先週は新型コロナウイルス感染拡大防止に向けたロックダウン(都市封鎖)措置の緩和が議論されたこと、および、治療薬の臨床試験で好結果が出たとの報道を受けて上昇しました。今週は引き続き新型コロナウイルスの感染者数がピークアウトするかに加え、本格化する1-3月期決算発表、原油価格の行方が注目されます。
大手のIT銘柄に対する物色のトレンドがみられるため、ネットフリックス(NFLX)、アマゾン ドットコム(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)、エヌビディア(NVDA)、インテル(INTC)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
一般消費財・サービス | 7.9% | 29.9% | -8.1% |
ヘルスケア | 6.1% | 28.1% | -3.6% |
情報技術 | 4.8% | 25.5% | -7.9% |
生活必需品 | 4.2% | 20.5% | -5.2% |
通信サービス | 4.1% | 19.1% | -13.8% |
S&P500 | 3.0% | 24.7% | -13.7% |
エネルギー | 0.2% | 34.2% | -42.0% |
資本財・サービス | -0.1% | 23.6% | -25.1% |
公益事業 | -0.5% | 28.0% | -9.2% |
素材 | -2.1% | 24.5% | -17.6% |
不動産 | -2.8% | 27.7% | -12.7% |
金融 | -4.0% | 19.2% | -27.7% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
アマゾン・ドット・コム | 16.3% |
ギリアド・サイエンシズ | 14.3% |
ネットフリックス | 14.1% |
アボットラボラトリーズ | 11.6% |
エヌビディア | 11.2% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
サイモン・プロパティー・グループ | -17.7% |
ウェルズ・ファーゴ | -14.5% |
オキシデンタル・ペトロリアム | -11.3% |
キャピタル・ワン・ファイナンシャル | -9.1% |
ダウ | -8.6% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
13日(月)は先週の大幅上昇の反動から反落、14日(火)は米政府が新型コロナウイルス感染拡大防止に向けたロックダウン(都市封鎖)措置を緩和する可能性があるとの期待で上昇しました。一方、15日(水)は前日に続いて大手銀行の大幅な減益決算が企業業績に対する懸念を高めて下落しました。
16日(木)は半導体ファウンドリーのTSMCが通年の売上見通しを前年比15〜18%増としたことが好感されてテクノロジー銘柄を中心に上昇、アマゾンドットコムとネットフリックスは上場来高値を更新しました。17日(金)にはギリアドサイエンシズの「レムデシビル」がシカゴでの臨床試験で有効性を示したとの報道により新型コロナウイルスへの懸念が後退して大幅な上昇となりました。S&P500指数は週間で3.0%の上昇でした。
業種指数騰落率は、アマゾンドットコムがけん引した「一般消費財・サービス」、ギリアドサイエンシズがけん引した「ヘルスケア」のほか、半導体業界で好材料がでた「情報技術」などが上位です。一方、貸倒引当金の積み増しなどで大幅な減益決算を発表した大手銀行が足をひっぱって「金融」が下落しています。
個別銘柄では、外出自粛によるネット通販の需要拡大から恩恵を受けるアマゾン ドットコム(AMZN)、新型コロナウイルスの有望な治療薬と期待される「レムデシビル」を擁するギリアド サイエンシズ(GILD)などが上昇しています。
経済指標では、米国の3月小売売上高が前月比8.7%減(市場予想は同8.0%減)、4/11(土)に終わる週の新規失業保険申請件数は525万件と3週連続で500万件を突破、失業率は15%を超えている計算になります。また、中国の1-3月期実質GDPは前年比6.8%減と統計を遡れる1992年以降で初めてマイナスを記録しました。
一方、中国の3月鉱工業生産は前年比1.1%減(前月は13.5%減)、小売売上高は同15.8%減(前月は同20.5%減)、固定資産投資は同16.1%減(前月は24.5%減)、3月貿易統計の輸出が前年比6.6%減(前月は同17.2%減)、輸入が同0.9%減(前月は同4.0%減)と、いずれも落ち込み幅は前月を下回り、経済活動が再開しつつあることが確認されました。
今週の米国株式市場
