先週はウクライナ国境付近のロシア軍が一部撤退との報道があり、また、FOMC議事要旨が市場想定ほどタカ派的でないとして反発する局面がありました。しかし、その後再びロシアによるウクライナ侵攻が近づいているとの懸念が高まり、2週続落となりました。今週の株価材料として、ウクライナ情勢、原油価格の動向、2月の消費者信頼感、などが注目されます。
今回はロシアがウクライナに侵攻した場合に、経済制裁を受けて価格上昇が想定されるコモディティに関連する銘柄から、エクソン モービル(XOM)、コノコフィリップス(COP)、シュルンベルジェ(SLB)、ニューモント(NEM)、アーチャー ダニエルズ ミッドランド(ADM)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
生活必需品 | 1.1% | 0.2% | 5.8% |
素材 | -0.3% | -0.3% | -5.0% |
一般消費財・サービス | -0.4% | 0.2% | -15.3% |
資本財・サービス | -1.2% | -3.0% | -6.9% |
公益事業 | -1.4% | -4.2% | -1.6% |
S&P500 | -1.6% | -1.1% | -7.4% |
情報技術 | -1.7% | -1.4% | -11.1% |
不動産 | -1.8% | -4.9% | -7.1% |
ヘルスケア | -2.2% | -1.7% | -4.1% |
金融 | -2.3% | 2.5% | 0.5% |
コミュニケーションサービス | -2.5% | -6.0% | -16.8% |
エネルギー | -3.7% | 8.0% | 25.0% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
クラフト・ハインツ | 10.7% |
シスコシステムズ | 6.1% |
ユニオン・パシフィック | 5.2% |
コカ・コーラ | 3.7% |
ブッキング・ホールディングス | 3.4% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ペイパル・ホールディングス | -10.1% |
バンク・オブ・ニューヨーク・メロン | -9.5% |
モルガン・スタンレー | -8.8% |
3M | -7.5% |
アボットラボラトリーズ | -6.9% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
2/14(月)は米国がキエフの大使館機能をウクライナ西部に移すとして、ウクライナ情勢の緊迫化が懸念されて下落しました。セントルイス連銀のブラード総裁が、7月までに100bpの利上げが正当化されるとしたこともマイナスに効いたとみられます。
2/15(火)はロシア国防省がウクライナ国境近くの軍隊は演習を終えて基地に帰還しつつあるとして市場の懸念が後退、2/16(水)はFOMC議事要旨の内容が市場想定ほどタカ派的でなかったことがプラスに効いて、反発しました。
一方、2/17(木)は、ウクライナ東部でウクライナ政府軍と親ロシア武装勢力の間で砲撃があると報じられ、このような小競り合いを口実としたロシアの侵攻が近いと緊張が高まり下落、2/18(金)も続落となりました。
S&P500指数は週間で1.6%、NYダウは1.9%、ナスダック指数は1.8%の下落でした。
業種指数では、市場のリスク回避姿勢が強まったことから、ディフェンシブの「生活必需品」がプラス、資源価格の上昇が意識されて「素材」の下げが小さくなっています。個別銘柄では、クラフトハインツ(KHC)の上昇が目立ちました。2/16(水)発表の10-12月期決算では、製品価格の引き上げによってインフレ圧力をかわして、EPSは前年同期比1%減ながら、市場予想を26%上回りました。また、ディフェンシブ株物色の波にも乗ったとみられます。
経済指標では、米国の1月生産者物価指数は前年比9.7%増と前月の前年比9.8%増から小幅低下となりました。市場予想通り同9.1%増に低下していれば、市場のインフレ懸念が和らぐ可能性がありましたが、このシナリオは実現しませんでした。
一方、中国の生産者物価指数は11月の前年比12.9%増から12月同10.3%増、1月同9.1%増と2ヵ月連続で低下しました。このような動きはいずれ米国にも波及してくると考えておいて間違いないでしょう。
