先週はウクライナ情勢とロシアの経済制裁を巡って原油価格が乱高下して株式はその影響を強く受けました。週末にかけては停戦交渉に対する期待も後退して3週連続安となりました。今週の株価材料として、ロシアのウクライナ侵攻、原油価格の動向、FOMC、などが注目されます。
今回は個別に株価材料のある、アマゾン ドットコム(AMZN)、キャタピラー(CAT)、アクセンチュア A(ACN)、エネルギー関連からシェブロン(CVX)、エクソン モービル(XOM)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 1.9% | 11.1% | 39.2% |
公益事業 | -0.7% | 5.4% | 1.3% |
素材 | -1.6% | -2.1% | -6.6% |
不動産 | -1.8% | 1.8% | -6.6% |
金融 | -2.2% | -8.3% | -6.3% |
資本財・サービス | -2.5% | -1.3% | -5.1% |
一般消費財・サービス | -2.6% | -8.1% | -16.0% |
ヘルスケア | -2.8% | -0.1% | -4.6% |
S&P500 | -2.9% | -4.5% | -9.3% |
コミュニケーションサービス | -3.1% | -6.7% | -16.5% |
情報技術 | -3.8% | -7.1% | -15.0% |
生活必需品 | -5.8% | -4.8% | -4.5% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
シュルンベルジェ | 10.2% |
キャタピラー | 9.8% |
シェブロン | 7.7% |
ダウ | 3.5% |
ゼネラル・エレクトリック(GE) | 3.5% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
フィリップ・モリス・インターナショナル | -11.0% |
スターバックス | -8.1% |
アドビ | -7.9% |
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G) | -7.7% |
ターゲット | -7.6% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
3/7(月)は欧米諸国がロシア原油の輸入禁止を検討していると伝わり、原油価格(WTI先物)が一時130ドル台を付けました。インフレ高進の懸念でS&P500指数は3%下落、ナスダック指数は高値からの下落率が20%を超えました。3/8(火)は米国がロシア原油の輸入を禁止、英国が年末までに輸入を段階的に停止すると発表して原油価格が続伸して株価は4日続落となりました。
一方、3/9(水)は、(1)ゼレンスキー大統領がNATO加盟を断念する可能性を示唆したこと、(2)ロシアとウクライナの外相がトルコで停戦交渉を行うとしたこと、(3)UAEの駐米大使がOPECに増産をはたらきかけるとしたことなどから原油価格が大幅に下落して株式は大幅に反発しました。
しかし、3/10(木)は期待されたロシア・ウクライナ外相による停戦交渉に進展なく、消費者物価も市場予想通り前年比7.9%増に拡大したことから株式は反落となりました。3/11(金)はプーチン大統領がウクライナとの協議に一定の進展があったと発言したことを受け、株価は上昇して寄り付きましたが、上げを維持できず値を消す展開となりました。
S&P500指数は週間で2.9%、NYダウは2.0%、ナスダック指数は3.5%の下落でした。
業種指数では、原油価格の上昇が恩恵となる「エネルギー」が唯一の上昇となりました。個別銘柄でも、シュルンベルジェ(SLB)が大きく上昇しました。同社は石油サービスの世界最大手で、原油価格が上昇すると探鉱や生産活動が活発化して、同社のサービスに対する需要が増えると期待されます。
経済指標では、2月消費者物価指数が前年比7.9%増と前月の同7.5%増から拡大、コア指数も同6.4%増と前月の同6.0%増から拡大しました。前年の動きを見ると、2月の前年比1.7%増、3月の同2.6%から4月に同4.2%増に拡大していることから、3月までは前年比の伸びは拡大の一方、4月には鈍化する可能性が高そうです。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、ロシアのウクライナ侵攻、原油価格の動向、FOMC(米連邦公開市場委員会)、などが注目されます。
S&P500指数は、先週3/7(月)、3/8(火)、3/11(金)の3日、予想PER18.0倍(予想EPSを235ポイントとして指数では4,230ポイント)を割り込んで引けました。ウクライナ情勢が沈静に向かわない限り17倍台に定着する可能性が高そうです。
ロシアのウクライナ侵攻については、各種の報道によって戦闘が激化して戦死者が増え、民間人の犠牲者も増え続けていることがうかがえます。ウクライナ軍がトルコ製の無人攻撃機(ドローン)でロシアの装甲車を撃破している映像をみると、ウクライナ軍も防戦一方ではないようです。両軍の戦闘力が尽きるところまでいってしまうのではないかとの懸念も生まれる状況です。
