先週はFOMC議事要旨が一段の金融緩和を期待する市場の失望となった一方、米中通商協議への期待が相場を支えたとみられます。今週は米中通商協議の実施、共和党の全国大会、ジャクソンホール会合、アップルの株式分割への株価反応などが注目されます。
今回は再び物色が活発化している「GAFAM」としてまとめられる大手IT銘柄、アップル(AAPL)、アルファベット A(GOOGL)、フェイスブック A(FB)、アマゾン ドットコム(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)を選んで今週の5銘柄といたします。株価動向を中心に点検しています。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
情報技術 | 3.5% | 11.9% | 22.2% |
一般消費財・サービス | 2.4% | 8.2% | 23.6% |
コミュニケーション・サービス | 1.7% | 6.3% | 11.4% |
S&P500指数 | 0.7% | 4.3% | 15.2% |
生活必需品 | 0.2% | 3.4% | 11.9% |
不動産 | 0.0% | 2.9% | 9.8% |
ヘルスケア | 0.0% | 1.5% | 7.3% |
素材 | -1.3% | 0.6% | 16.9% |
資本財・サービス | -1.5% | 6.2% | 19.8% |
公益事業 | -1.7% | -1.9% | 5.2% |
金融 | -3.4% | 0.1% | 10.9% |
エネルギー | -6.1% | -5.2% | -6.7% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
ターゲット | 12.5% |
エヌビディア | 9.7% |
アップル | 8.2% |
セールスフォース・ドットコム | 7.3% |
アドビ | 5.7% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
オキシデンタル・ペトロリアム | -10.1% |
アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG) | -8.8% |
キャピタル・ワン・ファイナンシャル | -8.2% |
シュルンベルジェ | -7.4% |
シティグループ | -6.9% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
先週は8/19(水)のFOMC議事要旨公表で、フォワードガイダンスの強化(政策金利を据え置く期間の延長)やイールド・カーブ・コントロール(長期金利を抑える政策)など一段の金融緩和への手がかりを得たいとの期待がありましたが、結果は市場が期待したほどではなく、失望売りとなりました。
8/20(木)も続落となる可能性が高かったものの、米中通商協議が実施される見通しと伝えられたことが相場を救ったとみられます。先々週に活発化した景気敏感株への物色が後退する一方で、IT大手銘柄への物色が再び強まって相場をけん引しました。S&P500指数は週間で0.7%の上昇、史上最高値を更新しています。IT大手の寄与が大きいナスダック総合指数は2.7%の大幅上昇でした。
業種指数では、「GAFAM」などIT大手を含む「情報技術」「一般消費財・サービス」「コミュニケーション・サービス」が市場平均以上の上昇となる一方、先々週に物色された景気敏感株は反落となったものが多くなっています。
個別銘柄では、ディスカウントストアのターゲット(TGT)が上昇率トップです。8/19(水)発表の5-7月期決算で既存店売上が前年同期比23.4%増と市場予想の同8.6%増を大幅に上回りました。ネット通販が前年同期比3倍となるなど、外出規制下での消費需要をうまく捉えました。
経済指標では、米国の7月中古住宅販売件数が前月比24.7%増の586万戸と2月の576万戸を超える回復となりました。住宅着工件数、建設許可件数も年初に近い水準まで戻っています。COVID-19のパンデミック下でも住宅ローン金利の低下を住宅取得の好機と考える層が一定数いるようです。一方、8/15(土)に終わる週の新規失業保険申請件数は110.6万件で、3週間ぶりに前週から増加、市場予想の92.5万件も上回りました。
今週の米国株式市場
今週は米中通商協議の実施、共和党の全国大会、ジャクソンホール会合、アップルの株式分割への株価反応などが注目されます。
米中通商協議は、8/20(木)の中国商務省の定例会見で言及されたもので、「両政府は近日中に開くことで合意した」としました。一方、米国側からはこれを追認するコメントが出ていない模様で、本当に近日中に実現するのか懐疑もあるようです。
8/24(月)からの共和党全国大会では、トランプ大統領が米民主党の大統領候補バイデン氏、副大統領候補ハリス氏に関して何を語るかが注目されます。大統領選挙に対する市場の関心は米民主党の全国大会である程度高まったとみられ、この流れが続くか注目です。
ジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)では、8/27(木)にパウエルFRB議長による講演が予定されています。8/19(水)のFOMC議事要旨公表では、今後の金融緩和に対するコミットメントが市場の期待に達しませんでしたが、この点に関して新たな手がかりが得られるか注目されています。
先週は再びIT大手への集中的な物色が目立ち、特にアップルは週間で8.2%の上昇となっています。株価上昇の一因とみられる1対4の株式分割は、四半期決算に合わせて7/30(木)に発表、8/31(月)から分割を調整した取引が始まります。材料出尽くしとならないか株価動向が注目されます。
