先週の米国株式市場は、政策金利の見通しに関する市場の動揺、米中貿易摩擦が激化する可能性が懸念されて、大幅な下落となりました。テクニカルに節目となる水準を下回ったため、今週も調整基調となる可能性が高そうです。
米中貿易摩擦に対する懸念が高まっているため、ジム・クレイマー氏が「経済成長が鈍化しても大丈夫な銘柄」として推奨していた、エスティローダー A(EL)、スターバックス(SBUX)、チポトレ メキシカン グリル(CMG)、プロクター & ギャンブル(PG)、マクドナルド(MCD)を今週の5銘柄といたします。
主要企業の決算概要:エクソン モービル(XOM)とバークシャー ハサウェイ B(BRKB)をご報告いたします。
尚、8/13(火)掲載分は休載とさせていただきます。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
不動産 | 2.0% | 0.2% | 4.0% |
公益事業 | 0.3% | -0.9% | 3.2% |
ヘルスケア | -1.1% | -3.0% | 0.9% |
生活必需品 | -1.9% | -0.2% | 3.1% |
素材 | -3.0% | -2.7% | 1.2% |
S&P500 | -3.1% | -2.0% | -0.5% |
エネルギー | -3.4% | -4.5% | -6.0% |
資本財・サービス | -3.4% | -2.1% | -3.3% |
通信サービス | -3.5% | -1.0% | -0.3% |
金融 | -3.9% | -2.2% | -1.7% |
情報技術 | -4.4% | -1.2% | 0.2% |
一般消費財・サービス | -4.6% | -3.3% | -2.2% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
アムジェン | 6.8% |
イーライリリー | 3.8% |
メルク | 3.7% |
サザン | 2.9% |
バイオジェン | 1.7% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
ファイザー | -11.8% |
キャピタル・ワン・ファイナンシャル | -8.4% |
エヌビディア | -7.9% |
モルガン・スタンレー | -7.9% |
エマソン・エレクトリック | -7.5% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
先週は7/31(水)の政策金利引き下げに際して、パウエルFRB議長が「政策のサイクル半ばの調整(mid-cycle adjustment to policy)であり、長期的な利下げ局面に入るものではない」としたことから、年内2〜4回の利下げを想定していた市場が動揺してS&P500指数が1.1%の下落。8/1(木)には、トランプ大統領が対中追加関税(中国からの輸入品3,000億ドル分に10%、9/1(日)から発動)の計画を発表して0.9%の続落。8/2(金)にも0.7%の下落となっています。S&P500指数は週間で3.1%の大幅下落となりました。
業種指数騰落率では、米10年国債利回りが1.8%台まで大幅に低下したことを受けて、「不動産」「公益事業」など配当利回りが高い業種がプラスを維持したほか、「ヘルスケア」「生活必需品」などディフェンシブな業種の値下がりが小さくなっています。一方、対中関税第4弾の対象には消費財が多く含まれることが嫌気されて「一般消費財・サービス」の下落が大きく、また、「半導体・同製造装置」のサブセクターが6.7%の大幅反落で、「情報技術」の下落も大きくなっています。
経済指標では、中国の7月製造業PMIが49.7へ6月の49.4から改善、調査対象が異なる財新中国製造業PMIでも49.4から49.7へ改善しており、企業景況感に底入れの兆しが見られます。一方、米国の7月ISM製造業景気指数は51.2へ前月の51.7から低下しています。米国の7月雇用統計で非農業部門雇用者数は市場予想並みの前月比16.4万人増となっています。3ヵ月移動平均値も同14.0万人増まで低下して、製造業の雇用鈍化の影響が出ています。
今週の米国株式市場
今週は(1)政策金利の見通しに対する市場の動揺、(2)対中関税第4弾への懸念、という先週出たネガティブ材料を消化する中で、調整基調となる可能性が高そうです。
(1)について、図表3に年内の利下げ回数に関する市場の予想がどのように変化したかを示しています。FOMCの1週間前には利下げ3回の確率が40%と最も高くなっていましたが、7/31(水)のFOMC後には利下げ2回の確率が43%と最も高くなり、さらに8/2(金)には追加関税への懸念から再び3回の確率が48%まで上昇しています。
年初来の米国株式市場は金融緩和期待を中心材料に上昇してきたため、その前提が大きく変化すること自体が相場のマイナス要因と考えられます。株式市場の動揺は簡単に解消せず、消化には時間がかかる可能性がありそうです。
(2)については、9月に発動される可能性がある対中関税第4弾の対象にはこれまで避けられてきた消費財が多く含まれます。株式市場は18年3月以来、素材や生産財に賦課される関税については、景気への影響、企業業績への影響について経験を積んできました。しかし、幅広い消費財に関税がかかる場合の影響については、これまでの経験では測れないリスクが意識されると考えられ、当面市場の下押し圧力になると見られます。
