先週前半は停戦合意への期待から株式市場は上昇を続けましたが、後半には同期待が後退したことをきっかけに利食いが優勢となって反落となりました。今週の株価材料として、ウクライナ情勢、原油価格の動向、FOMC議事要旨、などが注目されます。
今回は先週に52週高値を更新した株価堅調銘柄から、ユナイテッドヘルス グループ(UNH)、ジョンソン & ジョンソン(JNJ)、コストコ ホールセール(COST)、パロ アルト ネットワークス(PANW)、ペイチェックス(PAYX)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
不動産 | 4.4% | 5.7% | -3.7% |
公益事業 | 3.7% | 7.0% | 6.8% |
生活必需品 | 2.3% | 1.4% | -0.9% |
ヘルスケア | 1.2% | 4.3% | 0.2% |
一般消費財・サービス | 0.9% | 8.5% | -10.8% |
情報技術 | 0.1% | 6.3% | -8.6% |
S&P500 | 0.1% | 5.0% | -5.2% |
コミュニケーションサービス | -0.1% | 4.6% | -11.5% |
素材 | -0.3% | 7.5% | -1.7% |
資本財・サービス | -1.5% | 2.1% | -4.6% |
エネルギー | -2.4% | 3.0% | 30.2% |
金融 | -3.3% | 3.0% | -5.8% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
テスラ | 7.3% |
アメリカン・タワー | 6.8% |
アドビ | 6.2% |
ブッキング・ホールディングス | 5.3% |
ウォルマート | 5.3% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
シティグループ | -7.8% |
USバンコープ | -7.4% |
ウェルズ・ファーゴ | -7.3% |
インテル | -7.2% |
クアルコム | -7.0% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
3/28(月)は上海のロックダウンを受けて原油価格が大幅下落となる中、株式分割意向が伝わったテスラが大きく上昇したほか、テクノロジー株に対する買いが継続して上昇しました。3/29(火)はロシアとウクライナの停戦交渉の進展に期待が高まったうえ、ロシアがキーウ周辺での軍事活動を縮小意向と発表して4営業日続伸となりました。
一方、3/30(水)は停戦交渉に対する期待が後退したほか、前日に実現した米2年債利回りと米10年債利回りの逆転(「逆イールド」)が気にされた可能性もあり、5営業日ぶりに反落しました。3/31(木)は過去2週の株価上昇に対する利食いが優勢になったとみられ、続落しました。同日バイデン米大統領が戦略石油備蓄(SPR)から今後6カ月間で1日当たり100万バレルを放出すると発表して原油価格が大幅に下落しました。
4/1(金)は原油価格が続落となったことから、株式は小幅に反発しました。雇用統計の非農業部門雇用者数は前月比43.1万人増と、市場予想の同49万人増を下回りました。
S&P500指数は週間で0.1%の上昇、NYダウは0.1%の下落、ナスダック指数は0.7%の上昇でした。
業種指数では、配当利回りが高い「不動産」「公益事業」、ディフェンシブの「生活必需品」「ヘルスケア」が優位で、市場参加者の相場への警戒があらわれていそうです。個別銘柄では、3/28(月)に1対5の株式分割の意向を発表したテスラ(TSLA)、昨年来の株価調整が大きくなったテクノロジー株の代表ともいえるアドビ(ADBE)、停戦合意への期待を受けて反発したとみられるブッキング ホールディングス(BKNG)などの上昇が目立ちました。
経済指標では、2月の個人消費支出物価指数(コア)が前年比5.4%増と、前月の同5.2%増から加速しました。また、3月雇用統計の平均時給も前年比5.6%増と、前月の同5.2%増から大幅に上昇しました。FRBによる金融引き締めスタンスを補強するデータと言えるでしょう。
3月のISM製造業景気指数は、57.1と前月の58.6から悪化しました。先々週に発表された3月のS&Pグローバル製造業PMIが前月から改善となっていたことから、ISM製造業景気指数も59.0への改善が見込まれていましたが、実現しませんでした。価格、雇用の指数が改善の一方、新規受注が大きく悪化しており、景気判断にはマイナスです。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、ウクライナ情勢、原油価格の動向、FOMC議事要旨、などが注目されます。S&P500指数の予想PERは19.1倍で、筆者が想定する妥当レンジ18〜20倍の中庸な位置と考えられます。ウクライナ情勢次第で上にも下にも動き得るでしょう。
ウクライナ情勢は、3/29(火)開催の停戦協議でウクライナ側が(1)クリミアの返還については一時棚上げする、(2)NATO加盟を断念して周辺国による安全保障の仕組みを希望する、など従来の主張を和らげました。一方、ロシア側では首都キーウへの攻撃を縮小するとして、双方から停戦実現に向けて進展が期待される動きがありました。
しかし、ロシア軍はキーウ主要部から後退したものの、他の主要都市での攻撃は続けています。また、ウクライナは海外での債券発行によって戦費調達を検討するなど、停戦合意に対する市場の期待は引き続き揺れ動きそうです。
