先週は発表が本格化した10-12月期決算は堅調であったものの、新型肺炎に対する警戒が上値を抑えました。今週も新型肺炎の感染の広がりを見守るほか、ピークを迎える10-12月期決算発表が注目されます。
10-12月期決算の好調が期待できるものとして、7-9月期決算が市場予想を上回り、通期のEPS予想が上方修正された銘柄群から、先週から継続のロッキード マーチン(LMT)、マイクロソフト(MSFT)、ペイパル ホールディングス(PYPL)に、マスターカード A(MA)とメルク(MRK)を加えて今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
公益事業 | 3.2% | 6.3% | 6.7% |
不動産 | 1.1% | 3.8% | 1.6% |
情報技術 | 1.0% | 6.0% | 17.6% |
生活必需品 | -0.2% | 0.5% | 4.2% |
通信サービス | -0.5% | 2.9% | 10.4% |
S&P500 | -0.6% | 1.7% | 9.0% |
資本財・サービス | -1.0% | 1.9% | 6.4% |
一般消費財・サービス | -1.2% | -0.1% | 4.2% |
金融 | -1.8% | -1.5% | 6.0% |
素材 | -1.8% | -2.4% | 2.7% |
ヘルスケア | -1.9% | 0.1% | 12.0% |
エネルギー | -4.9% | -5.5% | -2.1% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
インテル | 14.8% |
サザン | 5.0% |
ネクステラ・エナジー | 4.5% |
ネットフリックス | 4.3% |
アメリカン・エキスプレス | 3.5% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
オキシデンタル・ペトロリアム | -9.5% |
シュルンベルジェ | -7.8% |
ダウ | -7.6% |
アッヴィ | -6.4% |
アムジェン | -6.2% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
発表が本格化した10-12月期決算は全体として堅調で、インテルやIBMなどIT企業を中心にポジティブサプライズも散見されました。しかし、中国の新型肺炎の感染拡大が報じられ、相場の上値を抑えたとみられます。1/24(金)には、米国で3例目の感染者が確認されたことが利食いの口実を与えたとみられ、最近にない大きな下落となりました。S&P500指数は週間で1.0%の下落でした。
業種指数騰落率では、米10年国債利回りが1.8%台から1.6%台へ大幅に低下したことを受けて配当利回りが高い「公益事業」「不動産」が上位です。また、決算発表でポジティブサプライズが重なった「情報技術」も上昇しています。
個別では、データセンター向けの需要が予想以上の回復を示し、20年12月期のガイダンスも市場予想を上回ったインテル(INTC)、10-12月期決算が好調で、米国内での競争激化を海外の加入者増でカバーするネットフリックス(NFLX)が上昇しています。
経済指標では、米国の12月中古住宅販売件数が前月比3.6%増(市場予想は同1.3%増)と先々週の住宅着工件数に続いて強い数字が出ています。FRBによる利下げの休止によって長期金利は底入れしたのではとの見方が住宅の需要を押し上げているとみられます。
一方、米国の1月マークイット製造業PMIは前月の52.4から51.7に2ヵ月連続で低下しました。19年8月に底入れして景気回復期待のコアとなっている指標ですが、改善のモメンタムが失速気味です。
今週の米国株式市場
今週は新型肺炎の感染の広がりを見守るほか、ピークを迎える10-12月期決算発表、FOMCの結果発表、米国の10-12月期GDPや中国の企業景況感の経済指標など株価材料が目白押しです。
決算発表では、S&P100指数採用企業の36社が発表予定でピーク週となり、アップル、スターバックス、フェイスブック、マイクロソフト、アマゾンドットコム、ビザ、コカ・コーラなど相場全体に影響を与えうる重要企業を含みます。実績の集計については、S&P500指数採用企業の17%が発表を終えた段階でEPSは前年同期比1.9%減(発表済と今後の予想を混合)の予想です。
1/29(水)FOMCの結果発表では、政策金利は据え置き見通しです。資産価格の全面的な上昇に影響を与えているとされる「FRBの資産拡大」に関してコメントがあるか注目されそうです。
