米大統領選挙の投票日が11/8(火)に迫ってきました。大勢が大きく変わることもあるとされた3回のテレビ討論会では、民主党のクリントン氏と共和党のトランプ氏の中傷合戦で終始し、大勢は変わらなかったようです。各種世論調査や得票数の予想はおおむねクリントン氏優位で固まっており、市場も「クリントン大統領」を前提に動き始めているように思われます。
しかし、世論調査等も当たらないことがあることを、私たちはEU離脱の可否を決める英国民投票で知りました。「トランプ大統領」が実現する可能性もゼロではないと考えられます。
今回の「日本株投資戦略」では、米大統領選をめぐる動きをまとめるとともに、「クリントン大統領」が実現した場合、「トランプ大統領」が誕生した場合それぞれについて、またいずれの候補が勝利した場合にも注目され得る銘柄についてご紹介することとしました。
迫る米大統領選挙!波乱はあるのか? |
11/8(火)の米大統領選挙投票日まで2週間を切りました。大勢が大きく変わることもあるとされた3回のテレビ討論会では、民主党のクリントン氏と共和党のトランプ氏の中傷合戦で終始し、大勢は変わらなかったようです。図1にあるように、テレビ討論会の時期を経て、クリントン氏は支持率でトランプ氏を引き離しているようです。各種世論調査や得票数の予想もおおむねクリントン氏優位で固まっており、市場も「クリントン大統領」を前提に動き始めているように思われます。
本選では合計538人の選挙人の票のうち、過半数の270票以上を獲得した候補が勝利となります。米大統領選挙は一般の有権者の票は選挙人を選ぶことで結果に反映される「間接選挙」の形式をとります。選挙人は各州の人口比で割り振られ、州ごとに最多票を得た候補がその州の票を全て獲得する「総取り方式」となります(ネブラスカ州とメイン州は例外的に比例割当方式です)。伝統的に北東部やカリフォルニア州などの西海岸が民主党の地盤で、中西部や南部が共和党の地盤とされます。おのおのが地盤としている州で勝敗が逆転するケースはまれで、どちらが勝つか予想が難しいフロリダ州、オハイオ州、バージニア州など激戦州の勝敗が選挙全体の帰趨を左右すると言われています。
それでも、多くの得票数予想でもクリントン氏が優位に立っているのが現状で、基本的に市場は「クリントン大統領」を前提に動いているようにみられます。ただ、予想だにしなかったスキャンダルなどが明らかになり、波乱となる可能性はゼロではありません。選挙は最後まで何が起こるかわからないことを、私たちはEU離脱の可否を決める英国民投票で知りました。すなわち、「トランプ大統領」が実現する可能性もゼロではないと考えられます。
図1:テレビ討論を経てクリントン、トランプ両候補の支持率は差が拡大
米リアル・クリア・ポリティクスによる集計。BloombergデータをもとにSBI証券が作成。赤線四角で囲った部分は、3回のテレビ討論会(吹き出しの中の日付はテレビ討論会の実施日)時の支持率を示しています。
「クリントン大統領」で上昇が期待される銘柄はコレ!? |
クリントン氏と民主党およびトランプ氏と共和党の政策のうち、株式市場に影響のありそうな主なものを表1としてまとめています。
クリントン氏は原則としてオバマ大統領の政策を概ね引き継ぐと見られています。「富裕層や大企業への増税」を掲げているため、株式市場にさほどポジティブとは見受けられませんが、伝統的な民主党の政策であり、現状から急変するということはないでしょう。
なお、市場では何を発言するか読み切れないトランプ候補に対し警戒し、リスク回避姿勢をとってきた投資家も多い(円高・金高要因)と考えられます。このため、「クリントン大統領」が実現した場合は、市場のリスク許容度が高まり、円安や金価格の下落が進む可能性があります。
表1:米大統領選挙でクリントン氏、トランプ氏が主張する政策
クリントン氏/民主党 | 項目 | トランプ氏/共和党 |
---|---|---|
・ウォール街を制御して金融システムを是正する。 | 金融 | ・ドッド-フランク法(2010年7月、オバマ大統領の署名により成立した米国の金融規制改革法)を批判、金融規制を緩和する。 |