今週は新型コロナウイルスの米国での新規感染者数の行方と経済再開に関する議論に加え、本格化する1-3月期の決算発表、1バレル20ドルを割り込んでいる原油価格(WTI先物価格)の動向などが注目されます。
新型コロナウイルスの米国での新規感染者数は4/15(水)に2万4千人まで低下していましたが、4/18(土)、4/19(日)と3万2千人まで漸増となっており、引き続き注視していく必要がありそうです。
米政府は感染拡大のペースが鈍化してきたことを受けて、4/16(木)に経済活動の再開に関して3段階で緩和していくようガイドラインを公表しました。州知事の判断により、感染拡大の懸念が小さい州から経済活動が再開される見込みです。一方、感染者数が多いニューヨーク州は行動制限令の期限を4/29(水)から5/15(金)まで延長しています。
先週の相場上昇要因となったギリアドサイエンシズの「レムデシビル」は、「新型コロナウイルスの感染で重篤な患者113名を含む125名に投与したところ、ほとんどの患者が1週間以内に回復し死亡は2名にとどまった」という結果をシカゴ大学病院内で報告したビデオを医療メディアのSTATが入手して報じたものです。
臨床試験を主催するギリアドサイエンシズが公表したものではありませんが、政府の公開情報で「レムデシビル」の臨床試験は4/17(金)に従来の2,400名から6,000名へ拡大したことが確認されています。暫定的でも良い結果が得られていると考えられ、治療薬として期待が高まっています。治療薬の開発が進めば、感染拡大が株価に与える影響は低下していくと考えられます。
企業決算に関しては、FactSet社の集計でS&P500指数採用企業のEPSは1-3月期に前年同期比14.5%減と、1週間前の同10.0%減から下方修正が進みました。1-3月期の決算発表が進むにつれてさらに下方修正が続くと見込まれます。
経済指標では、4/21(火)に米国の3月中古住宅販売件数(前月比8.2%減の予想)、4/23(木)に米国の4/18(土)に終わる週の新規失業保険申請件数(450万件の予想)、3月の新築住宅販売件数(前月比15.8%減の予想)、4/24(金)に米国の3月耐久財受注(前月比12.0%減の予想)などの発表が予定されています。
企業決算では、IBM、コカコーラ、フィリップモリス、ネットフリックス、テキサスインスツルメンツ、AT&T、インテル、アマゾンドットコム、テスラ、ビザ、ベライゾンコミュニケーションズ、ボーイング、ペイパルホールディングス、イルミナなどの1-3月期決算が予定されています。
株式市場が注目するのは経済が正常化したときのEPS
先週から1-3月期の決算発表が始まって企業業績が注目されています。
新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために多くの分野で経済活動が停止したため、今期は大幅な減益となる見込みです。S&P500指数の20年予想EPSは年初に174.50ポイントと19年実績比で増益が見込まれていましたが、4/17(金)には134.68ポイントまで下方修正されています(図表3)。
1-3月期の決算発表が進むにつれて、まだ業績予想を修正していないアナリストも下方修正するとみられることから、20年予想利益の落ち込みはさらに大きくなると見込まれます。
ただし、株価は一般に「将来にわたる利益を現在まで割いたもの」になるため、20年の利益が一時的要因で落ち込むからと言ってその幅で下落することはないとみられます。
株式市場がいま注目しているのは、新型コロナウイルスが終息して経済活動が正常化したときにEPSがどのくらいになるかという点で、21年のEPSが167.51ポイントと予想されており、一つの目途となるでしょう。
今週の5銘柄
先週は4/16(木)にネットフリックスとアマゾンドットコムが揃って上場来高値を更新、また、半導体ファウンドリーのTSMCが通年の売上を前年比15〜18%増とし、当社の澤砥アナリストのレポートによれば、半導体ウエハー業界では世界中の生産設備がフル稼働を継続しているなど、ITセクターに好材料が目立ちます。
そこで今回も先週同様に、新型コロナウイルス感染の終息後にも物色が続く可能性が高い銘柄群として、S&P100指数採用企業のうち、ITに関係する「情報技術」と「通信コミュニケーション」「ネット通販」の業種に属する企業から、年初来の株価騰落率の上位銘柄をピックアップしています(図表4)。
ここから過去3ヵ月のEPS修正率がプラスとなっている、ネットフリックス(NFLX)、アマゾン ドットコム(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)、エヌビディア(NVDA)、インテル(INTC)を選んでご紹介いたします。
