先週は市場予想を上回る銀行決算、改善が続く経済指標にも関わらず、米10年国債利回りが低下したことから、S&P500指数は史上最高値更新に進みました。今週は企業の1-3月期決算発表、米10年国債利回りの動向、米国主催の気候サミット、などが注目されます。
今回は過去2週間グロース株が買われた局面でアンダーパフォームした銘柄群から、バリュー株・景気敏感株を中心に、コノコフィリップス(COP)、ダウ(DOW)、JPモルガン チェース(JPM)、フォード モーター(F)、キャタピラー(CAT)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
公益事業 | 3.7% | 8.8% | 7.0% |
素材 | 3.2% | 6.3% | 9.0% |
ヘルスケア | 2.9% | 5.8% | 3.0% |
不動産 | 2.6% | 7.9% | 15.0% |
一般消費財・サービス | 2.0% | 8.4% | 7.9% |
S&P500 | 1.4% | 7.0% | 10.2% |
生活必需品 | 1.3% | 5.9% | 6.6% |
情報技術 | 1.1% | 10.7% | 10.9% |
金融 | 0.7% | 3.8% | 14.1% |
資本財・サービス | 0.6% | 5.1% | 13.5% |
エネルギー | 0.2% | -1.3% | 10.9% |
コミュニケーションサービス | 0.0% | 4.7% | 15.9% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
エヌビディア | 10.5% |
テスラ | 9.3% |
ウェルズ・ファーゴ | 8.2% |
ファイザー | 5.4% |
ロウズ | 4.9% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
バンク・オブ・ニューヨーク・メロン | -5.2% |
インテル | -5.1% |
モルガン・スタンレー | -2.6% |
ゼネラル・モーターズ(GM) | -2.4% |
フォード・モーター | -2.2% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
週前半は3年債・10年債・30年債の入札が堅調で米10年国債利回りの上昇に歯止めがかかり、株式は堅調に推移しました。4/13(火)にはジョンソン&ジョンソンの新型コロナワクチンに一時的な使用中止勧告が出ましたが、当面1日300万回の接種は確保できるとされ、決定的な悪材料とはなりませんでした。
4/14(水)は新規上場の暗号資産取引所コインベースグローバル(COIN)が381ドルの寄値から下落したことから、テクノロジー株主導で下落しました。一方、4/15(木)は3月小売売上高が予想を上回る好調でしたが、米10年国債利回りが1.5%台に低下したため株式は全面高となりました。4/16(金)もVIX指数が16.25と1年2ヵ月ぶりの水準に低下するなど株式市場は落ち着いた雰囲気で続伸となりました。
S&P500指数は週間で1.4%、NYダウは1.2%、ナスダック指数は1.1%の上昇でした。
業種指数では、米10年国債利回りが低下したことから配当利回りが高い「公益事業」が騰落率トップ、銅価格の上昇を受けてフリーポートマクモラン、ニューモントなどがけん引した「素材」が2位でした。個別銘柄では、エヌビディア(NVDA)がサーバー向けCPU市場への進出が好感されて大きく上昇しました。
経済指標では、米国の3月小売売上高が前月比9.8%増と市場予想の同5.9%増を大幅に上回りました。現金給付に加え、経済再開の効果が出たと考えられます。また、中国の1-3月期実質GDPが前年比18.3%増、3月の鉱工業生産が同14.1%増、小売売上高が同34.2%増、輸出が同30.6%増、輸入が同38.1%増と、いずれも経済活動の回復を示すものとなりました。
今週の米国株式市場
企業の1-3月期決算発表、米10年国債利回りの動向、米国主催の気候サミット、などが注目されます。
今週は、IBM、コカ・コーラ、ジョンソン&ジョンソン、P&G、ベライゾンコミュニケーションズ、AT&T、インテル、ダウ、アメリカンエキスプレスなどNYダウ採用銘柄の約3分の1が決算を発表します。このほか、ネットフリックス、フィリップモリスインターナショナルなどの決算発表も予定されています。