また、2/3(月)に米大統領選のアイオワ州党員集会を控える中、世論調査でサンダース氏の支持率が上昇して、バイデン氏との差が縮まりつつある点には留意が必要でしょう。民主党の大統領選候補に急進左派の可能性が高まると、それだけで相場は嫌気する可能性があるためです。
経済指標では、1/27(月)に米国の12月新築住宅販売件数(前月比1.5%増の予想)、1/28(火)に米国の1月消費者信頼感(前月の126.5から128.0に改善の予想)、1/30(木)に米国の10-12月期実質GDP(前期比年率2.2%増の予想)、1/31(金)に中国の1月製造業・非製造業PMI(製造業は前月の50.2から50.0に低下、非製造業は前月の53.5から53.0に低下の予想)、などの発表が予定されています。
新型肺炎のインパクトをSARSのケースから推定
中国の武漢市から感染が広がる新型肺炎は、株式市場にも影響を与えつつあるようです。
2002年〜2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)が、感染者8,000名超、死者800名近く、致死率9%であったのに比べ、1/26(日)時点で感染者2,000名超、死亡者56名、致死率約3%と世界保健機関(WHO)が緊急事態を宣言するほどにはなっていません。
ただ、武漢市が人の移動を制限するなど事態はデータでみる以上に深刻なのではとの懸念もあるため、SARSが株式相場に与えたインパクトについて確認しておきましょう。
図表3は、主要国の株価指数を2002年10月末を100として指数化したものです。SARSは2002年11月から発生していますが、当初は中国でインフルエンザが流行しているくらいの認識しかなく、市場への影響も中国に限られていたようです。
しかし、2002年12月にWHOが中国当局に照会を行うなどして徐々に懸念が高まり、2003年2月に中国を訪れた米国人ビジネスマンの死亡で世間の注目が一気に集まり、その後中国当局がSARSをWHOに報告して全貌が明らかとなっています。
中国以外の市場にも2003年の1月半ば頃から影響を及ぼし始めたようです。株価の調整幅は10%程度、中国から地理的に遠い米国のS&P500指数が底入れしたのが3月半ば、地理的に近い香港と日本が底入れしたのが4月末で、2〜3ヵ月間は下落要因になったとみられます。
底入れしてからの回復は早く、5月末にはいずれの市場もSARS発生前の水準に戻しています。かなり深刻な「アウトブレイク」でしたが、相場への影響は比較的短期にとどまったと言えそうです。
ただし、当時は中国が2001年にWTOに加盟して、世界経済への組み込みが始まったばかりのタイミングで、グローバル投資家が中国の月次経済指標をチェックすることもなく、株式市場への影響も限定的でした。
しかし、現在の中国はGDP世界第2位で米国に迫る経済規模をもち、投資家も中国の経済指標に一喜一憂しています。地理的に影響が限定される米国でも、市場への影響は当時よりも大きくなる可能性があることには留意が必要でしょう。
今週の5銘柄
今回は1/20(月)号で取り上げたS&P100指数採用の主要企業に関するスクリーニングから、決算発表が終わったプロクター&ギャンブルとインテルを除き、マスターカード A(MA)とメルク(MRK)を加えて、さらにロッキード マーチン(LMT)、マイクロソフト(MSFT)、ペイパル ホールディングス(PYPL)を維持して今週の5銘柄といたします。
スクリーニングは以下の条件で、7-9月期決算が市場予想を上回る好調となって、通期のEPSが上方修正された銘柄をピックアップしました(図表4)。
【スクリーニング条件】
(1)前回の四半期決算で、実績の売上、EPSが市場予想を上回った。
(2)通期EPSの市場予想が過去4週、3ヵ月とも下方修正されていない。
(3)前回の四半期決算が増収増益で、来期増益予想である。
図表3 SARSのときの主要国株価の動き
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 7-9月期決算が予想を上回り通期見通しが上方修正された企業(S&P100指数採用企業対象)
コード | 銘柄 | 前回決算 売上予想乖離 |
前回決算 EPS予想乖離 |
EPS修正 (過去4週) |
EPS修正 (過去3ヵ月) |
決算発表 予定日 |
LMT | ロッキード・マーチン | 2.0% | 12.7% | 0.0% | 0.3% | 1/28 |
UTX | ユナイテッド・テクノロジーズ | 0.8% | 8.7% | 0.0% | 0.1% | 1/28 |
MSFT | マイクロソフト | 2.6% | 11.3% | 0.1% | 0.6% | 1/29 |
PYPL | ペイパル・ホールディングス | 0.6% | 16.9% | 0.1% | 0.1% | 1/29 |
