原油価格が大幅に上昇しています。WTI先物価格は、2/25(金)終値の1バレル91.59ドルから、3/2(水)終値の110.60ドルへ、3営業日で実に21%の上昇です。
もちろんウクライナ情勢の深刻化とロシアに対する経済制裁が背景ですが、2/28(月)からの大幅な上昇は市場で想定していなかったことが起こったのが理由と考えられます。
市場が想定していなかった民間企業のロシア退出
想定されていなかったこととは、以下のように欧米の大手エネルギー企業が自主的にロシア企業との合弁事業から退出を決めたことです。
【BP 2月27日発表】
ロシアのエネルギー企業ロスネフチの保有株式19.75%を売却し、BPが指名した取締役は辞任することを発表しました。同社のロシアでの石油事業は30年以上の歴史があり、ロスネフチの株式は2013年から保有していました。
【シェル 2月28日発表】
ロシアのエネルギー企業ガスプロムとの合弁事業から撤退すると発表しました。主要事業には、1994年に開始された「サハリン2」を含み、「ノルドストリーム2」への関与も停止します。
【エクソンモービル 3月1日発表】
同社が30%の持分を保有し、オペレーターを務める「サハリン1」からの撤退意向を表明しました。同プロジェクトは1995年に始まり、2005年から原油を生産しています。
ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米政府が主導して数ヵ月など“短期的に”ロシアからのエネルギー輸出を制限する制裁については、市場もその可能性を想定していたとみられます。
しかし、民間企業が過去数十年にわたって関わってきたロシアのエネルギー事業から自主的に撤退するのは、市場が想定していなかったことです。
ロシアによる原油・天然ガス供給に数年単位の“長期的な”打撃となる可能性があるため、原油市場の反応が大きくなっていると考えられます。
原油価格の上昇は、投機によるものではなく理由があってのことと考えられますので、すぐに反落するだろうと考えてポジションをとるのは危険だとみられます。
流れを変えたのはゼレンスキー大統領
市場が想定しないことが起きる、この流れを作ったのはウクライナのゼレンスキー大統領だと思われます。
ロシアによるウクライナ侵攻に際して国外に避難せず、首都キエフに残りました。自撮りした動画で国民に抗戦を、西欧諸国に制裁強化を訴える姿は鬼気迫るものがありました。これが世界の世論を動かしたのだと考えられます。
実際エクソンモービルは、これまで対ロシアの経済制裁からエネルギー産業を除外するよう米政府にロビー活動を行っていたとされます。しかし、ゼレンスキー大統領が自らの命を顧みず抵抗をリードし、ウクライナ国民が圧倒的に不利な軍事力の差を物ともせずに抗戦する姿をみて、ロシアに協力してはいけないと考えを変えたようです。
「ゼレンスキー大統領が国外に避難して実質的に政権が崩壊し、ロシアの息のかかった傀儡政権ができる」と大方が想定していたとみられるシナリオでは、このようなことは起こっていなかったと考えられます。
ゼレンスキー大統領が予想外に踏ん張ったことで、現在政権崩壊のプレッシャーは逆にロシアのプーチン大統領にかかっているとみられます。欧米エネルギー企業との合弁事業は、ロシアのエネルギー大手にとって非常に重要で、プーチン大統領の力の源泉とされるオリガルヒ(新興財閥)も看過できないと考えられます。
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