過去5営業日の米株式相場は、ロシアに対する追加制裁への思惑から原油価格が急騰した3/23(水)に下落となったものの、その後はロシア・ウクライナの停戦協議進展への期待や企業景況感の予想以上の改善を受けて4日続伸となりました。今週の株価材料として、ロシアのウクライナ侵攻、米国の雇用統計、米国のインフレ指標、などが注目されます。
今回は10-12月期の決算内容が良好と考えられる銘柄から、アップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)、テキサス インスツルメンツ(TXN)、ビザ A(V)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率(3/29(火)終値によります)
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
不動産 | 5.0% | 9.2% | -4.7% |
情報技術 | 4.4% | 6.6% | -6.9% |
公益事業 | 4.3% | 9.4% | 4.0% |
一般消費財・サービス | 3.6% | 8.5% | -6.6% |
素材 | 3.0% | 7.6% | -1.1% |
S&P500 | 2.7% | 5.9% | -3.4% |
コミュニケーションサービス | 2.5% | 3.6% | -10.8% |
生活必需品 | 1.9% | 1.7% | -1.0% |
資本財・サービス | 1.4% | 5.1% | -1.0% |
ヘルスケア | 1.2% | 6.4% | -2.3% |
エネルギー | 1.1% | 9.0% | 37.4% |
金融 | 0.1% | 2.7% | 0.7% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
テスラ | 10.6% |
エヌビディア | 8.0% |
インテル | 8.0% |
ブッキング・ホールディングス | 7.7% |
エクセロン | 7.7% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ロウズ | -3.9% |
ホーム・デポ | -3.6% |
ウェルズ・ファーゴ | -3.4% |
アルトリア・グループ | -3.1% |
モルガン・スタンレー | -2.5% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
3/23(水)は西欧諸国の首脳がブリュッセルに集まったことで、ロシアへの追加制裁に対する思惑から原油価格が急騰して株式は反落しました。3/24(木)は追加制裁が実現せず原油価格が反落したほか、企業景況感が市場予想以上に改善したことからグロース株への買いが活発化しました。
3/25(金)はFRBメンバーがタカ派的と捉えられる発言をして米長短金利とも上昇、グロース株が売られた一方、金融株が買われて全体は続伸となりました。3/28(月)は上海のロックダウンによる需給悪化懸念で原油価格が下落して株式の支えとなったほか、株式分割計画が好感されたテスラがけん引して上昇、3/29(火)はロシアとウクライナによる停戦協議の進展に期待が高まって4日続伸となりました。
S&P500指数は週間(3/22(火)終値〜3/29(火)終値)で2.7%、NYダウは1.4%、ナスダック指数は3.6%の上昇でした。
業種指数では、配当利回りが高い「不動産」「公益事業」、グロース株を多く含む「情報技術」、テスラの上昇が効いた「一般消費財・サービス」などが騰落率上位です。個別銘柄では、テスラ(TSLA)がドイツのギガファクトリーからの納車が始まったとのニュースを受けて上昇基調となり、3/28(月)には1対5の株式分割を計画していることが明らかとなって一段高となりました。
経済指標では、3/24(木)発表の3月S&Pグローバル米国製造業PMI、非製造業PMIが、前月からの悪化予想に反していずれも大幅な改善となりました。オミクロン株による感染拡大の影響からの回復が想定以上に順調で、株式市場の上昇に寄与したとみられます。
一方、3/23(水)発表の2月新築住宅販売件数が前月比2%減の77.2万戸と市場予想の81.0万戸を大きく下回り、ホームデポ、ロウズなどホームセンター銘柄の株価に影響したとみられます。また、3/24(木)発表の2月耐久財受注が前月比2.2%減と市場予想の同0.6%減を下回りました。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、ロシアのウクライナ侵攻、米国の雇用統計、米国のインフレ指標などが注目されます。ロシアによるウクライナ侵攻が膠着状態となる中、株式は意外なほど大きな戻りとなりました。3/29(火)終値の予想PERは19.5倍と、筆者が想定する妥当レンジ18〜20倍の上限近くまで回復しています。一方、外部環境はまだ不透明感が強く、目先は上昇一服となりやすいとみられます。
ウクライナ侵攻については、3/29(火)開催の停戦協議でウクライナ側が(1)クリミアの返還については一時棚上げする、(2)NATO加盟を断念して周辺国による安全保障の仕組みを希望する、など従来の主張を和らげました。一方、ロシア側では首都キエフへの攻撃を縮小するとして、双方から停戦実現に向けて進展が期待される動きがありました。さらに停戦に近づいていけるか注目されます。
米国の3月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比49万人増と、前月の67.8万人増から低下するものの、堅調な増加が見込まれています。ただし、同統計は「季節調整のゆがみ」があるとされ、引き続き解釈は難しくなっていると考えられます。季節調整が施されていないADP雇用統計を重視するほうが無難とみられます。