米国の1月小売売上高は前月比3.8%増と大きく伸びました。前月が同2.5%減と落ち込んでいた反動を含みますが、個人消費は堅調と考えてよいでしょう。前年比では13.0%増です。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、ウクライナ情勢、原油価格の動向、2月の消費者信頼感、などが注目されます。
ウクライナ東部ではウクライナ政府軍と親ロシア武装部隊の間で砲撃が観測されており、これを口実にロシアの侵攻がいつ始まってもおかしくない状況です。中国で開催されていた冬季オリンピックが2/20(日)に終わったことで、軍事衝突の可能性がさらに高まると考えられます。ウクライナ情勢と株価への影響については、以下に項目を改めて考えています。
ロシアがウクライナに侵攻して欧米諸国が経済制裁を課した場合、ロシアは世界の原油を含む石油製品輸出の11.4%を占めるため、原油価格の上昇につながる可能性があります。金融市場では、ウクライナへの侵攻それ自体よりも、これによって引き起こされる原油価格の上昇とインフレ高進の可能性を警戒しているようです。
一方、バイデン大統領は原油価格の大幅な上昇を回避するため、イラン核合意への復帰を急いでいます。イランの原油輸出拡大を許容することで、ロシアからの供給減少を一部相殺する狙いとみられます。どのようなスピードで交渉が進むか注目されます。
2月のミシガン大学消費者マインド速報値は1月の67.2から61.7に低下してネガティブサプライズとなりました。企業が労働者不足で困るほど雇用情勢はタイトで、経済再開による回復も継続していることから、いまのところ個人消費が急減速となる可能性は低いとみられます。ただ、コンファレンスボードの消費者信頼感でも低下が確認されると、先行きの個人消費に対する警戒が高まる可能性がありそうです。
経済指標では、2/22(火)に米国の2月コンファレンスボード消費者信頼感(前月の113.8から110に低下の予想)、2/24(木)に米国の10-12月期実質GDPの改定値(前期比年率7.0%増の予想)、2/25(金)に米国の1月耐久財受注(前月比0.8%増の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、バージンギャラクティック、ホームデポ、ブッキングホールディングス、ロウズ、アリババグループ、モデルナ、ブロック(旧スクエア)、ライブネーションエンタテインメントなどの決算発表が予定されています。
ウクライナ侵攻による株価への影響
ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないことを確約しない限り、ロシアによるウクライナ侵攻は避けられないとみられます。
これはロシアの視点から考えてみると理解しやすいでしょう。NATOが勢力を東方に拡大してきた歴史にロシアは安全保障上の懸念を抱いてきました。さらに、ウクライナがNATOに加盟した場合、モスクワへのミサイル到達時間が数分に短縮されるため許容できないとしているのです。
フランス、ドイツの首脳が今回の危機に際してロシアを「武力による現状変更を迫る野蛮な国」と批判するのではなく、ロシアに出向いてまで「交渉」しているのは、このようなロシア側の立場にある程度理解を示しているからだと考えられます。
フランスのマクロン大統領がプーチン大統領との会談後に、「事態を解決するには、ウクライナがNATOへの加盟をあきらめるしかない」と発言しました。ロシアの行動は好ましくないものの、これまでの経緯を考えれば、ロシアの行動はある程度仕方のないことと捉えている節がうかがえます。
侵攻した場合の株式市場への影響として、一時的な下落は想定されるものの、持続的な下落相場にはつながらないとみられます。
2/14(月)付のロイター記事「アングル:地政学リスクと株価、ウクライナ情勢の影響短期的か」では、調査会社CFRAが第2次世界大戦後の24の地政学イベントを分析した結果、(1)S&P500指数はイベント後に直近高値から5.5%下落、(2)底値を付けるまで24日、平均28日で値下がり分を取り戻している、としています。
米国株式市場で、ウクライナ情勢が最初に明確に意識されたのは1/24(月)と見られますが、その後好調な企業決算を受けてS&P500指数は4,600ポイント近辺まで戻しました。ここを起点として、上記の地政学リスクによる下落率の平均5.5%を適用すると、4,347ポイントと計算されます。
2/18(金)終値が4,348.87ポイントです。過去の経験から考えて、株式市場はロシアによるウクライナ侵攻の影響をかなり織り込んでいると考えてよいのではないでしょうか。
今週の5銘柄
今回はS&P500指数の採用銘柄から、コモディティ関連の銘柄をご紹介いたします。
