情報技術」や景気敏感セクターが売られました。個別銘柄では、ターゲット(TGT)が騰落率トップでした。ディフェンシブ性のある小売銘柄として物色されたとみられます。同社は店舗の改装や品揃えの見直しなどの事業改革を受けて、ここ数年業績好調が続いています。
経済指標では、3月のISM非製造業景気指数が前月の56.5から58.3へ改善し、先々週に発表されたISM製造業景気指数が前月の58.6から57.1へ悪化したのとは対照的な結果となりました。新規受注と雇用が改善を主導しており、新型コロナの影響が後退していることがうかがえます。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、ウクライナ情勢、米国の物価指標、1-3月期決算発表の開始、などが注目されます。米10年国債利回りは先週2.7%台まで上昇、近いうちに2018年以来の3%台に到達する可能性もでてきたとみられます。これはS&P500指数の妥当PERの抑制につながると考えられ、当面は上値が重くなりそうです。
ウクライナ情勢は、ロシア軍はキーウ周辺からは後退する一方、ウクライナ東部のドンバス、ルガンスク地方に勢力を傾けるとみられています。停戦合意に対する機運は低下している模様で、戦闘の長期化が懸念されます。
米国の3月物価指標は生産者物価、消費者物価とも前年比伸び率の上昇が予想されています。予想通りの結果が出ると、FRBのタカ派姿勢を補強する材料となり、長期金利の上昇を刺激しやすく、株式には重石となりそうです。
1-3月期の決算発表は、4/13(水)にデルタ航空、JPモルガンチェースなどから始まります。FactSet社の集計(4月8日時点)によると、S&P500指数採用銘柄の1-3月期EPSは前年比4.5%増の予想です。
四半期予想EPSの前年比伸び率は年後半にかけて高まる予想となっており、2022年通年では前年比9.5%の増益が見込まれています。2022年通年のEPSは、過去3ヵ月で様々な悪材料が出た割に堅調に上方修正されています。
経済指標では、4/11(月)に中国の3月生産者物価指数(前年比8.1%増の予想、前月は同8.8%増)、同消費者物価指数(前年比1.4%増の予想、前月は同0.9%増)、4/12(火)に米国の3月消費者物価指数(前年比8.4%増の予想、前月は同7.9%増)、
4/13(水)に中国の3月貿易統計(輸出は前年比12.6%増の予想、前月は同20.9%増、輸入は前年比7.5%増の予想、前月は同19.5%増)、米国の3月生産者物価指数(前年比10.5%増の予想、前月は同10.0%増)、4/14(木)に米国の3月小売売上高(前月比0.5%増の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、デルタ航空、JPモルガンチェース、ブラックロック、台湾セミコンダクター、ユナイテッドヘルス、シティグループ、
ウェルズファーゴ、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー などの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回も先週号に続いて当社WEBサイトの「米国株スクリーナー」を使って、52週高値を更新している銘柄をご紹介いたします。
米10年国債利回りの上昇が続き、ウクライナ情勢では停戦合意への機運が低下、市場ではディフェンシブ銘柄の物色に傾いています。この流れに乗る銘柄群を抽出しようという意図です。スクリーニング条件は、先週号から若干変更し、対象を大型株に絞り、「予想売上成長率5%以上」の条件をはずしました。
【スクリーニング条件】
(1)過去5営業日に52週高値を更新している
(2)過去3ヵ月の株価騰落率がプラス
(3)25日移動平均乖離率がプラス
(4)大型株である
図表3に抽出された銘柄から、ユナイテッドヘルス グループ(UNH)、ジョンソン & ジョンソン(JNJ)、ウォルマート インク(WMT)、コカ-コーラ(KO)、コストコ ホールセール(COST) を選んでご紹介いたします。
図表3 52週高値更新銘柄(過去5営業日、時価総額順)
コード | 銘柄名 | 現在値 (4/8) (ドル) |
株価騰落率 (3ヵ月) (%) |
株価移動平均 乖離率(%) (25日) |
予想売上高 変化率 (%) |
UNH | ユナイテッドヘルス・グループ | 546.0 | 19.1 | 3.3 | 11.1 |
JNJ | ジョンソン・アンド・ジョンソン | 182.1 | 4.7 | 1.2 | 6.1 |