経済指標では、8/25(火)に米国の8月コンファレンスボード消費者信頼感(前月の92.6から93.0へ改善の予想)、7月新築住宅販売件数(前月比1.2%増の予想)、8/26(水)に米国の7月耐久財受注(前月比4.5%増の予想)、8/27(木)に米国の4-6月期実質GDP改定値(前期比年率32.5%減の予想)、などの発表が予定されています。
企業決算では、セールスフォースドットコム、メドトロニック、オクタ、ダラーゼネラル、アルタビューティなどの発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は再び物色が活発化している「GAFAM」としてまとめられる大手IT銘柄、アップル(AAPL)、アルファベット A(GOOGL)、フェイスブック A(FB)、アマゾン ドットコム(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)を取り上げます。
COVID-19のパンデミックで企業業績全体では大幅な減益となる中、これらのIT大手は増益を維持できる成長力の高さが評価されていると見られます。一方、株価の上昇も目立つため、業績の動向に比べて株価に行き過ぎているものがないかチェックしてみました。図表3の4列目「年初来EPS修正率」と5列目「年初来株価騰落率」に注目してください。
市場平均であるS&P500指数はEPSが24.8%下方修正されているのに対して株価は4.8%上昇しており、ざっくりと「EPSの修正率 + 30%ポイント = 株価の騰落率」が成り立ちそうです。FRBの強烈な金融緩和による長期金利の低下と金余り現象によって、このような関係がもたらされたと解釈できます。
これを平均的な株価の動きとして、ここからはずれて株価が大きく上昇しているのが、アマゾンドットコムとアップルになります。アマゾンドットコムに関しては、COVID-19のパンデミックによって利用者が広がって業績予想が大幅に上方修正となっているため、市場平均に対してプレミアムとなるのは妥当と考えられます。
一方、アップルに関しては4-6月期のEPSが市場予想を大きく上回りましたが、通期業績見通しの修正は1.5%にとどまっています。1対4の株式分割が株価の刺激材料となった可能性がありそうですが、ファンダメンタルズからみると株価が行き過ぎている可能性が指摘できそうです。
アナリストの目標株価平均との比較でも、アップルの場合はかなりこれを上回っており、短期的には行き過ぎている可能性がありそうです。
図表3 「GAFAM」の投資指標
今期 予想EPS (19年末) (ドル、ポイント) |
今期 予想EPS (8/20) (ドル、ポイント) |
年初来 EPS 修正率 (%) |
年初来 株価騰落率 (%) |
株価 (8/20) |
アナリスト 目標株価 (ドル) |
|
アマゾンドットコム | 39.5 | 46.3 | 17.1 | 78.4 | 3,297.37 | 3,651.78 |
マイクロソフト | 6.1 | 6.5 | 6.3 | 36.1 | 214.58 | 229.79 |
アップル | 14.9 | 15.1 | 1.5 | 61.1 | 473.10 | 429.53 |
フェイスブック | 10.1 | 8.9 | -11.4 | 31.1 | 269.01 | 281.88 |
アルファベット | 63.1 | 51.5 | -18.4 | 17.7 | 1,576.25 | 1,720.48 |
S&P500指数 | 174.5 | 131.3 | -24.8 | 4.8 | 3,385.51 | - |
注:アップルの予想EPSは21年9月期を使っています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (8/21) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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アップル(AAPL) | 497.48ドル | 33.0 | 【株価は短期的には行き過ぎの可能性も】 ・4-6月期の売上はiPhone、iPad、Macの販売がいずれも市場予想を上回って前年同期比11%増となり、同社の販売力の強さを再認識させることとなりました。また、「Apple Music」「Apple TV+」などのサブスクリプションサービスをまとめた「Apple One」を計画していると伝えられたことも、サービス事業比率の高まりによるPERの拡大ストーリーを刺激して株価の上昇が続いていると考えられます。 ・しかし、1年前に10倍台半ばであったPERは30倍を超えるまでに上昇して、評価はすでにかなり進んだ状態と考えられます。1対4の株式分割は投資家層の広がりが期待されるものの、ファンダメンタルズの面では行き過ぎとなっている可能性に注意が必要とみられます。 | ||
アマゾン ドットコム(AMZN) | 3284.72ドル | 71.0 | 【利用者層の広がりで成長見通しが高まった】 ・在宅勤務のトレンドが続いていることから、ネット通販への需要は4-6月期ほどではないにしても強い状態が続くと見込まれます。一方、COVID-19のパンデミック下で操業するための追加費用は徐々に低下していくと見込まれ、利益創出の環境は良好と考えられます。4-6月期決算ではクラウドサービス事業は在宅勤務によって顕著な恩恵を受けていないようですが、それでも通期で30%以上の売上増を達成するとみられます。 ・COVID-19による外出規制によって、これまでネット通販を利用していなかった層にも利用が広がり、中長期の成長見通しが引き上げられたことが市場で評価されているとみられます。物流関係の人員を大幅に強化したことから、年末にかけての繁忙期にも十分な対応ができると期待されます。 | ||