ロシアによるウクライナ侵攻が実行され、ロシアに対する経済制裁が課された場合、コモディティ価格が一段と上昇する可能性があるためです。
原油価格に関連する銘柄について、「総合エネルギー」、「原油生産」、「石油サービス」のサブセクターから時価総額の大きいものを2銘柄ずつ、また、金属および農産物に関連する銘柄を図表3にリストアップしました。
これらの銘柄から、エクソン モービル(XOM)、コノコフィリップス(COP)、シュルンベルジェ(SLB)、ニューモント(NEM)、アーチャー ダニエルズ ミッドランド(ADM)を選んでご紹介いたします。
図表3 S&P500指数採用の主なコモディティ関連銘柄
銘柄(コード) | 事業内容 | 株価 (2/17) (ドル) |
予想PER (倍) |
今期予想 EPS (ドル) |
来期予想 EPS (ドル) |
株価騰落 (1ヵ月) (%) |
株価騰落 (3ヵ月) (%) |
エクソン モービル(XOM) | 総合エネルギー | 78.23 | 11.77 | 6.65 | 6.12 | 7.0 | 23.0 |
シェブロン(CVX) | 総合エネルギー | 133.61 | 12.87 | 10.38 | 9.35 | 3.3 | 16.7 |
コノコフィリップス(COP) | 原油生産 | 91.16 | 10.32 | 8.84 | 7.83 | 4.2 | 25.7 |
EOG リソーシズ(EOG) | 原油生産 | 112.60 | 13.02 | 8.65 | 10.51 | 6.6 | 28.6 |
シュルンベルジェ(SLB) | 石油サービス | 41.11 | 20.87 | 1.97 | 2.64 | 9.5 | 29.0 |
ベーカーヒューズ A(BKR) | 石油サービス | 29.44 | 22.75 | 1.29 | 1.74 | 9.8 | 23.0 |
フリーポート マクモラン(FCX) | 銅生産 | 43.21 | 11.80 | 3.66 | 3.09 | -2.4 | 11.6 |
ニューモント(NEM) | 金生産 | 67.75 | 23.52 | 2.88 | 3.05 | 10.6 | 18.5 |
ニューコア(NUE) | 鉄鋼生産 | 120.94 | 6.49 | 18.63 | 7.07 | 13.3 | 8.3 |
アーチャー ダニエルズ ミッドランド(ADM) | 農産物商社 | 76.65 | 15.04 | 5.10 | 5.14 | 7.5 | 15.1 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (2/18) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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エクソン モービル(XOM) | 77.36 | 11.6 | 【総合エネルギー大手】 ・総合エネルギーの最大手です。原油生産に特化した会社ほどではありませんが、原油価格上昇の恩恵を大きく受けます。10-12月期の部門純利益に原油生産部門が占める割合は64%です。 ・10-12?期決算は原油価格・天然ガス価格の上昇を受けて売上が前年同期?83%増、純利益は前年同期の?字から88.7億ドルの黒字に転換、7-9?期の67.5億ドルも上回りました。2021年年間では2012年以来となる480億ドルの営業キャッシュフローを生み、配当を?払い、必要な投資を?ったうえで、200億ドルの負債を削減しています。?社株買いを復活して、今後12〜24ヵ?中に100億ドルを実?の予定です。予想配当利回りが4.5%と高水準です。 | ||
コノコフィリップス(COP) | 89.63ドル | 10.1 | 【原油生産に特化するエネルギー大手】 ・原油・天然ガスの探査・開発・?産を?う川上部門に特化しているため、原油価格上昇の恩恵は総合エネルギーよりも大きくなる傾向があります。2021年初にシェールオイル大手のコンチョリソーシズを買収したほか、2021年末にもロイヤルダッチシェルからも権益を取得、パーミアン盆地(シェールオイルの生産地)の生産比率が40%近くに上昇しています。 ・10-12月期の調整後純利益は30.1億ドルと、前年同期の2.0億ドルの赤字、7-9月期の23.7億ドルからも大きく改善しています。原油資産取得の効果で、2022年の生産量は前年比18%増を見込みます。同年の株主還元額を前年の70億ドルから80億ドルに増やす計画です。 | ||
