先週はイランによる米軍基地への爆撃でヒヤリとする場面はあったものの、米国・イランともに軍事衝突を避ける意図が明らかとなり、大型のIT銘柄がけん引して最高値を更新しています。今週は10-12月期決算発表の開始に加え、米中通商合意の署名式、米国の12月小売売上高、中国の10-12月期実質GDPなどの発表が注目されます。
先週「2020年の通年で有望と考えられる銘柄」として取り上げた、クアルコム(QCOM)、マイクロソフト(MSFT)、JPモルガン チェース(JPM)、フェデックス(FDX)、ボーイング(BA)を今週の5銘柄として維持します。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
情報技術 | 3.2% | 7.2% | 17.4% |
素材 | 1.5% | 0.4% | 6.2% |
通信サービス | 1.5% | 5.5% | 12.0% |
不動産 | 1.5% | 4.8% | -0.1% |
S&P500 | 1.3% | 3.8% | 10.9% |
公益事業 | 1.2% | 2.9% | 2.1% |
生活必需品 | 1.0% | 1.1% | 4.3% |
資本財・サービス | 0.7% | 2.6% | 9.0% |
金融 | 0.6% | 1.1% | 11.6% |
ヘルスケア | 0.6% | 2.6% | 14.8% |
一般消費財・サービス | 0.4% | 3.6% | 5.5% |
エネルギー | -1.7% | 2.9% | 6.2% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
エヌビディア | 6.3% |
アップル | 5.7% |
クアルコム | 5.2% |
イーライリリー | 5.1% |
ブリストル・マイヤーズ スクイブ | 5.0% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス | -9.3% |
シュルンベルジェ | -3.9% |
シェブロン | -3.3% |
AT&T | -2.6% |
ゼネラル・モーターズ(GM) | -2.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。騰落率は1/13(月)終値によります。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
1/2(木)の米軍によるイランのソレイマニ司令官の殺害を受けて軍事衝突が懸念され、週の前半は一時的に売り込まれる場面がありました。しかし、押し目にはすかさず買いが入り株価水準は保たれました。一方、1/8(水)のイランによるイラクの米軍基地への爆撃は、事前に米国側に通知して人的被害を避けたことが判明、軍事衝突回避の意図が明白となったことから、1/9(木)に最高値を大幅に更新しました。S&P500指数は週間で0.9%の上昇でした。
業種指数騰落率では、アップル、マイクロソフトなど大型のIT銘柄が牽引して「情報技術」が3.2%の大幅な上昇となっています(図表3)。一方、米国とイランの緊張緩和で原油価格が反落したことで、「エネルギー」が唯一下落しています。
個別では、21年1月期の業績見通しを楽観する複数のアナリストが目標株価を引き上げたエヌビディア(NVDA)、「iPhone」の中国販売が昨年12月に前年同月比18%増になったと報じられたアップル(AAPL)が上昇率上位です。
経済指標では、米国の12月ISM非製造業PMIが55.0と前月の53.9から改善して米国のサービス業の好調が確認されました。米国の12月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比14.5万人増で市場予想の同16.4万人増を下回ったものの、米国の雇用は堅調との評価を変えるものではなさそうです。
今週の米国株式市場
今週は10-12月期の決算発表が始まるほか、1/15(水)の米中通商合意の署名式、1/14(火)の民主党の大統領選候補者討論会などが注目イベントとなります。
決算発表については、S&P500指数採用企業のEPSが前年同期比2.0%減の予想です(FactSet社の集計、1/10(金)時点)。通常事前予想を3〜4%ポイント上回るため、19年では初めて前年同期比プラスとなる可能性があります。ただ、20年通期予想の前年比9.6%増とはかい離があること点は認識しておくべきでしょう。
米中の第1段階合意の署名は確実視され、市場の注目は「第2段階」の交渉に移っているようです。一方、トランプ米大統領は、1/9(木)に「第2段階の合意は大統領選挙が終わるまで待つかもしれない。そのほうが取り引きの内容がアメリカにとって良いものになる」としています。