銀行の決算ではわからない産業分野の企業の利益率に対するコモディティ価格上昇、サプライチェーンの問題などコスト上昇圧力の影響が注目されています。また、バイデン大統領が打ち出した法人税の増税構想に対するコメントが出る可能性もあるでしょう。
S&P500指数採用企業の1-3月期EPSは、発表済み企業と未発表企業の予想の混合で、前年同期比30.2%増の予想です(FactSet集計、4/16(金)時点)。パンデミックによる前年同期の落ち込みからの反動もあり、20年10-12月期の同3.9%増から大幅に加速する見通しです。
米10年国債利回りの動向について、生保など日本の機関投資家の動きが注目されています。4/15(木)に発表された財務省のデータによると、4/10(土)に終わる週の中長期債のネット投資額は1.7兆円の大幅な買い越しとなっています(図表3)。金利が上昇した2月下旬の大幅な売り越しから買い越し基調に転じており、市場には新年度の運用方針決定を受けて買い越しが続くのではとの期待があるようです。
米国主催の気候サミットはオンライン形式で、中国の習国家主席を含む世界各国・地域の首脳40人を招待して開催されます。参加国は世界の温室効果ガス排出量の約8割を占める17カ国・地域が含まれる予定です。先週の日米首脳会談では、懸念された通り米中対立がクローズアップされました。一方、気候変動の分野では中国を含んで国際的な協調が期待できるでしょう。
S&P500指数の予想PERは、現在の予想EPSである176ポイントに対して23.7倍、予想EPSが今後の上方修正を織り込んで190ポイントになったとしても22.0倍に到達しています。予想PERは長期的な平均水準である17〜18倍を大きく上回っていることから、あまり強気になり過ぎないように注意して臨む必要があるでしょう。
経済指標では上記のほか、4/22(木)に米国の3月中古住宅販売件数(前月比1.1%減の予想)、4/23(金)に米国の3月新築住宅販売件数(前月比14.3%増の予想)、などの発表が予定されています。
今週の5銘柄
米10年国債利回りが3/30(火)にピークを付けて反落する過程で、グロース株には押し目買いが入って大きく上昇、バリュー株・景気敏感株はアンダーパフォームとなりました。
一方、中期的には経済再開が進むにつれて長期金利は上昇しやすい地合いが続くと考えられることから、バリュー株・景気敏感株が再びアウトパフォームする可能性は高いと考えられます。そこで今回は、3/30(火)から4/15(木)の期間に株価が下げた銘柄から以下のスクリーニング条件で銘柄をピックアップしました。
【スクリーニング条件】
(1)3/30(火)から4/15(木)の株価騰落率がマイナス(S&P500指数は同期間に5.4%の上昇)
(2)過去3ヵ月のEPS修正率がプラス、今年度の予想EPSが前年比プラス
(3)S&P500指数の採用銘柄で時価総額が400億ドル以上
図表4に抽出された銘柄からバリュー株・景気敏感株を中心に、コノコフィリップス(COP)、ダウ(DOW)、JPモルガン チェース(JPM)、フォード モーター(F)、キャタピラー(CAT)の5銘柄を選んでご紹介いたします。
図表3 日本の機関投資家のネット債券投資(週次)
注:日付の日に終わる週の中長期債のネット取引額です。
※日本の財務省データをもとにSBI証券が作成
図表4 過去2週間の株価騰落率が市場平均を下回った銘柄群(S&P500指数採用銘柄対象)
コード | 銘柄名 | 株価 (4/15) (ドル) |
予想PER (倍) |
株価騰落率 (3/30〜 4/15) (%) |
EPS 修正率 (3ヵ月) (%) |
予想EPS 増加率 (今期) (%) |
EOG | EOGリソーシズ | 72.83 | 13.7 | 0.0 | 93.9 | 263.3 |
COP | コノコフィリップス | 51.90 | 20.5 | -2.9 | 84.4 | 360.8 |
DOW | Dow Inc | 64.57 | 13.5 | -0.1 | 58.7 | 188.2 |
CVX | シェブロン | 103.42 | 19.5 | -2.4 | 51.6 | 2753.0 |
C | シティグループ | 72.54 | 9.0 | -0.6 | 27.0 | 64.9 |
JPM | JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー | 152.17 | 11.9 | -0.9 | 24.3 | 43.6 |