原油価格は上昇トレンドを維持するか、あるいはトレンドを下にブレークするか、重要なポイントにきているとみられます。バイデン大統領は3/31(木)に、(1)米国の戦略石油備蓄から今後6カ月間1日当たり100万バレルを放出し、(2)米エネルギー企業に価格上昇で得た利益から増産投資に振り向けるよう呼びかけ、(3)シェールオイルの既存の油井を稼働するインセンティブを設定する、などの原油価格抑制策を発表しました。
(1)については、ロシアの1日当たり原油生産量107万バレル(2020年実績)に近い水準でインパクトのある施策です。一方、(2)については増産するとしても実現するまでに時間がかかると考えられ、(3)は即効性はあるものの、量的にどれくらいに達するかはいまのところ不透明です。米国による価格抑制策は一旦出尽くしとみられますが、市場でどのように消化されていくか注目です。
3/15(火)、3/16(水)に開催された前回のFOMCでは、声明文が市場でタカ派的と捉えられて発表後に一時急落しました。その後パウエル議長の会見で柔軟な対応が期待されて株式相場を救った経緯があるため、会議でどのような議論が出ていたかについては、要注意です。また、今週はFOMCメンバーによる講演も複数予定されています。
経済指標では、4/4(月)に米国の2月製造業受注(前月比0.6%減の予想)、4/5(火)に米国の3月ISM非製造業景気指数(前回の56.5から58.4に改善の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、コンステレーションブランズ、アプティブなどの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
年初来のS&P500指数は、終値ベースで2021年末の4,766.18ポイントから3/8(火)に12.5%下落の4,170.70ポイントを付けた後、3/29(火)に2.8%下落の4,631.60ポイントまで回復して、戻り一巡感も出ているところだと思われます。
物色はウクライナ情勢次第で、成長株の押し目買いとロシア経済制裁関連(コモディティ、防衛、ディフェンシブ)のどちらとも決めかねる状況です。また、1-3月期決算の発表の開始を来週に控えて動きにくい時期でもあります。
そこで今回は当社WEBサイトの「米国株スクリーナー」を使って、52週高値を更新している銘柄をご紹介いたします。
【スクリーニング条件】
(1)過去5営業日に52週高値を更新している
(2)過去3ヵ月の株価騰落率がプラス
(3)25日移動平均乖離率がプラス
(4)今期の予想売上増加率が5%以上
(5)大型株、中型株である
個別の安定成長企業に加え、医療保険、保険ブローカー、電力会社が複数がリストアップされています。ここから、ユナイテッドヘルス グループ(UNH)、ジョンソン & ジョンソン(JNJ)、コストコ ホールセール(COST)、パロ アルト ネットワークス(PANW)、ペイチェックス(PAYX)を選んでご紹介いたします。
図表3 52週高値更新銘柄(過去5営業日、時価総額順)
コード | 銘柄名 | 現在値 (4/1) (ドル) |
株価騰落率 (3ヵ月) (%) |
株価移動平均 乖離率(%) (25日) |
予想売上高 変化率 (%) |
UNH | ユナイテッドヘルス・グループ | 512.6 | 2.1 | 2.9 | 11.1 |
JNJ | ジョンソン・アンド・ジョンソン | 178.2 | 4.2 | 3.0 | 6.2 |
COST | コストコ・ホールセール | 575.6 | 1.4 | 5.5 | 12.4 |
ANTM | アンセム | 499.3 | 7.7 | 5.7 | 10.3 |
AON | エーオン | 328.8 | 9.4 | 7.1 | 5.8 |
D | ドミニオン・エナジー | 86.3 | 9.9 | 4.9 | 14.2 |
PANW | パロ・アルト・ネットワークス | 611.1 | 9.8 | 5.6 | 28.2 |
NGG | ナショナル・グリッド | 77 | 6.5 | 3.0 | 7.0 |
PAYX | ペイチェックス | 138.9 | 1.7 | 10.7 | 12.3 |
AJG | アーサー・ジェー・ギャラガー | 176.4 | 4.0 | 8.4 | 5.4 |
※当社WEBサイトの「米国株スクリーナー」をもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (4/1) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ユナイテッドヘルス グループ(UNH) | 512.59ドル | 23.7 | 【医療保険最大手、2022年ガイダンスを維持】 ・医療保険の最大手で、企業・政府機関・個人向けに各種医療保険・サービスを提供する「ユナイテッドヘルスケア」と薬剤給付管理など医療情報サービスを提供する「オプタム」が2本柱です。社会の高齢化から恩恵を受けており、安定成長を続けています。株式市場が不安定化するときには、事業のディフェンシブ性から注目を集めることが多く、NYダウの構成銘柄です。 ・10-12月期決算は、2事業とも10%以上の増収となって売上は全体で前年同期比13%増、調整後EPSは同78%増と好調でした。2022年12月期は、売上が3,170〜3,200億ドル(前年比10〜11%増)、調整後EPSが21.10〜21.60ドル(同11〜14%増)を見込んでいます。1-3月期決算の発表は、4/14(木)の予定です。 | ||
