先週の米国株式市場は、米中双方の発言により貿易摩擦への警戒が後退して大幅な反発となりました。今週は9/1(日)の関税引き上げを踏まえて対面による米中協議が実現の方向となるか、また、企業景況感、雇用統計などの経済指標やパウエルFRB議長の講演が、FRBによる今後の利下げペースを占う上で注目されます。
今回はゴールドマンサックスが薦める貿易摩擦を乗り切る3つの方法から、マイクロソフト(MSFT)、アマゾン ドットコム(AMZN)、ベライゾン コミュニケーションズ(VZ)、ターゲット(TGT)、AT&T(T)を選んで今週の5銘柄といたします。
尚、9/9(月)掲載分は休載とさせていただきます。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
資本財・サービス | 3.6% | -0.3% | 5.2% |
通信サービス | 3.4% | -0.3% | 5.8% |
金融 | 3.2% | -2.6% | 3.5% |
素材 | 3.1% | -1.3% | 7.6% |
情報技術 | 3.1% | 0.5% | 10.7% |
S&P500 | 2.8% | -0.2% | 6.3% |
エネルギー | 2.8% | -5.3% | -2.3% |
一般消費財・サービス | 2.6% | 0.8% | 7.0% |
ヘルスケア | 2.1% | -0.6% | 3.9% |
不動産 | 1.8% | 3.6% | 7.7% |
公益事業 | 1.8% | 3.6% | 7.5% |
生活必需品 | 1.6% | 2.0% | 9.0% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
コストコホールセール | 7.6% |
ユナイテッド・パーセル・サービス | 6.6% |
チャーター・コミュニケーションズ | 6.2% |
クアルコム | 5.8% |
ユナイテッド・テクノロジーズ | 5.5% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
フィリップ・モリス・インターナショナル | -11.2% |
アルトリア・グループ | -5.8% |
オキシデンタル・ペトロリアム | -5.4% |
バイオジェン | -2.7% |
ネクステラ・エナジー | -1.3% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
米中摩擦激化への懸念が後退して反発基調となりました。トランプ米大統領は、米企業に中国から撤退して米国内の生産拡大を要請したことに関して実は大統領にはそれを実現するための権限がないとし、また、米中交渉は継続しているとして、市場の懸念を和らげる発言が相次ぎました。
また、8/29(木)には、米中が9月上旬に対面協議を検討していること、中国側が9/1(日)からの報復関税を実行しないかもしれないと伝わって好感されました。S&P500指数は週間で2.8%の上昇となり、8月月間では1.8%の下落、年初来では16.7%の上昇となっています。
業種指数騰落率では、米中摩擦の懸念後退を受けて、「資本財・サービス」「金融」「素材」など景気敏感業種のほか、メディアが牽引した「通信サービス」が大幅に上昇しました。一方、相場の下落局面でアウトパフォームが続いていた配当利回りが高い「公益事業」「不動産」のほか、ディフェンシブな「生活必需品」は劣後となっています。
経済指標では、米国の8月コンファレンスボード消費者信頼感が135.1と前月の135.8に近い水準を維持してポジティブサプライズとなる一方、8月のミシガン大学消費者マインドは確報値でも89.8と前月の98.4から大幅低下となり、両指標が乖離しています。一般的には、前者の調査世帯数が後者の10倍と多いため、指標としての信頼性はコンファレンスボードのほうが高いと考えられています。
また、米国の4-6月期実質GDPの改定値で個人消費は前期比年率4.7%増の高水準を維持、7月の個人支出は前月比0.6%増と同0.5%増の予想を上回り、米国経済は消費が支えていることが確認されています。
今週の米国株式市場
今週は9/1(日)の米中双方の関税引き上げを受けて、9月上旬の対面協議が実現の方向となるかに加え、企業景況感、雇用統計など経済指標のほか、パウエルFRB議長による講演も今後の金融政策を占う上で注目されます。尚、9/2(月)はレイバー・デーの祝日で米国株式市場は休場となります。
週末9/1(日)には、米中が双方の輸入品に対する追加の関税を発動しました。米国は家電や衣料品など1,100億ドル相当に15%、中国は農産物など750億ドル相当の一部に5〜10%の関税を上乗せします。先週には中国側が関税発動を見送るかもしれないとの発言もあり、市場はこれを好感したと見られるため、9/3(火)は軟調に始まる可能性が高そうです。
9/17(火)、9/18(水)開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)を控え、今週発表の8月ISM製造業景気指数、8月ISM非製造業景気指数、地区連銀経済報告(ベージュブック)、8月雇用統計は、FRBによる今後の利下げペースを占う上で重要と考えられます。