WMT | ウォルマート | 157.4 | 8.6 | 2.0 | 3.2 |
ABBV | アッヴィ | 175.0 | 29.7 | 3.8 | 7.4 |
LLY | イーライ・リリー・アンド・カン... | 311.7 | 20.1 | 3.2 | 0.1 |
KO | コカ・コーラ | 63.8 | 5.8 | 1.2 | 8.1 |
COST | コストコ・ホールセール | 600.0 | 11.9 | 1.9 | 12.9 |
AZN | アストラゼネカ | 71.1 | 23.8 | 3.1 | 16.1 |
NVO | ノボ・ノルディスク | 120.6 | 18.8 | 2.5 | 13.5 |
※当社WEBサイトの「米国株スクリーナー」をもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (4/8) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ユナイテッドヘルス グループ(UNH) | 545.96ドル | 25.3 | 【医療保険最大手、2022年ガイダンスを維持】 ・医療保険の最大手で、企業・政府機関・個人向けに各種医療保険・サービスを提供する「ユナイテッドヘルスケア」と薬剤給付管理など医療情報サービスを提供する「オプタム」が2本柱です。社会の高齢化から恩恵を受けており、安定成長を続けています。株式市場が不安定化するときには、事業のディフェンシブ性から注目を集めることが多く、NYダウの構成銘柄です。 ・10-12月期決算は、2事業とも10%以上の増収となって売上は全体で前年同期比13%増、調整後EPSは同78%増と好調でした。2022年12月期は、売上が3,170〜3,200億ドル(前年比10〜11%増)、調整後EPSが21.10〜21.60ドル(同11〜14%増)を見込んでいます。1-3月期決算の発表は、4/14(木)の予定です。 | ||
ジョンソン & ジョンソン(JNJ) | 182.12ドル | 17.3 | 【医薬品部門が好調】 ・世界最大級のヘルスケア企業。売上高の57%を占める医薬品部門のほか、同28%を占める医療機器部門、同15%を占める消費者部門を展開します。主力の医薬品部門の好調が続いており、株価はディフェンシブ性が評価されて、過去6ヵ月で11%上昇してS&P500指数を7%ポイントアウトパフォームしています。 ・10-12月期は売上が前年同期比10%増、調整後EPSが同18%増と好調です。部門別の売上は、「トレムフィア」「ダーザレックス」や新型コロナワクチン(16.2億ドル)などが伸びた医薬品部門が同17%増と伸びてけん引しました。2022年12月期は売上が前年比べる5.0〜6.0%増(新型コロナワクチンを除くベースで同5.5〜7.0%増)、調整後EPSは10.6〜10.8ドル、前年比8.2〜10.2%増のガイダンスです。 | ||
ウォルマート インク(WMT) | 157.41ドル | 23.0 | 【食品・日用品主体のディフェンシブな小売】 ・スーパーマーケットを主力とする世界最大の小売チェーンです。事業規模の大きさと低価格で提供する能力をテコに、インフレと不安定な経済の環境下で市場シェアを拡大できると期待されます。また、フリーデリバリーが受けられる年会費98ドルの「Walmart+」が成長のドライバーとして期待されています。 ・11-1月期の米国既存店売上は前年同期比5.6%増となり、前年同期が同8.6%増となってハードルが高くなっていましたが、好調が維持されました。Eコマースの売上は同1%増にとどまりましたが、2年前との比較では70%増となっています。サプライチェーンや新型コロナ関連の費用増をこなして、調整後営業利益も同5.9%増と堅調でした。 | ||
コカ-コーラ(KO) | 63.83ドル | 25.9 | 【新型コロナの影響が着実に解消されつつある】 ・レストランなどでの提供比率が高く、新型コロナの感染拡大で大きな影響を受けましたが、着実に回復しつつあります。食品のため景気動向が不安定なときには物色されやすい傾向があると考えられます。なお、3月初めにロシアでの事業停止を発表しています。ロシアとウクライナの2021年売上比率は約1〜2%としています。 ・10-12月期は売上が前年比10%増、オーガニック売上成長率が同9%増(内訳は価格/製品ミックスが同10%増、販売数量が同1%減)、調整後EPSは同5%減でした。営業日数の影響を調整した比較可能な営業利益率は前年同期の27.3%から22.1%に低下していますが、マーケティング投資を増やしたことが主因です。ノンアルコールパッケージ飲料の市場シェア(金額ベース)は、家庭内市場、家庭外市場とも前年から拡大し、2019年の水準を上回って好調です。 | ||