MA | マスターカード | 1.0% | 6.7% | 0.0% | 1.0% | 1/29 |
GD | ゼネラル・ダイナミクス | 0.0% | 2.4% | 0.0% | 0.1% | 1/29 |
RTN | レイセオン | 2.4% | 7.7% | 0.0% | 0.8% | 1/30 |
MRK | メルク | 6.5% | 21.6% | 0.3% | 4.9% | 2/5 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。1/16(木)時点のデータによるスクリーニングです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (1/24) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ロッキード マーチン(LMT) | 432.50ドル | 17.7 | 【米国とイランの軍事的緊張から恩恵】 ・軍事用航空機・宇宙関連機器の大手メーカーです。18年の売上構成比は、航空機部門(F-35、F-16などの戦闘機)が40%、ロータリー・ミッションシステム部門(ヘリコプターなど)が27%、宇宙システム部門が18%、ミサイル・火器制御部門が16%です。米国政府を中心に約30ヵ国と取引があり、海外売上は28%を占めます。 ・軍需関連の売上が世界最大であり、また、同売上構成比も88%に達することから、米国および世界の軍事費が増加する場合にその恩恵を受ける確度が高く、代表的な軍需銘柄と言えるでしょう。特に同社売上の25〜30%を占めるF-35ステルス戦闘機は、米軍(空軍、海兵隊、海軍)が2,500機近くを調達する計画で、20年度の予算でも重点調達品としてあげられてます。7-9月期決算は、F-35プログラム、ミサイルなどの増加により業績は堅調で、20年に向けても増収増益が想定されています。1/28(火)に10-12月期決算の発表予定です。 | ||
マイクロソフト(MSFT) | 165.04ドル | 30.6 | 【クラウドのインフラサービスでアマゾンを急追】 ・クラウドのインフラを提供する企業としてはアマゾンに次ぐ2位の位置にあり、急速に追い上げています。メールソフトの「Outlook」、ビジネスソフトの「Office」などで企業のIT部門に接点があるため、クラウドの新規開拓営業に有利と考えられます。また、19年10月に米国防総省の100億ドル規模の案件をアマゾンと競ってマイクロソフトが獲得したことも、同社のクラウドが加速するきっかけになるのではと注目されています。 ・7-9月期決算は、前年同期比14%増収、同22%増益と引き続き好調でした。インテリジェント・クラウド部門が27%増収と成長をけん引したほか、ビジネス・ソフトウェアの「Office」関連売上、ビジネスSNSの「リンクトイン」、パソコンOSの「Windows10」などが好調を維持しています。20年6月期について売上・営業利益とも前年比10%台の増加と営業利益率の上昇を見込んでいます。1/29(水)に10-12月期決算の発表予定です。 | ||
ペイパル ホールディングス(PYPL) | 116.98ドル | 33.6 | 【4-6月期決算での売上下方修正の織り込みが進む】 ・売上成長の基調は20%近くになっているとみられます。eコマースの拡大の波に乗るほか、売上が低迷するeBayの構成比が10%以下に低下しています。一方、個人間送金で伸びるVenmoの構成比が15%に達し、また、中国のGoPayとの提携による効果も期待されます。19年12月期の売上ガイダンスは15%増ですが、一部売上債権の売却が3.5%ポイントの押し下げ要因になってます。さらに、価格比較サービスを提供するハニー・サイエンスの買収は、小売事業者に売上を差し向ける機能があるため、同社事業とのシナジーが期待されています。 ・4-6月期の決算発表時に19年12月期の売上ガイダンスを178.5〜181.0億ドルから176.0〜178.0億ドルに引き下げて以降、株価が低迷してきました。下方修正の要因はサービス統合の遅れ、サービス価格の調整および為替の影響ですが、7-9月期決算では売上が前年同期比19%増、一時的要因を除く調整後EPSが同31%増と好調な業績の伸びが確認されています。1/29(水)に10-12月期決算の発表予定です。 | ||