マイクロソフト(MSFT) | 213.02ドル | 33.0 | 【COVID-19の影響は事業によりプラス、マイナス両方】 ・COVID-19の影響は様々な事業にプラス、マイナス両方です。4-6月期決算では在宅勤務の広がりによるパソコン需要の盛り上がりを主因にプラスが上回り、通期業績の上方修正につながりました。中期的には業界2位のクラウドサービス、パソコンのOS、「オフィス」などのアプリケーションを擁し、世の中のデジタル化進展で引き続き高い成長が期待されます。 ・買収を検討している「TikTok」の北米事業買収については、広告収入が目的と言われています。マイクロソフトは検索連動型のネット広告事業「Bing」を手掛けています。また、クラウドサービスの顧客として有望との観測も出ています。 | ||
フェイスブック A(FB) | 267.01ドル | 23.2 | 【COVID-19の影響で売上成長は鈍化も利用者の拡大は加速】 ・企業業績の悪化に伴う広告出稿鈍化の影響を受けて利益見通しは年初から引き下げられたものの、4-6月期は引き下げられた市場予想を大きく上回りました。COVID-19による外出規制で利用者増加率が加速、また、利用頻度も増しているため、企業業績が改善して広告への支出が回復すると業績は伸びやすい状況になると想定されます。 ・一方、独占禁止法に関する調査は引き続き同社株価の重石になりやすいと見込まれます。インスタグラムなど過去の買収に焦点が当たっていることから、重大な影響が出る可能性もあります。このため、大統領選挙に向けて株価の変動性が増す可能性がありそうです。 | ||
アルファベット A(GOOGL) | 1575.57ドル | 30.6 | 【GAFAMの中ではCOVID-19の打撃が最も大きい】 ・COVID-19による影響は検索連動型広告に大きく出て通期の予想EPSは18.4%下方修正となり、GAFAMの中では最も打撃が大きかったと言えます。4-6月期の決算も前年同期比2%の減収となりました。一方、広告収入は3月には10%台半ばの減少率から、4-6月期の最後は前年同期比トントンまで戻して徐々に改善しています。 ・一方、視聴が広がる「YouTube」の広告売上は4-6月期も前年同期比プラスを維持し、クラウドサービスも在宅勤務の拡大により恩恵を受けるなど検索連動型広告の落ち込みを一部カバーする分野も確認されています。また、在宅勤務の広がりによって、メール、文書共有、ビデオ会議などのサービスをまとめたサブスクリプションサービス「G Suite」も注目されます。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。マイクロソフトは21年6月期、アップルは21年9月期、その他は20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
24(月) | ・共和党全国大会(27日まで、ノースカロライナ州シャーロット) ・シカゴ連銀全米活動指数(7月) |
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25(火) | ・ドイツIFO企業景況感(8月) ・S&Pコアロジック住宅価格(6月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(8月) ・米新築住宅販売件数(7月) |
セールスフォースドットコム、メドトロニック |
26(水) | ・米耐久財受注(7月) | |
27(木) | ・中国工業部門利益(7月) ・ジャクソンホール会合(28日まで) ・米実質GDP(4-6月期、改定値) ・米新規失業保険申請件数(8月22日に終わる週) ・米中古住宅販売成約(7月) |
オクタ、ダラーゼネラル、アルタビューティ |
28(金) | ・ユーロ圏景況感(8月) ・米個人所得・個人支出(7月) ・米PCEコアデフレータ(7月) ・米ミシガン大学消費者マインド(8月、確報値) |
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31(月) | ・日本鉱工業生産(7月) ・中国製造業・非製造業PMI(8月) |
ズームビデオコミュニケーションズ |
9月 1(火) |
・財新中国製造業PMI(8月) ・ユーロ圏失業率(7月) ・ユーロ圏消費者物価指数(8月) ・米ISM製造業景気指数(8月) ・米自動車販売台数(8月) |
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2(水) | ・東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク、5日まで) ・ユーロ圏生産者物価指数(7月) ・米ADP雇用統計(8月) ・米製造業受注(7月) ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) |
クラウドストライクホールディングス |
3(木) | ・ユーロ圏小売売上高(7月) ・米貿易統計(7月) |
ブロードコム |
4(金) | ・米雇用統計(8月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成