署名式でこのような状況が確認されると、摩擦のエスカレートはない反面、これまでに引き上げられてきた関税率の引き下げも期待薄となりそうです。第1段階の合意署名が材料出尽くしとなる可能性について注意が必要でしょう。
民主党の大統領候補者討論会では、支持を伸ばしてきた候補のつぶしあいが続いて、候補者選びは混とんとしています。直近の支持率調査(エコノミスト/ユーガブ)では、バイデン氏27%、ウォーレン氏22%、サンダース氏20%、ブティジェッジ氏7%、ブルームバーグ氏3%です。ウォーレン氏やサンダース氏など急進左派が支持を伸ばすと市場が動揺する可能性があるため、ここが見所となります。
S&P500指数の予想PERは18.5倍(FactSet集計の177.64ポイントを基準に)に達していますが、いまのところ高値を警戒する気配もみられません。図表3の通り、年初来の上昇は成長性が高いIT銘柄への個別物色がけん引しているので、株価指数全体のPER水準にはさほど神経質にならなくてもよいということかもしれません。
経済指標では、1/16(木)に米国の12月小売売上高(前月比0.3%増の予想)、1/17(金)に中国の10-12月期実質GDP(前年比6.2%増の予想)、中国の12月鉱工業生産(前年比5.9%増と前月の同6.2%増から悪化の予想)・小売売上高(前年比7.9%増と前月の同8.0%増から悪化の予想)・固定資産投資(前月と同じく前年比5.2%増の予想)、米国の12月住宅着工・建設許可件数(着工件数は前月比1.1%増、建設許可件数は同1.5%減の予想)、ミシガン大学消費者マインド(前月と同じ99.3の予想)、などの発表が予定されています。
企業決算では、JPモルガンチェース、バンクオブアメリカ、シティグループ、ウェルズファーゴなど大手銀行のほか、ユナイテッドヘルスグループなどから10-12月期決算の発表が始まります。
ジム・クレイーマー氏は利食いを勧める
株式投資啓蒙家のジム・クレイマー氏は1/10(金)の「Mad Money」(CNBCの株式投資コーナー)で「利食いに良い時だ(Cramer’s week ahead: ‘This is a good moment for profit-taking’)とし、その理由として、株式市場は「私の好みからすると楽観的過ぎる(“too gleeful for my taste”)水準に達したと言っています。
「私の提案は、決算発表シーズンに向け注意深く進んで行こうということです(“My suggestion is tread carefully going into earnings season,” )」。
「(同氏が運用している)チャリティ・ファンドでは、このところ毎日何らかの銘柄を売却するようにしてきました。現在は利食いによい時だと考えているので、皆さんも同様にすべきだと考えています(“We’ve tried to take something off the table every day for my charitable trust. I think you should do the same, because this is a good moment for profit-taking.”)」としています。
さらに、「私は決算発表シーズンに向かうときの株式市場がきらいです。しかし、ここで調整があるなら、実は強気派にとってより良いお膳立てになるでしょう。(“I hate it when stocks run going into earnings season. Any weakness here will actually give the bulls a better setup.”)としています。
中期的に弱気ではないようで、決算シーズンを迎えるにあたって市場が楽観的過ぎると感じているようです。何らかの調整があるなら強気派にとって良い買い場になるだろうとしています。
今週の5銘柄
今回は前回号で2020年の有望銘柄としてご紹介した、「5G(第5世代移動通信システム)」関連のクアルコム(QCOM)、クラウドコンピューティングのマイクロソフト(MSFT)、世界景気回復の観点からJPモルガン チェース(JPM)、フェデックス(FDX)、ボーイング(BA)の5銘柄を維持いたします。
1/9(木)に発表された安川電機の9-11月期決算では、中国からの受注が6-8月期の前年同期比21%減から同3%減へと減少率が縮小したことが報じられています。主な要因として、「5G」関連の需要回復とデータセンター向けの半導体メモリの設備投資があげられており、「5G」とクラウドが2020年の投資テーマとして有望であることが確認されています。
足もとの景気指標はまちまちで、景気センチメントはやや方向感を欠き、景気敏感株への物色は停滞気味となっています。しかし、2020年通年では世界景気の回復が実現すると期待されます。
