先週はメタプラットフォームズの失望決算、原油価格の上昇、英中央銀行の利上げなどを受けて2/3(木)に大幅反落となりましたが、週間では上昇が維持されました。今週の材料として、1月の米消費者物価指数、終盤を迎える10-12月期決算発表、1.9%台に乗せた米10年国債利回り、などが注目されます。
今回は先週好決算を発表した主要銘柄から、クアルコム(QCOM)、アドバンストマイクロ デバイシズ(AMD)、アルファベット A(GOOGL)、ユナイテッドパーセルサービス B(UPS)、アマゾン ドットコム(AMZN)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 4.9% | 12.4% | 18.9% |
一般消費財・サービス | 3.9% | -7.2% | -12.5% |
金融 | 3.5% | -2.7% | 0.2% |
S&P500 | 1.5% | -3.8% | -4.2% |
ヘルスケア | 1.3% | -1.7% | -0.5% |
情報技術 | 1.1% | -3.9% | -4.5% |
公益事業 | 0.8% | -2.8% | 1.9% |
資本財・サービス | 0.4% | -6.0% | -5.9% |
生活必需品 | 0.4% | -2.0% | 4.3% |
素材 | -0.2% | -7.0% | -5.3% |
不動産 | -0.2% | -5.2% | -2.8% |
コミュニケーションサービス | -0.3% | -6.3% | -12.6% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS) | 13.4% |
アマゾン・ドット・コム | 9.5% |
テスラ | 9.1% |
ボーイング | 8.3% |
エクソンモービル | 8.1% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ペイパル・ホールディングス | -22.9% |
メタ・プラットフォームズ | -21.4% |
フォード・モーター | -8.1% |
ギリアド・サイエンシズ | -7.2% |
ハネウェルインターナショナル | -5.1% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
1/31(月)は金融当局者から「3月に0.50%の利上げを行うことはほとんどない」など利上げに対する慎重論が語られたことから大幅続伸、S&P500指数は200日移動平均を回復しました。
2/1(火)はUPS、エクソンモービルなど決算を受けて株価が上昇した銘柄が全体をけん引、2/2(水)は前日に好決算と株式分割を発表したアルファベット、好決算のAMDの株価上昇がテクノロジー株を刺激して上昇しました。
一方、2/3(木)はS&P500指数が2.4%、ナスダック指数が3.7%の大幅安でした。メタプラットフォームズの失望決算による20%を超える株価下落がテクノロジー株への売りを誘ったほか、原油価格の上昇、英中央銀行の2会合連続での利上げ、1月雇用統計を控えての不安感が原因とみられます。
2/4(金)は、雇用統計で平均時給の上昇加速、原油価格の上昇、米10年国債利回りの1.9%台乗せなどマクロ的なネガティブ材料が多かったものの、アマゾンドットコムの株価上昇がテクノロジー株に対する懸念を緩和してS&P500指数、ナスダック指数は反発となりました。
S&P500指数は週間で1.5%、NYダウは1.0%、ナスダック指数は2.4%の上昇でした。
業種指数では、原油価格の続伸を受けた「エネルギー」、アマゾンドットコムやテスラの反発が貢献した「一般消費財・サービス」、10年国債利回りの上昇を受けた「金融」などが騰落率の上位でした。個別銘柄では、値上げが効いて好決算のユナイテッド パーセル サービス B(UPS)が買われた一方、パンデミックによる恩恵の反動が出ているペイパル ホールディングス(PYPL)、ユーザー数の伸びが鈍化して「TikTok」との競合が懸念されるメタ プラットフォームズ A(FB)が20%を超える下落となりました。
経済指標では、米国の1月雇用統計で非農業部門雇用者数が前月比46.7万人増と市場予想の同15万人増を大幅に上回り、12月分も同19.9万人増から同51万人増に大きく上方改定されました。今回は統計の年次改定で、ベースとなる月の値と季節調整ファクターに調整が加えられたために乖離が大きくなっています。
