先週は5週連続での上昇を経て株価の調整気運が強まっていたところに、10月消費者物価が市場予想を上回る上昇となって、6週ぶりの下落となりました。今週は大手小売の決算と年末商戦の動向、米中関係の行方、欧州の新型コロナ感染状況、などが注目されます。
今回はS&P100指数採用銘柄を対象に四半期決算をはさんで「通期予想EPS」「目標株価」が上方修正された銘柄群を抽出し、そこからマイクロソフト(MSFT)、クアルコム(QCOM)、ネットフリックス(NFLX)、ゼネラル エレクトリック(GE)、テスラ(TSLA)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
素材 | 2.5% | 7.0% | 4.2% |
ヘルスケア | 0.6% | 4.5% | 0.1% |
資本財・サービス | 0.4% | 3.8% | 1.8% |
金融 | 0.3% | 1.5% | 4.1% |
情報技術 | 0.2% | 7.2% | 7.9% |
不動産 | 0.0% | 4.3% | 3.1% |
生活必需品 | -0.2% | 3.1% | 1.0% |
S&P500 | -0.3% | 4.7% | 4.8% |
コミュニケーションサービス | -0.5% | 2.4% | 0.1% |
公益事業 | -1.1% | 1.1% | -3.0% |
エネルギー | -1.7% | 0.0% | 17.1% |
一般消費財・サービス | -3.2% | 7.2% | 11.6% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
ゼネラル・モーターズ(GM) | 8.3% |
ネットフリックス | 5.7% |
フェデックス | 4.6% |
マスターカード | 4.2% |
ダナハー | 4.2% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
テスラ | -15.4% |
ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー | -9.1% |
ペイパル・ホールディングス | -7.7% |
ブッキング・ホールディングス | -6.4% |
ナイキ | -4.7% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
5週連続の上昇から調整モードに変化して6週ぶりに下落しました。11/8(月)は11/5(金)夜に下院で可決されたインフラ投資法案が相場を支えましたが、S&P500指数は前日に続いて相場の転換点に出やすい「十字線」となりました。はたして11/9(火)は下落に転じました。
11/10(水)は10月消費者物価指数が予想を上回る上昇となって、金融引き締めのスケジュールが前倒しになるのではとの懸念から全面安となりました。11/11(木)は小幅に反発、新規上場したリビアンオートモーティブが大幅上昇するなど一部銘柄は活況となっています。
11/12(金)はミシガン大学消費者マインドが予想外に低下しましたが、アップルやマイクロソフトなどグロース株が主導して反発しました。米中首脳会談が実現する可能性が好感された可能性もありそうです。
S&P500指数は週間で0.3%、NYダウは0.6%、ナスダック指数は0.7%の下落でした。
業種指数では、インフレ懸念による金価格の上昇を受けた金鉱株の上昇が寄与して「素材」がトップ、ボトムの「一般消費財・サービス」はマスクCEOによる保有株売却で下落したテスラの寄与が大きくなっています。
個別銘柄では、ゼネラル モーターズ(GM)の上昇が目立ちました。11/10(水)に新規上場したEVメーカー、リビアン オートモーティブ(RIVN)が公募価格の78ドルから67%の上昇となっていることが刺激となっているようです。同社は大型ピックアップトラックやSUVをターゲット市場としています。また、バイデン大統領が11/17(水)にゼネラルモーターズのEV工場を訪問してスピーチすることも注目を高めているようです。
経済指標では、米国の10月消費者物価指数が前年比6.2%増となり、前月の同5.4%増から拡大、市場予想の同5.9%増も上回りました(図表3)。9月から10月にかけての上昇率拡大に対して、食品、エネルギー、食品・エネルギー以外のモノ、サービスと幅広く寄与しています。いずれの項目の上昇にも一時的な要因を含むとみられますが、どのようなペースで緩和していくか予想は難しそうです。しばらく、高い上昇率が続くことを警戒する必要がありそうです。
今週の米国株式市場
大手小売の決算と年末商戦の動向、米中関係の行方、欧州の新型コロナ感染状況、などが注目されます。
今週はウォルマート、ターゲット、ホームデポなど大手小売の8-10月期決算、米国の10月小売売上高などの発表があり、年末商戦の動向に関心が高まりそうです。貯蓄が高水準に積み上がって個人消費の環境は良く、全米小売業協会は年末商戦の売上(11月、12月)は前年比8.5〜10.5%増と見込んでいます(10/27(水)発表)。一方、市場ではサプライチェーン問題の影響がどのような形ででるかが気にされています。
米中関係は冷え込んだ状態が続いてきましたが、米中首脳のオンライン会議が米東部時間の11/15(月)夕方から夜、日本時間11/16(火)の午前中に開催される予定です。声明では「両首脳はアメリカと中国との競争を責任をもって管理していく方法や利益が重なる分野でどう協力していくかについて議論することになる」としています。「大きな成果が期待できるものではない」とされますが、会話の実現自体がポジティブで、さらに冷たい関係がいくらかでも緩む兆しがあれば、市場が好感すると期待されます。