BAC | バンク・オブ・アメリカ | 38.74 | 13.7 | -0.6 | 19.1 | 51.2 |
TFC | トゥルイスト・ファイナンシャル | 57.22 | 13.0 | -2.7 | 11.9 | 15.5 |
F | フォード・モーター | 12.24 | 10.4 | -1.8 | 10.4 | 186.8 |
CAT | キャタピラー | 232.52 | 27.9 | -0.2 | 8.9 | 27.1 |
JNJ | ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J) | 160.39 | 16.9 | -2.8 | 5.9 | 18.4 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (4/16) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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コノコフィリップス(COP) | 51.09ドル | 20.2 | 【原油価格回復に加え、買収効果も】 ・石油・天然ガスの探鉱・生産の上流部門に特化するエネルギー企業の大手です。原油価格が回復基調にあることに加え、21年1月にパーミアン盆地で操業するコンチョ・リソーシズの買収を完了していることから、21年1-3月期の業績の伸びが高くなっています。 ・3月末に発表された1-3月期の業績概況では、生産量は1日当たり石油換算バレルで前年同期の129万に対して147〜149万(前年同期比14〜16%増)、原油の平均販売価格は前年同期の48.8ドルに対して56〜58ドル(前年同期比15〜19%増)と、生産量・価格とも伸びています。通年の設備投資額55億ドルと1日当たり150万石油換算バレルのガイダンスは維持されました。1-3月期の決算発表は5/4(火)の予定です。 | ||
ダウ(DOW) | 64.68ドル | 13.5 | 【景気敏感の代表的企業】 ・19年4月にダウ・デュポンからスピンオフした化学素材メーカーです。スピンオフ以来、事業の透明性が増し、コスト削減への踏み込みが強まって、株式市場からの信頼性が増しているとみられます。また、天然ガスを主な原料としていることで原油を原料とする同業他社に対してコスト競争力が高く、景気回復時には業績の伸びが相対的に高くなると期待されます。 ・20年10-12月期決算は、景況の回復を受けて製品の平均販売価格が7-9月期比8%上昇して、売上は同10%増となり前年同期比でも5%増に改善しました。21年1-3月期についても前四半期比で価格は強含みとなる見通しです。特にパッケージ&特殊プラスチックは、ポリエチレンの需給がタイトな上にワクチン配布による需要増もあり、前四半期比2〜5%の上昇が見込まれています。1-3月期の決算発表は、4/22(木)の予定です。 | ||
JPモルガン チェース(JPM) | 153.30ドル | 12.0 | 【予想を上回る好決算】 ・米国で最大の資産規模を誇る銀行で、全米トップの投資銀行、資産管理、プライベートバンキングを展開しています。6月末に判明するストレステストにパスすれば、昨年12月に取締役会で承認された300億ドルの自社株買い計画は増額される期待があります。 ・4/14(水)に発表された1-3月期決算は、投資銀行や市場関連収入がけん引したほか、信用コストが貸倒引当金の戻し入れで42億ドルのプラスに寄与したことで、純利益は前年同期比5倍、前四半期と比べても18%増と好調でした。純金利収入は、利ザヤの圧縮や消費者向け貸出の低迷で前年同期比11%減となりましたが、非金利収入は株式の引受手数料や住宅ローンの組成手数料などで同40%増でした。通期のガイダンスは、純金利収入が約550億ドル(前回は555億ドル)、非金利費用は約700億ドル(前回は680億ドル)としました。 | ||