インフレ指標では、米国の2月個人消費支出物価指数(コア)は前年比5.5%増の予想で前月の同5.2%増から伸びが高まる予想で、3月雇用統計の平均時給も前年比5.5%増と前月の同5.1%増から伸びが高まる予想です。引き続きインフレ高進を示す見込みです。前年比の伸び率は4月から鈍化する可能性がありますが、当面は警戒が必要でしょう。
経済指標では、上記のほかに3/30(水)に米国の3月ADP雇用統計(前月比45万人増の予想)、3/31(木)に中国の3月製造業PMI(前月の50.2から49.8に悪化の予想)・非製造業PMI(前月の51.6から50.3に悪化の予想)、4/1(金)に3月日銀短観(大企業製造業のDIは前回の18から12に悪化の予想)、3月ISM製造業景気指数(前月の58.6から59.0に改善の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、マイクロンテクノロジー、バイオエヌテック、ウォルグリーンブーツアライアンスなどの決算発表が予定されています。
先々週からの株価の戻りをどう考えるか
ロシアによるウクライナ侵攻は、事前の想定を超えた世界的な一大関心事となり、ロシアに対する経済制裁も前代未聞の広がりをみせたことから、株式の投資環境としてはマイナスに作用すると考えられます。にもかかわらず、相場が予想外に大きく戻った理由として、以下のようにウクライナ侵攻の影響は従来見込まれていたトレンドを変えるほどではないと市場で捉えられているようです。
(1)経済への影響・・・ロシアに対する経済制裁が予想以上に広がったことから、世界の経済成長に対して無視できないレベルでマイナスに作用すると見込まれます。ただし、ロシアとの貿易関係が小さい米国への影響は限定的で、新型コロナの克服による経済回復のトレンドを損なうことはないと判断されているようです。
(2)インフレへの影響・・・ロシアの世界生産シェアが高いコモディティ価格が上昇基調となっており、インフレ高進への影響が懸念されます。インフレのピークが従来想定よりも高く、ピークアウトの時期は従来想定よりも後ずれすることが見込まれます。しかし、「インフレの基調は新型コロナ克服に伴うサプライチェーン問題の後退とともに年後半にむけて沈静に向かう」とのシナリオを変えるほどではないと判断されているようです。
さらに、以下はテクニカルな分析になりますが、主要指数の予想PERがパンデミック前の水準近くまで一旦戻ったことが株価反転の要因の一つと考えられます。
図表3は、S&P500指数とナスダック指数、ナスダック100指数の予想PER(今期予想EPSに対するPERです)の2020年からの推移です。赤い点線でハイライトした2つの時期のPERが近いことが確認できます。S&P500のみならず、PERの水準が高いとして年初からの調整が大きい、ナスダック指数、ナスダック100指数についても同様のことが言えます。
主要指数の予想PERはパンデミックによって企業業績が一時的に落ち込み、これに対応するための強力な金融緩和によって大きく押し上げられ、その後企業業績の回復に伴って徐々に低下してきました。2022年に入ってからは、強力な金融緩和が正常化に向けて動き出したことで、PERの水準も正常化しつつあると考えられます。
正常なPERの一つの目安として、パンデミック前の水準は参考になりそうです。このような考え方からは、PERの調整が一巡した可能性が指摘できるでしょう。
なお、図表3のPERは時系列比較を行うために今期予想EPSに対する予想PERを使っています。筆者が通常使っている予想PERは、約6カ月先の相場が織り込むと考えられる予想EPSを基準とするもので、現在であれば2022年と2023年予想EPSの平均の238ポイントを基準に計算しています。
今週の5銘柄
今回は1/31(月)付当レポートでご紹介した10-12月期の好決算銘柄を再掲いたします。アップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)、テキサス インスツルメンツ(TXN)、ビザ A(V)の5銘柄です。
米国株式市場はここ2週間大きく戻りましたが、外部環境には依然として不透明感が強いため、当面は直近の四半期決算内容が良いなどファンダメンタルズの裏付けがある銘柄への投資が無難だと考えられます。
図表3 予想PERはパンデミック前の水準近辺まで戻った
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (3/29) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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アップル(AAPL) | 178.96ドル | 29.1 | 【サプライチェーン問題の影響を予想以上に上手くかわす】 ・10-12月期決算は売上が前年同期比11%増、EPSが同25%増と、市場予想を大きく上回りました。サプライチェーン問題の影響を受けて売上は伸び悩むと見込まれていましたが、予想以上に上手く対応できました。購買力が非常に大きいため、市場で部品が不足している中でも優先的に回してもらえる立場にあるようです。 ・製品別の売上は、iPhoneが前年同期比9%増、Macが同25%増、iPadが同14%減、ウェアラブル、ホーム&アクセサリーが同13%増、サービスが同24%増でした。1-3月期の業績見通しは示されませんでしたが、「10-12月期と比較して売上高の伸び率は減少するものの、堅調なものになる」とのコメントがありました。主力のiPhoneには入手しにくいことによるペントアップ需要があると考えられており、サプライチェーン問題が改善すれば、売上の伸びが高まる可能性があるとみられます。 | ||