ワクチン接種の進展や経口治療薬の開発により、株式市場の新型コロナ感染に対する感応度は低下してきました。しかし、完全に関係なくなるというにはまだ早いでしょう。欧州の1日当たり新規感染者数は30万台半ばと過去最高レベル近くに到達しています。冬の到来が早い欧州での感染が拡大傾向となっていることには注意が必要とみられます。
経済指標では、米国の10月小売売上高(前月比1.3%増の予想)、米国の10月住宅着工件数(前月比1.6%増の予想)、米国の10月住宅建設許可件数(前月比2.8%増の予想)、などの発表が予定されています。
11/15(月)に発表の日本の7-9月期実質GDPは前期比年率0.7%減の予想に対して同3.0%減の実績、中国の10月鉱工業生産は前年比3.0%増の予想に対して同3.5%の実績(前月は同3.1%増)、10月小売売上高は前年比3.7%増の予想に対して同4.9%増の実績(前月は同4.4%増)でした。
企業イベントでは、ウォルマート、ホームデポ エヌビディア、シスコシステムズ、ターゲット、ロウズ アプライドマテリアルズなどの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は主要企業の7-9月期決算がほぼ出そろったところで、S&P100指数採用銘柄を対象に以下の条件でスクリーニングを行いました。
【スクリーニング条件】
(1)通期予想EPSの修正率(過去4週)が+2%以上
(2)アナリストによる目標株価平均値の修正率(過去4週)が+2%以上
(3)来期予想EPSの増益率が+5%以上
図表4に抽出された銘柄から、マイクロソフト(MSFT)、クアルコム(QCOM)、ネットフリックス(NFLX)、ゼネラル エレクトリック(GE)、テスラ(TSLA)を選んでご紹介いたします。
図表3 米国の消費者物価と生産者物価
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 通期予想EPSと目標株価の修正率に着目したスクリーニング(S&P100指数採用銘柄が対象)
コード | 銘柄 | 株価 (11/11) (ドル) |
予想PER (倍) |
EPS修正率 (4週) (%) |
目標株価 修正率 (4週) (%) |
来期EPS 増益率 (%) |
目標株価 乖離率 (%) |
COP | コノコフィリップス | 72.14 | 12.55 | 13.6 | 8.6 | 32.3 | 22.1 |
TSLA | テスラ | 1063.51 | 173.75 | 13.2 | 17.9 | 39.6 | -26.1 |
CVX | シェブロン | 114.16 | 14.17 | 11.7 | 4.3 | 16.2 | 10.5 |
QCOM | クアルコム | 164.42 | 16.09 | 10.2 | 3.7 | 7.8 | 10.5 |
BKNG | ブッキング・ホールディングス | 2479.04 | 58.47 | 6.8 | 8.1 | 136.8 | 10.4 |
XOM | エクソンモービル | 64.31 | 13.09 | 6.8 | 5.4 | 19.6 | 8.4 |
MSFT | マイクロソフト | 332.43 | 36.22 | 4.6 | 7.2 | 13.1 | 8.9 |
NFLX | ネットフリックス | 657.58 | 58.54 | 3.4 | 6.5 | 17.0 | 3.6 |
GE | ゼネラル・エレクトリック(GE) | 107.00 | 52.66 | 3.4 | 5.2 | 98.6 | 16.4 |
MRK | メルク | 84.02 | 14.32 | 2.7 | 2.3 | 22.2 | 16.5 |
GOOGL | アルファベット | 2915.33 | 24.81 | 2.0 | 3.0 | 6.8 | 14.0 |
LIN | Linde PLC | 335.66 | 31.70 | 2.0 | 4.6 | 10.5 | 5.6 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (11/12) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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マイクロソフト(MSFT) | 336.72ドル | 36.7 | 【企業のDX投資のテーマに乗る銘柄】 ・企業のDX(デジタルトランスフォメーション)投資という注目の投資テーマに乗ること、サプライチェーンの問題は一部事業に影響が出る可能性がありますが、構成比は大きくないことから、物色されやすい状況が続くと考えられます。 他の大手ITのような独占禁止法による規制の問題がないことも安心できる要因です。 ・7-9月期決算では、主要3部門ともまんべんなく売上・利益が市場予想を上回りました。部門別の売上は、プロダクティビティ&ビジネスプロセスが前年同期比22%増、インテリジェントクラウドが同31%増、モアパーソナルコンピューティングが同12%増です。10-12月期の売上ガイダンス(部門ごとの売上ガイダンスの合計)は、501.5〜510.5億ドルで、中央値は市場予想の489.2億ドルを3.4%上回りました。 | ||
クアルコム(QCOM) | 164.94ドル | 16.1 | 【5G端末普及の恩恵を受ける】 ・サプライチェーン問題の影響が懸念されていましたが、10-12月期の売上ガイダンスのレンジ中央値が前年同期比26%増、市場予想を7%上回ったことで安心感が広がっています。5G端末の普及によるモデムチップの需要増に加え、高周波部品でのシェア拡大により2022年にかけても高い売上の伸びが続くと期待されます。 ・7-9月期の売上は、GAAPベースでは前年同期比12%増ですが、前年同期の売上に含まれる一時的要因(ファーウェイとのライセンス契約に関係する一時金)を除くと同43%増です。部門別の売上は半導体のQCTが同56%増、ロイヤリティのQTLが同3%増でした。QCTはハンドセットが同56%増のほか、高周波部品、自動車、IoTともに同40%を超える伸びとなっています。 | ||