ジョンソン & ジョンソン(JNJ) | 178.19ドル | 17.0 | 【医薬品部門が好調】 ・世界最大級のヘルスケア企業。売上高の57%を占める医薬品部門のほか、同28%を占める医療機器部門、同15%を占める消費者部門を展開します。主力の医薬品部門の好調が続いており、株価はディフェンシブ性が評価されて、過去6ヵ月で11%上昇してS&P500指数を7%ポイントアウトパフォームしています。 ・10-12月期は売上が前年同期比10%増、調整後EPSが同18%増と好調です。部門別の売上は、「トレムフィア」「ダーザレックス」や新型コロナワクチン(16.2億ドル)などが伸びた医薬品部門が同17%増と伸びてけん引しました。2022年12月期は売上が前年比5.0〜6.0%増(新型コロナワクチンを除くベースで同5.5〜7.0%増)、調整後EPSは10.6〜10.8ドル、前年比8.2〜10.2%増のガイダンスです。 | ||
コストコ ホールセール(COST) | 575.57ドル | 44.0 | 【食品を中心とする小売でディフェンシブ】 ・米国および海外でホールセールクラブのチェーンを展開しています。食品および日用品が主体のため、事業はディフェンシブな性格をもち、現在のような相場環境では物色されやすいと考えられます。価格の安さとともに顧客を飽きさせない巧みな品揃えによって顧客の固い支持を獲得しています。世界的に厳しいとされる日本の小売市場で定着、拡大を続けていることから、事業の優秀さがうかがえます。 ・12-2月期の売上は前年同期比14.4%増、ガソリン価格の変動を除くベースで同11.1%増、EPSは同36%増と好調です。3月の月次売上が今週発表される見込みです。同社の顧客は買い物のついでにガソリンを入れることが多いため、ガソリン価格の上昇は売上・利益に恩恵をもたらす可能性があります。 | ||
パロ アルト ネットワークス(PANW) | 611.11ドル | 83.8 | 【サイバーセキュリティ大手】 ・サイバーセキュリティ大手で、2021年7月末時点で顧客企業は8万社を超え、ネットワークセキュリティの分野では、シスコシステムズを抑えて17%のトップシェアを保有します(IDCの調査)。企業買収に積極的で、過去2年間にクラウドセキュリティ自動化、攻撃可能面管理、インシデント対応、マシンIDベースのマイクロセグメンテーション、IoTのサイバーセキュリティなどの企業を買収することで提供できる製品の幅を広げています。 ・11-1月期の売上は前年同期比30%増、残存履行義務が同36%増、調整後EPSが同12%増の1.74ドルと好調でした。2-4月期の売上は前年同期比25〜27%増、2022年7月期の売上は前年比27〜29%増、調整後EPSは7.23〜7.30ドルを見込みます。 | ||
ペイチェックス(PAYX) | 138.87ドル | 34.4 | 【中小企業向け人的資本管理ソリューション】 ・給与計算、人事(HR)、退職金、保険サービスなどの統合的な人的資本管理(HCM)ソリューションを提供する企業です。中小企業向けに特化して同分野ではトップの地位を確保、業界トップのオートマチック データ プロセシング(ADP)とすみわけることで業績を伸ばしています。70万社以上の顧客企業にサービスを提供しています。 ・3/30(水)に発表された12-2月期決算は、新規顧客の開拓と既存顧客の利用拡大によって売上は前年同期比15%増、調整後EPSは同20%増と好調です。2022年5月期のガイダンスは、売上が前年比12〜13%増、調整後の営業利益率が約40%、調整後EPSは前年比22.5〜23.0%増としています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、コストコが2022年8月期、パロアルトネットワークスが2022年7月期、ペイチェックスが2023年5月期、そのほかは2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
4(月) | ・米製造業受注(2月) | |
5(火) | ・ブレイナードFRB理事講演 ・米貿易統計(2月) ・米ISM非製造業景気指数(3月) |
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6(水) | ・ユーロ圏生産者物価指数(2月) ・米FOMC議事要旨(3月15、16日開催分) |
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7(木) | ・ユーロ圏小売売上高(2月) ・セントルイス、アトランタ、シカゴ連銀総裁講演 ・米新規失業保険申請件数(4月2日に終わる週) ・米消費者信用残高(2月) |
コンステレーションブランズ |
8(金) | ・米卸売売上高(2月) | アプティブ |
11(月) | ・中国生産者・消費者物価指数(3月) ・日本工作機械受注(3月) |
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12(火) | ・ドイツZEW景気期待指数(4月) ・米NFIB中小企業楽観指数(3月) ・米消費者物価指数(3月) |
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13(水) | ・日本機械受注(2月) ・中国貿易統計(3月) ・ユーロ圏鉱工業生産(2月) ・米生産者物価指数(3月) |
デルタ航空、JPモルガンチェース、ブラックロック |
14(木) | ・ECB主要政策金利 ・米小売売上高(3月) ・米新規失業保険申請件数(4月9日に終わる週) ・米ミシガン大学消費者マインド(4月、速報値) |
ユナイテッドヘルス、シティグループ、ウェルズファーゴ ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー |
15(金) | ・米国休場(グッドフライデー) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(4月) ・米鉱工業生産(3月) |
台湾セミコンダクター(E) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成