フォード モーター(F) | 12.23ドル | 10.4 | 【欧州の全乗用車を2030年までにEVにする】 ・GMと並んで米国最大級、世界4位の自動車メーカーで、「フォード」ブランドの大型車、SUV、ピックアップトラック、「リンカーン」ブランドの高級セダンを展開しています。主力のピックアップトラック「F-150」は昨年フルモデルチェンジしました。同社は2030年までに欧州の全乗用車をEVにするとして市場の注目を集めています。欧州は2020年12月期の自動車販売台数が27%を占める重要市場です。 ・注目点は2020年6月にフォルクスワーゲンと調印した包括提携で、約800万台の商用車を共同で生産し、2社間で数十億ドルの経費削減が見込まれています。フォードは商用車からの利益をEVや自動運転といった先端技術の投資にあてる計画です。2021年12月期の業績は、売上が前年比12%増、EPSは前年の0.34ドルの赤字から1.18ドルの黒字に転換する見通しです。1-3月期の決算発表は、4/29(木)の予定です。 | ||
キャタピラー(CAT) | 233.36ドル | 28.0 | 【7四半期ぶりに増収の見込み】 ・世界首位の重機メーカーで、資源開発・建設業者向けの油圧ショベル、ブルドーザー、工業用エンジンなどが柱です。資源開発向けの出荷は、2012年のピークから65%の減少となっており、更新需要を考慮すると複数年にわたる売上回復が期待されます。今回の成長局面では、機械のネット接続や監視に関連したサービスによって利益率を改善することが期待されています。 ・19年7-9月期から6四半期連続で前年同期比減収となってきましたが、21年1-3月期は7四半期ぶりに増収に転じる見通しです。建設機械の最終需要増がけん引するほか、販売シーズンに向けてディーラーの在庫積み増しもプラスに作用する見込みとしています。1-3月期の決算発表は、4/29(木)の予定です。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも21年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
19(月) | ・日本貿易統計(3月) ・ユーロ圏建設業生産高(2月) |
IBM、コカ・コーラ、ユナイテッドエアラインズ |
20(火) | ・日本工作機械受注(3月、確報値) | ・アップルの新製品発表会 ジョンソン&ジョンソン、P&G、ネットフリックス フィリップモリスインターナショナル インチュイティブサージカル |
21(水) | ベライゾンコミュニケーションズ、ラムリサーチ TEコネクティビティ、ネクステラエナジー |
|
22(木) | ・ECB主要政策金利 ・米国主催の気候サミット(23日まで) ・米シカゴ連銀全米活動指数(3月) ・米新規失業保険申請件数(4月17日に終わる週) ・ユーロ圏消費者信頼感(4月) ・米中古住宅販売件数(3月) |
AT&T、インテル、ダウ、アメリカン航空、ユニオンパシフィック フリーポートマクモラン |
23(金) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(4月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(4月) ・マークイット米製造業PMI(4月) ・米新築住宅販売件数(3月) |
アメリカンエキスプレス、シュルンベルジェ ハネウェルインターナショナル |
26(月) | ・ドイツIFO企業景況感指数(4月) ・米耐久財受注(3月) |
テスラ |
27(火) | ・日銀金融政策 ・中国工業部門利益(3月) ・S&Pコアロジック住宅価格指数(2月) ・米コンファレンスボード消費者信頼感(4月) |
マイクロソフト、ビザ、アルファベット、3M ゼネラルエレクトリック、ピンタレスト スターバックス、テキサスインスツルメンツ UPS、アーチャーダニエルズミッドランド、イルミナ |
28(水) | ・FOMC政策金利 | アップル、フェイスブック、AMD、ボーイング ショッピファイ、クアルコム、フォードモーター ユナイテッドレンタルズ、アラインテクノロジー |
29(木) | ・ユーロ圏景況感(4月) ・米新規失業保険申請件数(4月24日に終わる週) ・米実質GDP(1-3月期、速報値) ・米中古住宅販売成約(3月) |
マクドナルド、ツイッター、キャタピラー、マスターカード メルク |
30(金) | ・日本鉱工業生産(3月) ・中国製造業・非製造業PMI(4月) ・ユーロ圏実質GDP(1-3月期、速報値) ・米個人所得・個人支出(3月) ・米PCEコアデフレータ(3月) ・米ミシガン大学消費者マインド(4月、確報値) |
アッヴィ、アマゾンドットコム、アルトリアグループ ロイヤルファーマ、エクソンモービル、ギリアドサイエンシズ |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成