コストコ ホールセール(COST) | 600.04ドル | 45.7 | 【食品を中心とする小売でディフェンシブ】 ・米国および海外でホールセールクラブのチェーンを展開しています。食品および日用品が主体のため、事業はディフェンシブな性格をもち、現在のような相場環境では物色されやすいと考えられます。価格の安さとともに顧客を飽きさせない巧みな品揃えによって顧客の固い支持を獲得しています。世界的に厳しいとされる日本の小売市場で定着、拡大を続けていることから、事業の優秀さがうかがえます。 ・12-2月期の売上は前年同期比14.4%増、ガソリン価格の変動を除くベースで同11.1%増、EPSは同36%増と好調です。3月の月次売上が今週発表される見込みです。同社の顧客は買い物のついでにガソリンを入れることが多いため、ガソリン価格の上昇は売上・利益に恩恵をもたらす可能性があります。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、ウォルマートインクが2023年1月期、コストコホールセールが2022年8月期、そのほかは2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
11(月) | ・中国生産者・消費者物価指数(3月) ・日本工作機械受注(3月) ・米3年国債入札 |
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12(火) | ・ドイツZEW景気期待指数(4月) ・米NFIB中小企業楽観指数(3月) ・米消費者物価指数(3月) ・米10年国債入札 |
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13(水) | ・日本機械受注(2月) ・中国貿易統計(3月) ・ユーロ圏鉱工業生産(2月) ・米生産者物価指数(3月) ・米30年国債入札 |
デルタ航空、JPモルガンチェース、ブラックロック |
14(木) | ・ECB主要政策金利 ・米小売売上高(3月) ・米新規失業保険申請件数(4月9日に終わる週) ・米ミシガン大学消費者マインド(4月、速報値) |
台湾セミコンダクター、ユナイテッドヘルス、シティグループ ウェルズファーゴ、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー |
15(金) | ・米国休場(グッドフライデー) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(4月) ・米鉱工業生産(3月) |
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18(月) | ・中国実質GDP(1-3月期) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(3月) ・中国調査失業率(3月) ・米NAHB住宅市場指数(4月) |
バンクオブアメリカ |
19(火) | ・米住宅着工件数・建設許可件数(3月) | IBM、ジョンソン&ジョンソン、ロッキードマーチン ハリバートン |
20(水) | ・EU27ヵ国新車登録台数(3月) ・米中古住宅販売件数(3月) ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) |
テスラ、P&G、ネットフリックス、アボットラボラトリーズ ASMLホールディングス、ラムリサーチ、ベーカーヒューズ ユナイテッドエアラインズ |
21(木) | ・米フィラデルフィア連銀景気指数(4月) ・米新規失業保険申請件数(4月16日に終わる週) |
AT&T、ダウ、フィリップモリスインターナショナル ネクステラエナジー、ユニオンパシフィック ラスベガスサンズ |
22(金) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(4月) ・S&Pグローバルユーロ圏製造業PMI(4月) ・S&Pグローバル米国製造業PMI(4月) |
ベライゾンコミュニケーションズ、アメリカンエキスプレス アメリカン航空、シュルンベルジェ、ニューコア、ニューモント |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。 ※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成