また、平均時給は前年比5.7%増と、前月の同5.0%増、市場予想の同5.2%増を大きく上回りました。これらの結果を受けて、市場では3月利上げの観測が強まり、米10年国債利回りは1.9%台に乗せました。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、1月の米消費者物価指数、終盤を迎える10-12月期決算発表、1.9%台に乗せた米10年国債利回り、などが注目されます。
2/10(木)に発表される1月の米消費者物価指数は、前年比7.3%増と12月の同7.0%増から伸び率が高まる予想です。インフレの高進とFRBの金融引き締めに敏感になっている株式市場には警戒要因となりそうです。
10-12月期決算発表は先週でピークを越え、終盤を迎えます。ここまでの結果は、S&P500指数採用企業のEPS(発表済み企業の実績と未発表企業の予想を混合)は前年同期比29.2%増の見込みで、2021年末予想の同21.3%増を7.9%ポイント上回っています(FactSet社の集計、2/4(金)時点)。
ネットフリックス、ペイパルホールディングス、メタプラットフォームズなど決算を受けて大幅に株価が下落するケースが目立ちましたが、10-12月期決算は全体としては好調と言ってよいでしょう。1-3月期の業績も売上が前年同期比5.6%増、EPSが同10.2%増の予想と、パンデミックによる落ち込みの反動増が抜けますが、堅調な増加が見込まれています。
米10年国債利回りは、1.8%前後で落ち着くかにみえましたが、先週は一気に1.9%台に乗せました。イングランド銀行が2会合連続での利上げを決め、欧州中央銀行(ECB)も年内の利上げを排除しない方針へ転換、原油価格(WTI先物価格)が92ドルへ上昇、雇用統計の平均時給も上昇率が拡大する、などが重なったことが背景にあるとみられます。
今週も上記の米消費者物価指数に加え、3年、10年、30年物の国債入札など、長期金利に影響を与えるイベントがあります。急激な金利上昇は株価の不安定要因となりますので、注意が必要でしょう。
経済指標では、上記の消費者物価指数のほか、2/11(金)に米国の2月ミシガン大学消費者マインド(前月の67.2から67.5に改善の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、アムジェン、ファイザー、ウォルトディズニー、コカ・コーラ、アファームホールディングス、データドッグ、ツイッター、フィリップモリスインターナショナル、イルミナ、マーチンマリエッタマテリアルズ、ペプシコなどの決算発表が予定されています。
「妥当なPER水準」を模索する米国株式市場
米国市場の予想PERは、「パンデミックによる一時的な企業業績の落ち込み」と「金融緩和による過剰流動性」が勘案され、2020年から2021年にかけては20倍以上が許容されてきました。
しかし、経済の正常化が進み、企業業績も回復し、また、例外的な金融緩和措置も正常化に向かう中で、20倍を超える予想PERが高過ぎることは2021年の10-12月期あたりから意識されていました。
S&P500指数の長期的な予想PERの推移をみると、15〜19倍が中心レンジとなっています。現在の投資環境下で20倍以上は高過ぎるけれども、どの水準が妥当かは市場コンセンサスがないとみられ、現在はこれを模索している段階にあると考えられます。1月に起こった急激な株価調整は、その過程と考えられます。
「妥当なPERの水準」は、企業利益の成長見通しや長期金利の水準などが重要な目安となりますが、結局のところ、市場参加者がどう考えるかによります。このため、1月の値動きが参考になります。
予想PERの下限として参考となるのは、強烈な押し目買いが入った1/24(月)です。同日の安値は予想EPSを235ポイント(2022年予想EPSと2023年予想EPSの平均)18.0倍にあたり、現在の投資環境下で17倍台に滞留することはないと多くの機関投資家が考えて、押し目買いが入ったとみられます。
また、1/25(火)〜1/28(金)の安値は4,300ポイント前後にあり、18.3倍にあたるこの水準でも執拗に押し目買いが入っているようです。このため、18倍台の前半は市場参加者のコンセンサスとして割安と判断されているとみられます。
一方、上限については、まだはっきりしません。投資環境が従来に比べて変化しているので、また直ぐに20倍以上に戻る可能性は小さいと考えられます。ただ、依然として長期金利の水準が2%以下と低いことを考えると、市場のセンチメントが回復するときには20倍近くまで戻る可能性はあると考えられます。
以上から、当面の予想PERは18〜20倍の間で推移しそうです。先週2/2(水)の戻り高値が19.6倍相当だったことを考えると19倍が当面の妥当PERとして考えられている可能性があるでしょう。