ネットフリックス(NFLX) | 682.61ドル | 51.9 | 【グローバル展開のポテンシャルが再認識される可能性】 ・7-9月期決算では4-6月期に154万人と低調だった新規加入者数が438万人(市場予想は350万人増)と回復、10-12月期新規加入者数のガイダンスも850万人と、回復基調が続く見込みです。新型コロナの影響で上半期のコンテンツ制作は低調となりましたが、下半期は順調なリリースになるとコメントしています。 ・9/17(金)に配信を開始した韓国ドラマの「イカゲーム」が4週間で1億4,200万世帯で視聴され、同社史上最大のヒットとなって世界的に注目を集めています。事業を展開する重要市場で現地でのコンテンツ制作に出資する、同社独自の取り組みの成果と言え、グローバルに展開する動画配信サービスの新たな潜在力を評価する動きがでてくる可能性があります。 | ||
ゼネラル エレクトリック(GE) | 107.59ドル | 26.6 | 【会社を3分割する方針を発表】 ・11/9(火)に将来会社を3分割して、コングロマリットの歴史を終える方針を発表しました。航空機部門がGEの中心となり、ヘルスケア部門は2023年に、発電部門と再生エネルギー部門を2024年にスピンオフする意向です。投資家が多面的に事業展開する企業よりも焦点を絞った企業を選好するようになり、また、経営のスピードが重要になっていることが背景にあるとみられます。同発表を受けて同社株価は上昇しています。 ・7-9月期決算は、売上が前年同期比1%減で市場予想を下回ったものの、EPSは前年同期の赤字から黒字に転換して市場予想を33%上回りました。受注も前年同期比42%増と回復しています。これを受けて2021年12月期のEPSガイダンスを1.2〜2.0ドルから1.8〜2.1ドルへ引き上げました。 | ||
テスラ(TSLA) | 1033.42ドル | 121.0 | 【マスクCEOの保有株一部売却で株価が下落】 ・7-9月期決算では、自動車事業の粗利益率が温室効果ガスの排出権取引による利益を除いたベースで市場予想を上回ったことが評価されています。今後の売上拡大に影響の大きいテキサスとベルリンに建設中の新工場では、引き続き年内の生産開始を見込んでいるとしました。株価の現値はアナリストによる目標株価平均値を大幅に上回っていますが、主力銘柄の中で4-6月期に続いて業績修正のモメンタムが最も強い銘柄の一つとなり、注目できるでしょう。 ・7-9月期決算は自動車販売台数の増加によって売上が前年同期比57%増、EPSは同2.4倍と伸びました。自動車の販売単価は普及タイプの「モデル3」の比率増加によって同6%の低下となりました。売上は市場予想をやや下回ったものの、粗利率が予想を上回ったことでEPSは市場予想を11%上回りました。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、マイクロソフトが2022年6月期、クアルコムが2022年9月期、その他は2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
15(月) | ・日本実質GDP(7-9月期、速報値) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(10月) ・中国調査失業率(10月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(11月) |
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16(火) | ・ユーロ圏実質GDP(7-9月期、速報値) ・米小売売上高(10月) ・米鉱工業生産(10月) ・米NAHB住宅市場指数(11月) |
ウォルマート、ホームデポ |
17(水) | ・日本機械受注(9月) ・米住宅着工・建設許可件数(10月) |
エヌビディア、シスコシステムズ、ターゲット、ロウズ |
18(木) | ・EU27ヵ国新車登録台数(10月) ・米新規失業保険申請件数(11月13日に終わる週) ・フィラデルフィア連銀製造業景気指数(11月) |
アプライドマテリアルズ |
19(金) | ||
22(月) | ・シカゴ連銀全米活動指数(10月) | ズームビデオコミュニケーションズ、キーサイトテクノロジーズ |
23(火) | ・米中古住宅販売件数(10月) ・ユーロ圏消費者信頼感(11月) ・じぶん銀行日本製造業PMI(11月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(11月) ・マークイット米国製造業PMI(11月) |
ベストバイ、ダラーツリー |
24(水) | ・ドイツIFO企業景況感(11月) ・米新規失業保険申請件数(11月20日に終わる週) ・米実質GDP(7−9月期、改定値) ・米耐久財受注(10月) ・米個人所得・個人支出(10月) ・米ミシガン大学消費者マインド(11月、確報値) ・米新築住宅販売件数(10月) ・FOMC議事要旨(11月2日、3日開催分) |
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25(木) | ・米休場(感謝祭) | |
26(金) | ・ブラックフライデー |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成