また、イランでウクライナ国際航空のボーイング「737-800」が墜落して航空機のトラブルが懸念されましたが、その後イラン軍のミスで撃墜されたことが明らかになっています。737-MAXの運航再開によるボーイングの業績回復シナリオは維持されたとみられます。
図表3 S&P500指数の上昇寄与度上位10(19年末から1/13(月)まで)
コード | 銘柄 | 株価騰落率 (%) |
指数寄与度 (%) |
AAPL | アップル | 4.5 | 19.8 |
MSFT | マイクロソフト | 2.0 | 8.4 |
FB | フェイスブック | 3.1 | 5.5 |
GOOG | アルファベット | 2.5 | 3.6 |
MA | マスターカード | 3.3 | 3.1 |
NVDA | エヌビディア | 4.8 | 2.4 |
KO | コカ・コーラ | 3.3 | 2.4 |
PG | プロクター・アンド・ギャンブル | 1.9 | 2.0 |
V | ビザ | 1.8 | 2.0 |
CRM | セールスフォース・ドットコム | 3.1 | 2.0 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (1/13) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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クアルコム(QCOM) | 90.97ドル | 21.9 | 【5Gでも無線通信の技術優位を維持】 ・無線通信分野に特化した半導体メーカーです。現在の無線通信の規格は同社が考案したCDMAが基礎になっており、これは5Gになっても大きくは変わりません。このため同社は引き続きスマホのチップセット開発で業界をリードし、5Gでも技術的に中心企業であり続けると考えられます。 ・同社の業績はスマホ市場の飽和や特許訴訟などのかく乱要因によって低迷してきましたが、20年9月期から増収増益に転じ、その後も増勢が強まると期待されます。「5G」によって同社が主力とするモデムチップの単価が上昇、また、端末全体の価格が上昇することで、これに連動する契約となっている特許料収入も増加、さらに、ベースバンド部(デジタル信号の変復調)からRF(ベースバンド信号を高周波に変調)にも領域を広げることなどが増収要因です。 | ||
マイクロソフト(MSFT) | 163.28ドル | 30.3 | 【クラウドのインフラサービスでアマゾンを急追】 ・クラウドのインフラを提供する企業としてはアマゾンに次ぐ2位の位置にあり、急速に追い上げています。メールソフトの「Outlook」、ビジネスソフトの「Office」などで企業のIT部門に接点があるため、クラウドの新規開拓営業に有利と考えられます。また、19年10月に米国防総省の100億ドル規模の案件をアマゾンと競ってマイクロソフトが獲得したことも、同社のクラウドが加速するきっかけとなる可能性が注目されています。 ・7-9月期決算は、前年同期比14%増収、同22%増益と引き続き好調でした。インテリジェント・クラウド部門が27%増収と成長をけん引したほか、ビジネス・ソフトウェアの「Office」関連売上、ビジネスSNSの「リンクトイン」、パソコンOSの「Windows10」などが好調を維持しています。20年6月期について売上・営業利益とも前年比10%台の増加と営業利益率の上昇を見込んでいます。 | ||
JPモルガン チェース(JPM) | 137.20ドル | 12.9 | 【世界景気の回復による長期金利の上昇から恩恵】 ・20年1-3月期にも世界景気の底入れが確認されると期待されており、昨年9月に底入れした長期金利は上昇トレンドが見込まれ、銀行株が物色されやすい環境と考えられます。バリュエーションは10倍台前半にとどまり、市場平均とのかい離が大きくなっています。また、フィンテックの洗練度が競争力を左右しつつあり、大手銀行が優位な状況です。 ・7-9月期決算は、低金利の環境で消費者向け貸し出しが伸びたほか、債券業務および投資銀行業務の手数料が好調でした。主力のコンシューマー&コミュニティバンキング部門が前年同期比5%増益、コーポレート&インベストメントバンク部門が同7%増益で、コマーシャルバンキング部門およびアセット&ウェルスマネジメントの減益をカバーしました。 | ||