図表3 S&P500指数のEPS推移
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 IT大手の年初来株価騰落率上位(S&P100指数採用企業が対象)
コード | 銘柄 | 年初来 株価 騰落率 (%) |
EPS 修正率 (3ヵ月) (%) |
株価 (4/15) (ドル) |
予想 PER (倍) |
NFLX | ネットフリックス | 31.9 | 2.8 | 426.75 | 62.2 |
AMZN | アマゾン・ドット・コム | 24.9 | 2.3 | 2307.68 | 57.2 |
NVDA | エヌビディア | 19.4 | 2.6 | 280.84 | 38.0 |
MSFT | マイクロソフト | 9.0 | 3.4 | 171.88 | 30.8 |
CHTR | チャーター・コミュニケーションズ | 2.3 | -6.0 | 496.32 | 39.0 |
ADBE | アドビ | 0.8 | -0.4 | 332.55 | 34.1 |
ORCL | オラクル | 0.3 | -0.3 | 53.16 | 13.7 |
PYPL | ペイパル・ホールディングス | -0.2 | -6.3 | 107.95 | 33.2 |
INTC | インテル | -1.6 | 2.4 | 58.87 | 12.2 |
AAPL | アップル | -3.1 | -3.7 | 284.43 | 22.5 |
注:スクリーニング対象は、S&P100指数の「情報技術」「通信コミュニケーション」「ネット通販」に属する23銘柄。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (4/17) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ネットフリックス(NFLX) | 422.96ドル | 61.9 | 【巣ごもり消費から恩恵の可能性】 ・インターネットTVの世界最大手です。新型コロナウイルスで消費者が「巣ごもり消費」する場合に、最も恩恵が大きい企業の一つと言えそうです。定額見放題のサービスのため、既存加入者が視聴頻度をあげても売上は変化しませんが、新規加入者数にはポジティブな影響が出ると期待されます。 ・同社の株価は「Disney+」や「アップルTV」との競合が懸念されて昨年央にかけて調整しましたが、これら競合サービスが実際に開始されるにつれて回復基調となっています。10-12月期決算では、米国とカナダの新規加入者数が55万人と市場予想の61万人を下回ったものの、海外の新規加入者数は833万人と市場予想の720万人を大きく上回りました。また、業績も市場予想を上回って好調です。1-3月期決算は4/21(火)に発表予定です。 | ||
アマゾン ドットコム(AMZN) | 2375.00ドル | 58.7 | 【巣ごもり消費で需要が拡大】 ・新型コロナウイルスの感染抑止のための外出自粛を受けてネット通販に対する需要が拡大しています。これを受けて同社はすでに2回にわたって配送業務の採用拡大を発表しています。また、テレワークの増加は同社利益の過半を占めるクラウドサービスにも好影響を及ぼしていると期待されます。 ・19年10-12月期決算は、北米事業の減益幅が予想を下回り、クラウドサービスは順調に伸びたことから、売上・EPSとも市場予想を上回りました。北米のネット通販では、プライム会員向けの無料配送期間を2日から1日に短縮するために物流網に先行投資を行っており、利益を抑える要因となっています。1-3月期決算は4/24(金)に発表予定です。 | ||
マイクロソフト(MSFT) | 178.60ドル | 29.1 | 【テレワークの増加で幅広い分野に恩恵】 ・クラウドのインフラを提供する企業としてはアマゾンに次ぐ2位の位置にあり、急速に追い上げています。テレワーク関連では、同社のグループチャットソフトウェア「Microsoft Teams」のビデオ会議利用時間が3/16(月)の9億分から3/31(火)に27億分へ3倍に増加していることを4/9(木)に公表しています。テレワークの増加は、クラウドサービスやビジネスソフトウェアなど幅広い同社サービスへの需要拡大が期待されます。 ・10-12月期決算は前年同期比14%増収、同37%増益と引き続き好調でした。全部門の売上が市場予想を上回って、売上は3%、EPSは14%それぞれ市場予想を上回りました。インテリジェント・クラウド部門が27%増収と成長をけん引、その中心である企業向けクラウドの「Azure」は前年同期比62%増と、7-9月期の同59%増を上回る伸びを記録しています。 | ||