テクニカル面でも18年からの相場で重要な節目となっていた2,950ポイントを下回ったため、当面は下値模索となる可能性が高そうです。
下値の目処として、50日移動平均線の2,927ポイント、100日移動平均線の2,900ポイント、200日移動平均線の2,790ポイント、一目均衡表の「雲」の上限2,886ポイント、一目均衡表の「雲」の下限2,846ポイントなどが考えられます。相場の上昇トレンドが途切れないためには2,900ポイント割れ辺りで下げ止まる必要がありそうです。
米企業の4-6月期決算については、S&P500指数採用企業の77%が発表を終わった段階で、EPSが前年同期比1.0%減の見込みです(FactSet社の8/2(金)時点の集計)。6/30(日)時点の予想は同2.7%減でしたので、決算発表前の市場予想を上回って着地する見込みです。
経済指標では、8/5(月)に米国の7月ISM非製造業景気指数(55.5へ6月の55.1から改善の予想)、8/8(木)に7月の中国貿易統計(輸出は前年比0.2%減、輸入は同8.8%減の予想)、日本の4-6月期実質GDP(前期比年率0.1%増の予想)などの発表が予定されています。
企業決算は、マリオットインターナショナル、ウォルトディズニー、リフト、クラフトハインツ、ブッキングホールディングス、AIG、ウーバーテクノロジーズなどの発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は投資環境の変化を考慮して、7/15(月)に米国のYahoo Financeに掲載された、ジム・クレイマー氏による「経済成長が鈍化したとしても、この6銘柄なら大丈夫だろう」(Jim Cramer: Even if Slowdown Hits, You‘ll Look Good With These Six Stocks)をご紹介いたします。
毎週金曜日にアップしている「SBIグローバルウォッチ」でも7/19(金)にご紹介したものですが、対中追加関税による景気低迷リスクが高まったため、再掲いたします。
エスティローダー A(EL)、スターバックス(SBUX)、チポトレ メキシカン グリル(CMG)、ナイキ B(NKE)、プロクター & ギャンブル(PG)、マクドナルド(MCD)、レストラン 3銘柄、日用品1銘柄、化粧品 1銘柄、アパレル 1銘柄と貿易摩擦から比較的遠いと考えられる消費関連の銘柄を推奨しています。
ここから、決算期がずれているナイキを除く5銘柄を今週の5銘柄としてご紹介いたします。
図表3 FRBによる年内利下げ回数予想の変化
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (8/2) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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エスティローダー A(EL) | 182.20ドル | 34.6 | 【イタリア人CEOのもとすばらしい会社になった】 ・1-3月期決算は売上の4割超を占めるスキンケアが前年同期比21%増と牽引して売上は同11%増、調整後EPSは同17%増と好調です。スキンケアの増加は「エスティローダー」ブランドが全地域で増収となり、製品では「アドバンス ナイト リペア」が好調です。4-6月期決算は8/19(月)に発表の予定です。 | ||
スターバックス(SBUX) | 95.51ドル | 30.7 | 【CEOの交代が劇的な変化をもたらした】 ・4-6月期は売上が前年同期比8%増、EPSが同26%増で、市場予想をそれぞれ2%、7%上回りました。既存店売上も同6%増と市場予想の同4%を上回っています。また、「スターバックスリワード」の会員数は17.2百万人と前年同期比14%増加しています。 | ||
チポトレ メキシカン グリル(CMG) | 792.21ドル | 59.5 | 【食中毒事件から順調に回復、営業利益率の向上が見込まれる】 ・北米に展開するメキシコ料理のレストランチェーンです。ヒスパニックの増加や健康志向の高まりから成長が期待されています。2015年10月に食中毒事件を起こして業績が低迷していましたが、改善途上にあります。14年12月期の営業利益率が17%に対して、18年12月期は7%にとどまっており、利益の回復が続くと期待されます。 | ||
プロクター & ギャンブル(PG) | 116.44ドル | 24.1 | 【4-6月期のオーガニック売上成長は7%へ加速】 ・オーガニック売上成長率(為替や事業買収・売却の影響を除いた成長)は前年同期比7%増と1-3月期の同5%増からさらに高まりました。数量効果がヘルスケア、ファブリック&ホームなどの分野で伸びて前年同期比3%増、価格効果が同3%増、ヘルスケア、ビューティが牽引して製品ミックスが同2%増となっています | ||