一方、先週はゼレンスキー大統領がウクライナのNATO加盟に関して譲歩を示唆するなど、態度を軟化させる兆しがみえました。ウクライナのNATO加盟問題は、今回の侵攻でロシアが最も重視しているポイントです。ゼレンスキー大統領とプーチン大統領の直接交渉によって急転直下終息に向かう可能性も頭に入れておく必要がありそうです。
原油価格については、ロシア産原油の輸入抑制分を補うための原油増産に向けた働きかけが様々な方面(ベネズエラ、イラン、米国のシェールオイル、OPECなど)で行われています。即効性があるのはOPECによる増産ですが、これについてはUAEの駐米大使が「OPECに増産を働きかける」と発言して市場で期待が高まりました。ただ、「駐米大使」の発言がOPECにどこまで影響力があるのかはみていく必要がありそうです。
今回のFOMCでは、0.25%の政策金利の引き上げが市場で織り込まれており、実現すれば2018年12月以来の利上げとなります。注目点はパウエル議長の会見やFOMCメンバーの予測で、ウクライナ侵攻の長期化による景気への影響が勘案され、金融引き締めペースが後ろ倒しとなる可能性もありそうです。
経済指標では、3/15(火)に中国の2月鉱工業生産(前年比4.0%増の予想、前月は同9.6%増)、小売売上高(前年比3.0%増の予想、前月は同12.5%増)、3/16(水)に米国の2月小売売上高(前月比0.4%増の予想)、3/17(木)に米国の2月住宅着工件数(前月比3.8%増の予想)、住宅建設許可件数(前月比2.4%減の予想)、3/18(金)に米国の2月中古住宅販売件数(前月比6.2%減の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、レナー、アクセンチュア、フェデックス、ダラーゼネラルなどの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は、先週に1対20の株式分割と100億ドルの自社株買い計画を発表したアマゾン ドットコム(AMZN)、ニッケル、アルミなど鉱物資源の価格上昇で注目が高まっているキャタピラー(CAT)、筆者が2022年に活躍を期待している銘柄の1つとして挙げてきたアクセンチュア A(ACN)に加え、原油価格上昇が恩恵となるエネルギー企業から、シェブロン(CVX)とコノコフィリップス(COP)を選んでご紹介いたします。
引き続き相場全体の方向性、物色動向ともウクライナ情勢を睨んでの展開になると想定されます。ウクライナ情勢が終息に向かうと物色もガラリと変わると予想されますが、停戦合意まではコモディティ関連や個別に材料のある銘柄が物色の中心になると考えられます。
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (3/11) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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アマゾン ドットコム(AMZN) | 2910.49ドル | 42.3 | 【株式分割と自社株買いを発表】 ・3/9(水)に1対20の株式分割と最高100億ドルの自社株買い計画を発表しました。株式分割は5/25(水)に開く株主総会での議決を経て6/6(月)に実施する予定で、1株当たり株価の引き下げによって個人投資家による買いの増加が期待されます。自社株買いは2016年からの50億ドルの自社株買いプログラム(29億ドルが残存)に替わるものです。この発表を受けて3/10(木)の株価は5.4%上昇しました。 ・業績はパンデミックによる恩恵の反動が出て低調となっています。営業利益は2021年1-3月期の88.7億ドルから同4-6月期、同7-9月期と減少が続き、同10-12月期には34.6億ドルまで低下しています。一方、今回の自社株買いの設定は、ネット通販事業の収益を立て直し、拡大が続くクラウドや広告事業によって中期的な利益成長を実現する自信の現れと捉えることができるでしょう。株価は2020年9月から大勢横ばい圏にあり、予想PERは42倍まで低下しています。 | ||
キャタピラー(CAT) | 214.83ドル | 17.6 | 【コモディティ価格の高騰で注目】 ・ロシアによるウクライナ侵攻とロシアに対する経済制裁を受けて、ニッケル、アルミ、亜鉛、錫など非鉄金属の価格が高騰して、鉱山機械メーカーである同社への恩恵が期待されています。米証券のジェフリーズは、「コモディティ価格の上昇など、インフレ高進に対する長期的なヘッジ手段として有効である」として、目標株価を215ドルから260ドルに引き上げています。 | ||