今週の5銘柄
今回は先週好決算を発表した主要銘柄から、クアルコム(QCOM)、アドバンストマイクロ デバイシズ(AMD)、アルファベット A(GOOGL)、ユナイテッド パーセル サービス B(UPS)、アマゾン ドットコム(AMZN)を選んでご紹介いたします。
図表3 先週の好決算銘柄の決算概要
銘柄(コード) | 前年同期比成長率 | 事前予想比サプライズ | ||
売上増加率 (%) |
EPS増加率 (%) |
売上増加率 (%) |
EPS増加率 (%) |
|
クアルコム(QCOM) | 29.9 | 48.9 | 2.4 | 7.6 |
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 48.8 | 76.9 | 7.2 | 22.0 |
アルファベット A(GOOGL) | 33.3 | 59.5 | 4.3 | 12.2 |
ユナイテッド パーセル サービス B(UPS) | 11.6 | 35.0 | 2.6 | 15.7 |
アマゾン ドットコム(AMZN) | 9.4 | 97.0 | -0.3 | 635.9 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (2/4) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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クアルコム(QCOM) | 179.47ドル | 15.2 | 【スマホ向け半導体が好調】 ・10-12月期の実績、1-3月期のガイダンスとも市場予想を大きく上回りました。5G(第5世代移動通信システム)の普及が本格化しており、同社は(1)スマホ向けSoC売価の上昇、(2)スマホ卸値に連動する特許料の増加、(3)高周波部品の拡充、(4)自動車の通信機能強化、などが増収要因となって業績拡大が続く見通しです。
・10-12月期決算は、売上が前年同期比30%増、調整後EPSが同49%増と好調。部門別の売上は、QCT部門が前年同期比35%増、QCL部門が同10%増で、QCT部門の内訳は、スマホが同42%増のほか、高周波部品が同7%増、自動車が同21%増、IoTが同41%増でした。1-3月期のガイダンスは、売上が102〜110億ドル(市場予想は95.9億ドル)、EPSは2.80ドル以上(市場予想は2.48ドル)として、いずれも、市場予想平均を大きく上回りました。 | ||
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 123.60ドル | 32.5 | 【サーバー向けCPUのシェア拡大が続く】 ・サーバー向けCPUが好調で、インテルに対するシェア拡大が続いていることが確認されました。同社の予想PERは半導体銘柄の中では高めで、高PER銘柄が売られる中で株価の調整が大きくなりました。しかし、成長のポテンシャルが高いことを反映したものと考えられます。 ・10-12月期は市場予想を大きく上回る好決算となりました。粗利率は50%で、前年同期比5%ポイント、前四半期比2%ポイントの改善です。コンピューティング&グラフィックス部門の売上が前年同期比32%増、エンタープライズ、組み込み、セミカスタム部門の売上がサーバー向けがけん引して同75%増となりました。1-3月期の売上は前年同期比45%増相当、2022年12月期は前年比31%増と好調持続の見通しです。 | ||
アルファベット A(GOOGL) | 2865.86ドル | 22.9 | 【ネット広告が好調】 ・ネット広告が好調で、市場予想を上回る好決算となったことに加え、1対20の株式分割の計画(7月1日に実施の予定)が好感されました。同社と同じくネット広告を主力とするメタプラットフォームズは、アップルによる広告規制の影響が大きく出ている模様ですが、アルファベットは同広告規制の影響が及ぶ範囲が相対的に小さく、また、影響を限定する手段をもっていることに違いがあるようです。 ・10-12月期決算は、主力のグーグル検索連動広告が前年同期比36%増と、サプライチェーン問題で企業の広告が抑制される中でも堅調を保ち、市場予想を上回って好調でした。成長をけん引する事業のうち、ブランド広告を主体とするYouTubeの売上(前年同期比25%増)は市場予想を下回りましたが、クラウド事業の売上(同45%増)は市場予想を上回りました。 | ||