マクドナルド(MCD) | 214.48ドル | 26.7 | 【既存店売上の加速が続いている】 ・4-6月期の売上が前年同期比横ばいですが、ドル高による目減りが3%ポイントあるほか、自社運営店舗のフランチャイズ化による売上減の影響を含みます。米国の既存店売上は店舗の改装や「2 for $5 Mix and Match」のキャンペーンが奏功して同5.7%増、海外の自社運営部門は英国、フランス、ドイツなどが牽引して前年同期比6.6%増、海外のフランチャイズ部門も全地域で増加して前年同期比7.9%増と好調です。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。エスティローダーとプロクター&ギャンブルは20年6月期、スターバックスは20年9月期、その他は19年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週発表された主要企業の決算概要
銘柄名(コード) 決算発表日、株価反応日 株価、前日比、今期予想EPS、アナリスト目標株価 |
直近 実績 |
前年 同期比 |
予想 乖離 |
前四半期の 前年同期比 |
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エクソン モービル(XOM) 8/2、8/2 | 売上(億ドル) | 691 | -6% | 4% | -7% |
71.75ドル、-1.0%、3.49ドル、83.32ドル | EPS(ドル) | 0.73 | -27% | -10% | -49% |
【精製部門、化学部門が足を引っ張る】 ・4-6月期業績は引き続き減収・減益で、売上が市場予想を上回ったもののEPSはショートしています。原油生産部門は増益となりましたが、精製部門と化学部門の減益が足をひっぱっています。一方、1-3月期との比較では、売上が9%増、EPSが33%増と改善しています。原油生産量は、パーミアン盆地での生産が牽引して前年同期比7%増加です。
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バークシャー ハサウェイB(BRKB) 8/3、8/5 | 売上(億ドル) | 607 | 4% | -6% | 8% |
- ドル、- %、10.36ドル、241.25ドル | EPS(ドル) | 8.81 | 4.1倍 | 3.9倍 | 赤字転換 |
【営業減益ながら投資関係収支の増加で純利益は増加】 ・4-6月期の営業利益は、前年同期比10%減でした。「保険の引き受け」部門の減益幅が大きく、「保険の投資」部門、「鉄道・公益・エネルギー」部門の増益分を相殺しています。 ・投資関係収支は昨年末からの株価上昇を受けて前年同期比55%増の79億ドルを計上、営業利益の減少をカバーして純利益は前年同期比17%増となっています。なお、関係会社クラフトハインツの1-3月期および4-6月期決算が発表されていないため、前回に続き今回もクラフトハインツの部分は除かれています。このため、1株当たり純資産は今回も報告されていません。クラフトハインツは8/8(木)に決算発表を予定しています。 ・1-6月期に約21億ドルの自社株買いを行ったこと、6月末の現金および同等物は1,191億ドルへ3月末から7.8%増加していること、4-6月期に投資目的の株式は10億ドルの売り越しとしたこと、なども報告されました。 |
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
5(月) | ・ISM非製造業景気指数(7月) | タイソンフーズ |
6(火) | ・JOLT求人(6月) | マリオットインターナショナル、エマソンエレクトリック |
7(水) | ウォルトディズニー、マイクロチップテクノロジー CVSヘルス |
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8(木) | ・米消費者信用残高(6月) ・中国貿易統計(7月) |
リフト、クラフトハインツ、ブッキングホールディングス AIG、アルベマール |
9(金) | ・日本実質GDP(4-6月期、速報値) ・中国生産者・消費者物価指数(7月) ・中国資金調達総額(7月、15日までに発表) ・米生産者物価指数(7月) |
ウーバーテクノロジーズ、アクティビジョンブリザード |
12(月) | ・日本の祝日(振替休日) | |
13(火) | ・日本工作機械受注(7月) ・ドイツZEW調査(8月) ・米NFIB中小企業楽観指数(7月) ・米消費者物価指数(7月) |
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14(水) | ・日本機械受注(6月) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(7月) ・中国調査失業率(7月) ・中国不動産投資(7月) ・ユーロ圏鉱工業生産(6月) ・米輸入物価指数(7月) ・ユーロ圏実質GDP(4-6月期、速報値) |
メーシーズ |
15(木) | ・日本鉱工業生産(6月、確報値) ・中国新築住宅価格(7月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(8月) ・フィラデルフィア連銀景気指数(8月) ・米小売売上高(7月) ・米鉱工業生産(7月) ・米NAHB住宅市場指数(8月) |
シスコシステムズ、ウォルマート、アプライドマテリアルズ |
16(金) | ・米住宅着工・建設許可件数(7月) ・ミシガン大学消費者マインド(8月、速報値) |
エヌビディア |
注:日付は日本時間によります。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成