シュルンベルジェ(SLB) | 40.21ドル | 20.4 | 【石油サービスの世界最大手】 ・石油サービスの世界最大手で、売上の約8割が海外市場です。原油価格が上昇すると探鉱や生産活動が活発化して、同社のサービスに対する需要が増えるため、業績は原油価格の影響を大きく受けます。 ・10-12月期の業績は、売上が前年同期比13%増、前四半期比6%増、調整後EPSは前年同期比86%増、前四半期比14%増と好調で、税前利益率は15.8%まで改善しています。2022年の事業環境についても、原油需要の回復に加えて、エネルギー各社が原油価格の回復を背景に設備投資を増やす計画であることから、非常に良好とコメントしています。 | ||
ニューモント(NEM) | 67.67ドル | 23.5 | 【世界最大級の産金会社】 ・19年1月にカナダのゴールドコープを買収してできた世界最大級の産金会社です。中核の北米主力鉱山のほか、豪州、ガーナ、南米に拠点を展開しています。金には金利が付かないため、金利上昇局面では不利な資産クラスと考えられますが、インフレ高進と地政学リスクの高まりを受けて金価格が動意付いています。ロシアは世界輸出の4.7%を占めます。 ・7-9月期の業績は、売上は前年同期比9%減、調整後純利益は同31%減と低調でした。金の平均販売価格が前年同期比7%減となったことに加えて、一部鉱山での機械トラブルの影響で金の生産量も同6%減となったことが要因です。10-12月期決算は、2/24(木)に発表の予定です。 | ||
アーチャー ダニエルズ ミッドランド(ADM) | 76.39ドル | 15.0 | 【世界2位の穀物メジャー】 ・カーギルに次ぐ世界2位の穀物メジャーで、油糧種子、とうもろこし、マイロ、オーツ麦、大麦 、ピーナッツ、小麦などの加工処理や、食料および飼料を最終用途とする作物の加工も手掛けます。また、バイオ燃料のエタノールの取扱いも行っています。ロシアは小麦で17.6%、大麦で12.1%の輸出シェアを占めています。 ・10-12月期の業績は、売上が前年同期比28%増、EPSが同13%増と好調でした。油脂種子部門は前年同期の水準が高かったために小幅に減益となりましたが、カーボハイドレートソリューションズ部門、ニュートリション部門は経済回復の恩恵を受けて大幅な増益でした。業績好調を受けて四半期配当を8%増やす意向です。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
21(月) | ・米国市場休場(ワシントン誕生日) ・じぶん銀行日本製造業PMI(2月) |
|
22(火) | ・ドイツIFO企業景況感(2月) ・米S&Pコアロジック住宅価格指数(12月) ・マークイット米製造業PMI(2月) ・米コンファレンスボード消費者信頼感(2月) ・米2年債入札 |
バージンギャラクティック、ホームデポ |
23(水) | ・米5年債入札 | ブッキングホールディングス、ロウズ ライブネーションエンタテインメント |
24(木) | ・米実質GDP(10-12月期、改定値) ・米シカゴ連銀全米活動指数(1月) ・米新規失業保険申請件数(2月19日に終わる週) ・米新築住宅販売件数(1月) ・米7年債入札 |
アリババグループ、モデルナ、ブロック(旧スクエア) ビヨンドミート、エッツィ |
25(金) | ・ユーロ圏景況感(2月) ・米耐久財受注(1月) ・米個人所得・個人支出(1月) ・米個人消費支出物価指数(1月) ・ミシガン大学消費者マインド(2月、確報値) ・米中古住宅販売成約(1月) |
|
26(土) | バークシャーハサウェイ | |
28(月) | ・日本鉱工業生産(1月) | ズームビデオコミュニケーションズ |
3月 1(火) |
・中国製造業・非製造業PMI(2月) | セールスフォースドットコム、ニオ、プラグパワー |
2(水) | ・米ISM製造業景気指数(2月) ・ユーロ圏生産者物価指数(1月) ・ユーロ圏消費者物価指数(2月) ・米ADP雇用統計(2月) ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) |
オクタ、シースリーエーアイ |
3(木) | ・ユーロ圏小売売上高(1月) ・米新規失業保険申請件数(2月26日に終わる週) ・米ISM非製造業景気指数(2月) ・米製造業受注(1月) |
ブロードコム、コストコホールセール |
4(金) | ・米雇用統計(2月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成