また、パウエルFRB議長は9/6(金)にチューリッヒのイベントで経済見通しと金融政策に関する討論に参加します。FOMCメンバーが発言を控えるブラックアウト期間の前日であり、何らかの示唆が得られるか注目されます。現在、金融市場では年内3〜4回の利下げを予想しています。
経済指標では、9/3(火)に米国の8月ISM製造業景気指数(前月の51.2と同じ51.2の予想)、9/5(木)に米国の8月ISM非製造業景気指数(前月の53.7から54.0へ改善の予想)、9/6(金)の米国の8月雇用統計(非農業部門雇用者数は前月比15.8万人増)などの発表が予定されています。
企業決算では、ヨガウェアのルルレモン アスレティカのほか、最近のIPO銘柄でスラックテクノロジーズ、ズーム ビデオ コミュニケーションズ、ページャーデューティー などの発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は8/28(水)に米国のYahoo!ファイナンスに掲載された記事で、「ゴールドマンサックスが薦める貿易摩擦を乗り切る3つの方法」をご紹介いたします。
同記事でゴールドマンサックスの米国株式ストラテジストは、「S&P500指数の2019年末目標株価は現在の水準から9%上の3,100ポイントとしている。しかしながら、米中の貿易摩擦がこの予想に対する重大なリスクとなっており、ダウンサイドのシナリオでは現水準から8%下の2,620ポイントの可能性もある。」としています。
このような状況を鑑み、投資家が自身のポートフォリオを守る方法として以下の3点に着目して銘柄を選ぶことを提案しています。
・サービスを提供する企業・・・サービスを提供する企業は財を生産する企業に比べて、関税の影響を受けるかもしれない海外からの調達が少なく、海外売上比率が小さい企業が多い。マイクロソフト(MSFT)、アマゾン ドットコム(AMZN)、アルファベット A(GOOGL)、バークシャー ハサウェイ B(BRKB)など。
・売上が米国内に集中する企業・・・S&P500指数採用企業の合計で、米国内売上は70%を占め、中国への直接売上は2%に過ぎず、海外売上や中国売上がない企業を選ぶことは可能。ベライゾン コミュニケーションズ(VZ)、ターゲット(TGT)、ウェルズ ファーゴ(WFC)、マラソン ペトロリアム コーポレーション(MPC)など。
・配当株・・・S&P500指数の今後10年の配当成長率は年率3.5%と予想しているが、スワップ市場から推定される成長率の1.4%は悲観的過ぎる。高配当利回りとなっている銘柄には、このような悲観的な想定が反映されており、過去40年間で最もバリューがあると見ている。AT&T(T)、コールズ(KSS)、デルタ エアーラインズ(DAL)など。
ここに挙げられた銘柄群は、8月初に米中の貿易摩擦が再燃して以降、本レポートで取り上げてきた銘柄とも多くが重なっています。今回はこれらの中から、マイクロソフト(MSFT)、アマゾン ドットコム(AMZN)、ベライゾン コミュニケーションズ(VZ)、ターゲット(TGT)、AT&T(T)を選んでご紹介いたします。
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (8/30) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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マイクロソフト(MSFT) | 137.86ドル | 27.4 | 【サービスを主力に提供する企業として注目】 ・パソコン、サーバーのOS(基本ソフト)「Windows」、アプリケーションソフトの「オフィス」、クラウドサービス、ビジネスSNSの「LinkedIn」、ネット検索の「Bing」などサービスを主力に提供する企業の代表として注目できるでしょう。ノートPCの「Surface」、ゲームの「Xbox」など貿易摩擦の影響を受ける可能性のあるハードウェア事業を含みますが、一部に過ぎません。 ・直近の決算でシスコシステムズがIT投資に慎重な見通しを示したことが同社の成長を牽引するクラウドサービスに懸念材料となっていますが、同社はハードウェアが主力でソフトウェアのセールスドットコムは好調維持が確認されたため、やや鈍化はあるとしても重大なものにはならないと見られます。 | ||
アマゾン ドットコム(AMZN) | 1776.29ドル | 3.1 | 【ネット通販とクラウドサービスが主力】 ・ネット通販とクラウドサービスが主力事業で、サービスの提供に特化した企業と言えます。対中関税は販売する商品の価格上昇を招きますが、小売企業間で競争条件が変わるわけではありません。独占禁止法の調査が行われていることが懸念材料ですが、主力のネット通販でも米小売市場でのシェアは5%程度であり、同社の場合は重大な打撃にはならないと考えられます。 ・ネット通販ではプライム会員向けの無料配送を従来の2日から1日に短縮しようとしており、短期的には投資が嵩んで利益を抑える要因になっています。ただ、この動きは顧客の囲い込みによる安定した売上の増加と市場シェアの獲得につながり、中期的には利益をもたらすと見られます。 | ||