フェデックス(FDX) | 159.28ドル | 14.6 | 【世界景気が底入れするなら恩恵が期待される】 ・世界景気減速や米中通商摩擦による貿易不振の影響を受けて、9-11月期決算は売上が前年同期比3%減、営業利益率が7.5%から3.9%に大幅低下、調整後EPSが同38%減と低調でした。また、8月に陸上輸送部門がアマゾンとの契約を失ったことも業績低迷に影響しています。これを受けて20年5月期の調整後EPSを10.25〜11.50ドルに引き下げています。 ・同社の株価は18年1月に高値を付けてその後2年近く下落基調で推移、中国、欧州、日本の製造業PMIが17年末から18年初にかけてピークを付けたのと連動しているとみられます。現在市場では製造業の底入れを期待していますが、これが予想通りに実現するなら同社の株価も底入れとなる可能性が高そうです。足もとで起きている原油価格の上昇は業績の足かせとなるため、買うのは今すぐではないかもしれませんが、買い場を探すスタンスで注目できるのではないでしょうか。 | ||
ボーイング(BA) | 330.22ドル | 20.5 | 【「737MAX」運航停止による業績低迷も最終局面か?】 ・ボーイング社の受注残高の8割を占める「737MAX」の運航停止が長引き、ついに生産の一時停止にまで追い込まれたことから、業績の低迷が続いています。しかし、世界の航空機需要は長期的に高成長となることが見込まれ、その成長市場を欧州のエアバスと分け合う構図が変わるわけではないと考えられます。引き続きリスクが残るものの、中長期の視点からは買い場を迎えていると考えられるのではないでしょうか。 ・ボーイング社は昨年12/23(月)にマレンバーグCEOを事実上解任して、信用回復に向けた動きを始めています。ただし、現在のところ「737MAX」の運航再開の時期はみえておらず、業績見通しのリスクとなっています。市場のコンセンサス予想では、20年12月期は売上が前年比42%増、EPSは同25倍の16.07ドル、21年12月期の売上は同9%増、EPSは同27%増の21.71ドルへ回復する予想となっています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。マイクロソフトは20年6月期、フェデックスは20年5月期、その他は20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
14(火) | ・第7回民主党米大統領候補者討論会 ・米NFIB中小企業楽観指数(12月) ・米消費者物価指数(12月) |
ウェルズファーゴ、シティグループ、JPモルガンチェース デルタ航空 |
15(水) | ・ユーロ圏鉱工業生産(11月) ・米中通商合意の署名式(ワシントン) ・米生産者物価指数(12月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(1月) ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) |
バンクオブアメリカ、ブラックロック、ゴールドマンサックス ユナイテッドヘルスグループ |
16(木) | ・日本機械受注(11月) ・EU27ヵ国新車登録台数(12月) ・米小売売上高(12月) ・米輸入物価指数(12月) ・フィラデルフィア連銀景気指数(1月) ・米NAHB住宅市場指数(1月) |
モルガンスタンレー |
17(金) | ・中国実質GDP(10-12月期) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(12月) ・ユーロ圏消費者物価指数(12月) ・米住宅着工・建設許可件数(12月) ・米鉱工業生産(12月) ・ミシガン大学消費者マインド(1月、速報値) ・米求人労働異動調査(11月) |
シュルンベルジェ |
20(月) | ・米国市場休場(マーチン・ルーサー・キング・デー) | |
21(火) | ・世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議、24日まで) ・日銀金融政策 ・ドイツZEW調査(1月) |
IBM、ネットフリックス |
22(水) | ・米中古住宅販売件数(12月) | ジョンソン&ジョンソン、ASMLホールディングス テキサスインスツルメンツ、アボットラボラトリーズ |
23(木) | ・ECB主要政策金利 ・ユーロ圏消費者信頼感(1月) |
プロクター&ギャンブル、インテル(E)、ユニオンパシフィック コムキャスト、トラベラーズ、フリーポートマクモラン |
24(金) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(1月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(1月) ・マークイット米製造業PMI(1月) |
アドバンストマイクロデバイシズ(E)、アメリカンエキスプレス |
注:日付は現地時間によります。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成