ユナイテッド パーセル サービス B(UPS) | 224.79ドル | 17.6 | 【B2B物流の増加、値上げで好決算】 ・10-12月期は市場予想を上回る好決算でした。ネット通販事業が減益となったアマゾンドットコムとの違いは、同社もB2Cの数量は前年同期比4%減でしたが、B2Bが同9%増となってカバーしたこと、また、B2Bのほうが事業環境の変化に伴う料金の値上げが浸透しやすいことが要因とみられます。 ・10-12月期決算は、売上が前年同期比12%増、調整後EPSが同35%増と好調でした。労働者不足やインフレの圧力を料金の値上げで相殺して、営業利益率も前年同期の11.5%から14.2%に改善しています。荷物当たりの収入は前年同期比10.5%の増加となっています。2022年12月期のガイダンスは、米国売上が前年比5.5%増程度、海外売上が同7.7%増程度、営業利益率は前年の13.5%から13.7%に改善する見通しです。 | ||
アマゾン ドットコム(AMZN) | 3152.79ドル | 46.3 | 【プライム会員の会費を値上げ】 ・10-12月期の売上、1-3月期ガイダンスは売上・EPSとも市場予想を下回る決算となりましたが、プライム会員の会費値上げとクラウド事業の好調が好感されて2/4(金)の株価は13.5%上昇しました。プライム会員の会費値上げは、年間で119ドルから139ドルへ、月間で12.99ドルから14.99ドルへ、3月25日から実施されます。 ・10-12月期決算は、売上が前年同期比9%増、営業利益は労働者不足やインフレ圧力の影響で同50%減、EPSはリビアンへの投資に関して118億ドルの営業外利益を計上して同97%増となりました。北米ネット通販の売上は前年同期比9%増を確保しましたが、営業利益はコスト増で2億ドルの赤字(前年同期は29.5億ドルの黒字)に転落しました。一方、クラウドサービスのAWSの売上が前年同期比40%増、営業利益が同48%増と好調でした。1-3月期のガイダンスは、売上が1,120〜1,170億ドル、営業利益が30〜60億ドルとして、いずれも市場予想を下回りました。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、クアルコムが2022年9月期、その他は2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
7(月) | ・米消費者信用残高(12月) | アムジェン? |
8(火) | ・米NFIB中小企業楽観指数(1月) ・米貿易統計(12月) ・米3年債入札 |
ファイザー、ドクシミティ エンフェーズエナジー |
9(水) | ・日本工作機械受注(1月) ・中国資金調達総額(1月、15日までに発表) ・米10年債入札 |
ウォルトディズニー、トリンブル、ウィンリゾーツ |
10(木) | ・米消費者物価指数(1月) ・米新規失業保険申請件数(2月5日に終わる週) ・米30年債入札 |
コカ・コーラ、アファームホールディングス、データドッグ ツイッター、フィリップモリスインターナショナル、イルミナ マーチンマリエッタマテリアルズ、ペプシコ |
11(金) | ・米ミシガン大学消費者マインド(2月) | ブリティッシュアメリカンタバコ、アンダーアーマー |
14(月) | ・ユーロ圏鉱工業生産(12月) | |
15(火) | ・ドイツZEW景気指数(2月) ・ユーロ圏実質GDP(10-12月期、改定値) ・米生産者物価指数(1月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(2月) |
ロイヤルティファーマ、エアビーアンドビー アップスタートホールディングス |
16(水) | ・中国生産者・消費者物価指数(1月) ・米小売売上高(1月) ・米鉱工業生産(1月) ・米NAHB住宅市場指数(2月) ・FOMC議事要旨(1月25日、26日開催分) ・米20年債入札 |
エヌビディア、パランティアテクノロジーズ アリババグループ、アルベマール、アプライドマテリアルズ シスコシステムズ、ヒルトンワールドワイドホールディングス |
17(木) | ・日本機械受注(12月) ・EU27ヵ国新車登録台数(1月) ・米住宅着工・建設許可件数(1月) ・米新規失業保険申請件数(2月12日に終わる週) ・米フィラデルフィア連銀製造業景気指数(2月) ・米30年債入札 |
ウォルマート、キーサイトテクノロジーズ |
18(金) | ・米中古住宅販売件数(1月) ・ユーロ圏消費者信頼感(2月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成