マイクロソフト(MSFT) | 315.41ドル | 33.3 | 【クラウドの需要は世界的に堅調】 ・10-12月期の売上は前年同期比20%増(為替の影響を除くベース)、EPSは同22%増となり、市場予想を上回る好決算でした。売上の予想超過の比率は、モア・パーソナル・コンピューティング部門が最も大きく、ゲーム機の「Xbox」やノートPCの「Surface」の供給が想定されていたよりも順調に進んだことが要因とみられます。 ・成長をけん引しているクラウド事業に対する需要は堅調のようです。企業向けクラウドの「Azure」の10-12月期売上の伸び(為替の影響を除いたベース)は前年同期比46%増と7-9月期の同48%増をやや下回りました。しかし、会社は足もとの受注動向から世界的に同分野の需要は強いとし、1-3月期の売上高成長率は10-12月期よりも高いものとなるだろうと自信を示しています。 | ||
インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM) | 131.94ドル | 13.3 | 【低成長分野を分離して売上成長が改善】 ・10-12月期は事業分離の影響を除いたベースで、売上は前年同期比7%増、EPSは同62%増で、市場予想を上回って好調な決算となりました。部門別には、10-12月期売上の44%を占めるソフトウェアが前年同期比8%増、同28%を占めるコンサルティングが同13%増、同26%を占めるインフラストラクチャが同0.2%増でした。 ・同社は昨年11月4日に低成長のITインフラ事業(メインフレームと同サポートサービス)をキンドリル(KD)として分離し、残るIBMは「ハイブリッドクラウドとAIを中心とする企業に進化する」計画です。キンドリル分離後の売上成長率は1桁台前半に改善すると期待されていましたが(これまでは売上の増加を達成するのに苦労していました)、今回の決算はこれを超過して実現したことが好感されました。 | ||
テキサス インスツルメンツ(TXN) | 191.01ドル | 20.6 | 【半導体不足から恩恵を受ける】 ・世界最大のアナログ半導体の会社です。10-12月期は売上が前年同期比19%増、EPSが同26%増で、市場予想を上回る好決算でした。売上の7割以上を占めるアナログ半導体が前年同期比20%増と好調のほか、組み込み半導体も同6%増と堅調でした。インダストリーおよび自動車向けがけん引しており、世界の半導体不足から恩恵を受けているとみられます。 ・2022年12月期もインダストリーと自動車向けの強い需要が続き、一桁台後半の売上の伸びが期待されます。買収によって生産設備を拡張したことも有利に働くと考えられます。1-3月期の売上は45〜49億ドル(前年同期比5〜14%増)、EPSは2.01〜2.29ドル(前年同期比9〜24%増)の堅調なガイダンスを出しています。 | ||
ビザ A(V) | 228.12ドル | 31.9 | 【カード利用の基調は改善傾向が続く】 ・10-12月期決算は、売上が前年同期比24%増、EPSが同28%増となって、市場予想を上回る好決算でした。クレジットカードの決済額が7-9月期の前年同期比17%増から同20%増へ、旅行関連の利用に関係するクロスボーダー決済額が同38%増から同40%増へ改善しました。ロシアによるウクライナ侵攻は海外旅行の動向に影響する可能性がありますが、停戦実現なら好感されると期待されます。 ・1-3月期については、2021年1-3月期に米国政府から国民に対して政策支援があったために、前年同期比の伸びは低下する見通しです。米国のカード決済額は10-12月期に前年同期比20%増以上でしたが、2022年1月1日〜21日までの米国のカード決済額は前年同期比10%台まで低下しています。しかし、パンデミックによる凸凹を排除する目的で2019年実績と比較すると、1月の伸び率は10-12月期よりも高く、基調は強いとみられます。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、アップル、ビザが2022年9月期、マイクロソフトが2022年6月期、そのほかは2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
28(月) | ||
29(火) | ・S&Pコアロジック住宅価格指数(1月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(3月) ・米求人労働異動調査(2月) |
マイクロンテクノロジー |
30(水) | ・ユーロ圏景況感(3月) ・米ADP雇用統計(3月) ・米実質GDP(10-12月期、確報値) |
バイオエヌテック |
31(木) | ・日本鉱工業生産(2月) ・中国製造業・非製造業PMI(3月) ・米住宅着工件数(2月) ・米個人所得・個人支出(2月) ・米個人消費支出物価指数(2月) |
ウォルグリーンブーツアライアンス |
4月 1(金) |
・日銀短観(3月) ・米雇用統計(3月) ・米ISM製造業景気指数(3月) ・米自動車販売台数(3月、2日までに発表予定) |
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4(月) | ・米製造業受注(2月) | |
5(火) | ・米貿易統計(2月) ・米ISM非製造業景気指数(3月) |
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6(水) | ・ユーロ圏生産者物価指数(2月) ・米FOMC議事要旨(3月15、16日開催分) |
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7(木) | ・ユーロ圏小売売上高(2月) ・米新規失業保険申請件数(4月2日に終わる週) ・米消費者信用残高(2月) |
コンステレーションブランズ |
8(金) | ・米卸売売上高(2月) | アプティブ |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。 ※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成