アクセンチュア A(ACN) | 311.58ドル | 29.4 | 【今週決算を迎える、2022年に筆者が活躍を期待している銘柄】 ・世界有数のコンサルティング会社で、企業向けのコンサルティングとIT関連の受託業務が2本柱です。最先端技術への投資を前もって行うことに秀でており、クラウドやセキュリティなどの最先端技術に関連する売上構成比が70%を超え、ITサービス産業の類似企業で最も高くなっています。業界平均を上回る成長が続くと期待されます。 ・9-11月期の売上は6-8月期の前年同期比24%増から、同27%増に加速、2022年8月期の売上ガイダンスを従来の前年比12〜15%増から同19〜22%増に引き上げています。CEOは、「過去数年にわたり、事業の重点をデジタル、クラウド、セキュリティに転換してきた成果が出ている」とコメントしました。セールスフォース、アドビなど企業向けソフトウェアの企業は直近決算でガイダンスが市場予想を下回りましたが、DX戦略の策定を中心とする同社の業績は加速しています。3/17(木)に12-2月期の決算を発表する予定です。 | ||
シェブロン(CVX) | 170.90ドル | 13.6 | 【原油生産に特化するエネルギー大手】 ・世界的な総合エネルギー大手の一角で、石油・ガスの探鉱から生産・精製・販売までを一貫して手掛けます。2020年7月にノーブル・エナジーを買収して、パーミアン盆地のシェールオイル資産とパイプライン資産を入手しています。エクソンモービルよりも脱炭素投資に積極的です。 ・10-12月期の決算発表では、LNGのトレーディング、減価償却費の追加、減損などで調整後EPSが市場予想を大きく下回ったほか、2022年の生産は前年比減少するとの見通しを発表したことで市場の失望を買いました。しかし、原油価格の上昇を受けて調整後EPSは2021年12月期実績が8.62ドルに回復、2022年12月期の市場コンセンサスでは12.57ドルに拡大する予想となっています。 | ||
コノコフィリップス(COP) | 98.41ドル | 10.0 | 【原油生産に特化するエネルギー大手】 ・原油・天然ガスの探査・開発・生産といった川上部門に特化しているため、原油価格上昇の恩恵は総合エネルギーよりも大きくなる傾向があります。2021年初にシェールオイル大手のコンチョリソーシズを買収したほか、2021年末にもロイヤルダッチシェルからも権益を取得、パーミアン盆地(シェールオイルの生産地)の生産比率が40%近くに上昇しています。 ・10-12月期の調整後純利益は30.1億ドルと、前年同期の2.0億ドルの赤字、7-9月期の23.7億ドルからも大きく改善しています。原油資産取得の効果で、2022年の生産量は前年比18%増を見込みます。同年の株主還元額を前年の70億ドルから80億ドルに増やす計画です。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、アクセンチュアが2022年8月期、そのほかは2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
14(月) | ・ユーロ圏鉱工業生産(1月) | |
15(火) | ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(2月) ・ドイツZEW景気指数(3月) ・米生産者物価指数(2月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(3月) |
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16(水) | ・米小売売上高(2月) ・米輸入物価指数(2月) ・米NAHB住宅市場指数(3月) ・FOMC政策金利 |
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17(木) | ・日本機械受注(2月) ・EU27ヵ国新車登録台数(2月) ・米住宅着工・建設許可件数(2月) ・新規失業保険申請件数(3月12日に終わる週) ・米鉱工業生産(2月) |
アクセンチュア、フェデックス |
18(金) | ・トリプルウィッチング (株価指数先物・オプションの取引期限満了日) ・米中古住宅販売件数(2月) ・日銀金融政策 |
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21(月) | ・米シカゴ連銀全米活動指数(2月) | ナイキ |
22(火) | アドビ | |
23(水) | ・米新築住宅販売件数(2月) | |
24(木) | ・ユーロ圏消費者信頼感(3月) ・じぶん銀行日本製造業PMI(3月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(3月) ・マークイット米国製造業PMI(3月) ・米耐久財受注(2月) ・米新規失業保険申請件数(3月19日に終わる週) |
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25(金) | ・ドイツIFO企業景況感(3月) ・米中古住宅販売成約(2月) ・米ミシガン大学消費者マインド(3月、確報値) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成