エヌビディア(NVDA) | 292.32ドル | 41.1 | 【データセンター向けが用途と顧客の広がりで好調】 ・画像処理に使用されるGPU(グラフィックプロセッシングユニット)を主力とする半導体メーカーです。テレワークの拡大によるデータセンター需要の拡大が言われており、データセンター向け売上が約3割を占める同社にも恩恵が期待されています。また、売上で最も多いゲーム向けにおいても、巣ごもり消費によるゲーム需要拡大がプラスとなる可能性がありそうです。 ・19年11月-20年1月期売上においても、データセンター向けの売上が前四半期33%伸びて、市場予想を上回る好決算の主因でした。人工知能の用途が従来の画像認識から自然言語への対応へ広がったことが背景にあり、マイクロソフトやアマゾンなどクラウドサービスの大手に加え、アメリカンエキスプレス、ペイパル、ピンタレスト、スナップ、ツイッターなど消費者向けネット企業にも販売が広がっているとしています。 | ||
インテル(INTC) | 60.36ドル | 12.5 | 【データセンター向けが拡大の期待】 ・PCやサーバーのCPU(中央演算装置)を主力とする半導体企業です。PCやサーバーは多数の電子部品を使うため、サプライチェーン分断の影響が大きいと想定されます。ただし、新型コロナショック前にサーバー市場の回復傾向が出ていたうえ、足もとではテレワークの増加によるデータセンターの設備増強が言われており、サーバー需要の拡大が期待されます。 ・10-12月期はデータセンター向けがけん引して売上は前年同期比8%増、EPSは同19%増と好調でした。データセントリックグループの売上は前年同期比19%増の72億ドルとなり、市場予想の64億ドルを大幅に上回りました。20年12月期のガイダンスは売上が約735億ドルで前年比2%増、EPSが約5ドルで同3%増と堅調が見込まれていました。1-3月期決算は4/23(木)に発表予定です。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。オラクルは21年5月期、その他は20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
20(月) | ・日本貿易統計(3月) ・シカゴ連銀全米活動指数(3月) |
IBM |
21(火) | ・ドイツZEW景気期待指数(4月) ・米中古住宅販売件数(3月) |
コカ・コーラ、フィリップモリス、ネットフリックス テキサスインスツルメンツ |
22(水) | ・ユーロ圏消費者信頼感(4月) | AT&T |
23(木) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(4月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(4月) ・マークイット米製造業PMI(4月) ・米新規失業保険申請件数(4月18日に終わる週) ・米新築住宅販売件数(3月) |
インテル |
24(金) | ・ドイツIFO企業景況感指数(4月) ・米耐久財受注(3月) ・ミシガン大学消費者マインド(4月、確報値) |
ベライゾンコミュニケーションズ、ボーイング(E) アメリカンエキスプレス |
27(月) | ・中国工業部門利益(3月) | |
28(火) | ・日銀金融政策 ・S&Pコアロジック住宅価格指数(2月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(4月) |
アルファベット、3M、ファイザー、スターバックス HSBCホールディングス、BP、ペプシコ、キャタピラー メルク、UPS |
29(水) | ・ユーロ圏景況感(4月) ・米実質GDP(1-3月期、速報値) ・米FOMC政策金利 |
フェイスブック、マイクロソフト、テスラ、 ゼネラルエレクトリック、クアルコム、マスターカード グラクソスミスクライン、ヤムブランズ |
30(木) | ・中国製造業・非製造業PMI(4月) ・ユーロ圏実質GDP(1-3月期、速報値) ・ユーロ圏消費者物価指数(4月) ・ECB主要政策金利 ・米新規失業保険申請件数(4月25日に終わる週) |
アマゾンドットコム、アップル、ビザ、マクドナルド アルトリアグループ、ギリアドサイエンシズ、AMD クラフトハインツ、ツイッター、イルミナ |
5月 1(金) |
・ISM製造業景気指数(4月) ・米自動車販売台数(4月) |
アッヴィ、エクソンモービル、 エスティーローダー、クロロックス |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成