マスターカード A(MA) | 323.67ドル | 35.7 | 【12〜13%のオーガニック売上成長が続く見通し】 ・19年から22年のオーガニック売上成長率は12〜13%に達すると見込まれ、買収効果も加えると売上成長は13〜15%となり、EPSはさらに高い伸びが続くと見込まれています。決済手段のデジタル化が進むことに加え、企業間の決済分野への進出が伸びを高めると考えられます。グローバルの電子決済ネットワークをビザとともに寡占する状態が続くと考えられます。 ・7-9月期決算は、前年同期比15%増収、同21%増益、市場予想比では売上が1%、EPSが7%上回って好調でした。カードの決済総額は前年同期比14%増(米国が同12%増、海外が同16%増)と強く、データ、サービスおよびサイバー・インテリジェンスソリューション分野のけん引でその他収入が同33%増となって売上の伸びを押し上げています。1/29(水)に10-12月期決算の発表予定です。 | ||
メルク(MRK) | 85.98ドル | 15.3 | 【がん免疫治療薬「キイトルーダ」がけん引】 ・業績の拡大をけん引する「キイトルーダ」の売上は19年7-9月期に30.7億ドル、売上構成比で25%に達しています。売上拡大の背景として、非小細胞肺がん(NSCLC)への適応拡大による売上モメンタムが強かったほか、腎細胞がんに対して、また、メラノーマ治療の補助剤としての適応拡大が効いたとしています。子宮頸がん予防ワクチン「ガーダシル」の伸びを主因に中国売上が前年同期比84%増となっていることも注目できるでしょう。 ・7-9月期決算は、前年同期比15%増収、同27%増益、売上は市場予想を6%、EPSは市場予想を22%と大幅に上回りました。主力のキイトルーダが前年同期比62%増となったほか、ガーダシルが同27%増となって売上を押し上げています。通期業績ガイダンスの中央値は売上で2%、調整後EPSで5%引き上げられました。2/5(水)に10-12月期決算の発表予定です。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。マイクロソフトは20年6月期、その他は20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
27(月) | ・ドイツIFO企業景況感指数(1月) ・米新築住宅販売件数(12月) |
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28(火) | ・米耐久財受注(12月) ・S&Pコアロジック住宅価格指数(11月) ・米コンファレンスボード消費者信頼感(1月) |
アップル、3M、ファイザー、スターバックス アドバンストマイクロデバイシズ、ザイリンクス ロッキードマーチン、ユナイテッドテクノロジーズ |
29(水) | ・米中古住宅販売成約(12月) ・米FOMC政策金利 |
マイクロソフト、フェイスブック、マクドナルド、テスラ AT&T、ゼネラルエレクトリック、ボーイング、マスターカード ペイパルホールディングス、ダウ、イルミナ ラムリサーチ、アラインテクノロジー |
30(木) | ・ユーロ圏景況感(1月) ・ユーロ圏失業率(12月) ・米実質GDP(10-12月期、速報値) |
アマゾンドットコム、ビザ、コカ・コーラ ベライゾンコミュニケーションズ、アルトリアグループ ユニリーバ、バイオジェン、エレクトロニックアーツ レイセオン、ノースロップグラマン |
31(金) | ・日本鉱工業生産(12月) ・中国製造業・非製造業PMI(1月) ・ユーロ圏実質GDP(10-12月期、速報値) ・英国のEU離脱期限 ・米個人所得・個人支出(12月) ・米PCEコアデフレータ(12月) ・ミシガン大学消費者マインド(1月、確報値) |
エクソンモービル、キャタピラー、シェブロン ハネウェルインターナショナル |
2月 2(日) |
・スーパーボウル | |
3(月) | ・中国工業部門利益(12月) ・中国財新製造業PMI(1月) ・米大統領選アイオワ州党員集会 ・米ISM製造業景気指数(1月) ・米自動車販売台数(1月、4日までに発表) |
アルファベット |
4(火) | ・ユーロ圏生産者物価指数(12月) ・米大統領一般教書演説 ・米製造業受注(12月) |
ウォルトディズニー、BP、エマソンエレクトリック ギリアドサイエンシズ(E)、L3ハリステクノロジーズ |
5(水) | ・ユーロ圏小売売上高(12月) ・ADP雇用統計(1月) ・米ISM非製造業景気指数(1月) ・米貿易統計(12月) |
グラクソスミスクライン、クアルコム、メルク |
6(木) | フィリップモリスインターナショナル、ウーバーテクノロジーズ(E) ツイッター(E)、Tモバイル、フォーティネット、エスティローダー |
|
7(金) | ・中国貿易統計(1月) ・米雇用統計(1月) |
アッヴィ |
注:日付は現地時間によります。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成