ベライゾン コミュニケーションズ(VZ) | 58.16ドル | 24.4 | 【米国内の売上が100%の通信サービス企業】 ・同じ通信サービスの企業でもAT&Tは一部海外エクスポージャーがありますが、同社は米国内の売上が100%を占めます。また、AT&Tがメディア企業への脱皮を目指しているのに対して同社は、携帯電話契約者数でトップの強味を生かして通信サービスに特化してより安定を重視した戦略をとっていると言えます。 ・5G(第5世代移動通信システム)サービスは同社の成長戦略の中心で、積極的に展開しています。4/4(木)には世界初の5Gサービスを「5G Ultra Wideband」としてシカゴとミネアポリスで始め、19年中に少なくとも30都市にサービス展開する計画です。 | ||
ターゲット(TGT) | 107.04ドル | 34.7 | 【米国売上100%の大手スーパー、持続的な利益成長局面へ】 ・米国内の売上が100%を占める大手スーパーです。19年1月期まで3期連続で営業減益が続いて不振でしたが、2017年に始めた店舗イメージやプライベートブランドへの投資に顧客が反応している上、eコマースや宅配プラットフォーム拡大の効果が出てきて持続的な利益成長のフェーズに入っていると見られます。 ・8/21(水)に発表した5-7月期決算は、来店客数の増加が牽引して既存店売上が前年同期比3.4%増となり、市場予想の同3.0%増を上回って好調でした。eコマースの売上は前年同期比34%増え、既存店売上に1.8%ポイントの押し上げに貢献しています。粗利率も前年同期比0.3%拡大しています。好調な決算を受けて20年1月期のEPSを5.75〜6.05ドルから5.95〜6.20ドルへ中央値で3%引き上げています。 | ||
AT&T(T) | 35.26ドル | 31.0 | 【配当利回りに加え、コンテンツ買収による成長戦略にも注目】 ・今期の予想配当は2.05ドルで、8/30(金)終値による予想配当利回りは5.8%と高水準となっています。来年に向けて5G(次世代移動通信システム)の展開にも注目が高まりやすいと考えられます。 ・米国の携帯電話市場は飽和状態が近づきつつあることから、メディア大手の一角を占めるタイム・ワーナーを買収して、一流のコンテンツ、消費者への対応力、広告技術、ブロードバンドの通信能力などを統合する新世代のメディア企業への脱皮を目指しています。このような成長戦略にも注目できるでしょう。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。マイクロソフトは20年6月期、ターゲットは20年1月期、その他は19年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
9月 2(月) |
・米国休場(レイバーデー) ・財新中国製造業PMI(8月) |
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3(火) | ・ユーロ圏生産者物価指数(7月) ・ISM製造業景況指数(8月) |
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4(水) | ・ユーロ圏小売売上高(7月) ・米貿易統計(7月) ・米自動車販売台数(8月) |
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5(木) | ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) ・ADP雇用統計(8月) ・米製造業受注(7月) ・ISM非製造業景気指数(8月) |
スラックテクノロジーズ |
6(金) | ・ユーロ圏実質GDP(4-6月期、確報値) ・パウエルFRB議長講演(チューリッヒ) ・米雇用統計(8月) |
ルルレモン アスレティカ、ズーム ビデオ コミュニケーションズ ページャーデューティー |
9(月) | ・日本実質GDP(4-6月期、確報値) ・中国資金調達総額(15日までに発表) |
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10(火) | ・米消費者信用残高(7月) ・中国生産者・消費者物価指数(8月) ・日本工作機械受注(8月) ・NFIB中小企業楽観指数(8月) ・米JOLT求人(7月) |
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11(水) | ・中国海外直接投資(8月) ・米生産者物価指数(8月) |
・アップルが新型iPhoneを発表(日本時間午前2時) |
12(木) | ・日本機械受注(7月) ・ユーロ圏鉱工業生産(7月) ・ECB主要政策金利 ・米消費者物価指数(8月) |
クローガー |
13(金) | ・日本鉱工業生産(7月、確報値) ・ユーロ圏貿易統計(7月) ・米輸入物価指数(8月) ・米小売売上高(8月) ・ミシガン大学消費者マインド(9月、速報値) |
ブロードコム |
注:日付は日本時間によります。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成