・医療保険改革(オバマケア)を守り、ユニバーサルケアを推進。処方薬のコストを引き下げる。 | 医療・保険 | ・医療保険改革(オバマケア)を撤回する。メディケア、メディケイドは維持するが、費用の管理が必要。 |
・気候変動は差し迫った脅威。今後10年以内に電力源の50%をクリーンエネルギーにすることを目指す。 | 環境 | ・気候変動は最も差し迫った国家安全保障の問題からは程遠い。 |
・銃規制を強化し、殺傷能力の高い武器弾薬が出回らないようにする。 | 銃規制 | ・個人が武器を持つ権利を堅持。銃の登録制度や半自動小銃禁止法の復活に反対する。 |
・21世紀のインフラを建設する。田舎への投資、都市への投資にも言及。 | インフラ投資 | ・政策綱領にはないが、トランプ氏が増やすと強調。 |
・富裕層、大企業への増税。 | 税制 | ・経済成長のための公正で簡素な税制を実現。法人税率の引き下げ。 |
・米国の雇用や賃金上昇につながらない貿易協定には反対。TPPにもこの基準を適用する。 | 通商 | ・米国を第一に置く貿易交渉が必要。国益を保護しない貿易協定は拒絶しなくてはならない。 |
・中国にはルールを守るよう圧力をかける。 | 中国 | ・中国の通商政策に厳しい姿勢。 |
- ※各種資料をもとにSBI証券が作成
この他、クリントン氏の産業分野に関する政策の特徴としては、
(1)金融分野では規制強化を主張
(2)環境分野ではクリーンエネルギーに注力するとしていること
(3)医療分野では昨年来、医薬品メーカーによる薬価引き上げを問題視していること
等があげられます。したがって、「クリントン大統領」が実現した場合は、特に米国株式市場において金融セクター、医薬品セクターの銘柄が売られ、クリーンエネルギー関連の銘柄が買われる可能性が大きそうです。さらに、5年間で2,750億ドル(約28兆円)の社会インフラ整備を主張していますので、インフラ整備関連銘柄も買われる可能性がありそうです。
もっとも、トランプ氏もインフラ投資については、クリントン氏の倍額程度を主張していますので、どちらの候補が当選しても買われる可能性があります。ただ、トランプ氏が当選した場合は、投資想定額が大きい分、短期的なパフォーマンスが一層良くなる可能性が膨らむ半面で、財源問題等が出てきそうなことや、円高によりパフォーマンスが相殺されてしまうリスクもあるので要注意だと考えられます。逆に「クリントン大統領実現」の場合は、短期的なパフォーマンスは良くならない可能性があるものの、追い風は長期化することが期待されます。
表2は「クリントン大統領」が実現した場合に追い風を受けそうな企業を、社会インフラ、環境分野を中心として例示したものです。社会インフラの整備で建設・土木事業が増えれば建設機械メーカーに追い風が吹きそうですが、我が国の大手メーカーは米国でも事業を展開しており、実際に販売増が期待できます。中でも竹内製作所(6432)は外部顧客への売上高の47.8%(前期)が米国となっていますので、恩恵が大きそうです。また、ヤマシンフィルタ(6240)は油圧ショベルの作動油回路用フィルタ製品で世界シェアが7割前後あり、米国・世界で最大手の建機メーカーであるキャタピラーにも納入しています。
半導体シリコンウェハで最大手の信越化学(4063)ですが、社会インフラ整備の増大が追い風になる「塩ビ・化成品」が売上高の32%を占めています。米国の塩ビ子会社のシンテックは同分野で世界最大手企業です。我が国のセメント大手の太平洋セメント(5233)は米国事業が売上高の12.9%(前期)あり、順調に拡大中です。
環境分野では、米太陽光発電システム大手のファーストソーラに製品納入実績のある平河ヒューテック(5821)に意外感があります。業績も第1四半期までは好調に推移しているようです。
表2:「クリントン大統領」実現が追い風になりそうな企業〜社会インフラ、環境分野を中心として
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (10/28) |
9/26からの 騰落率 |
ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|
4063 | 信越化学工業 | 7,751 | 10.1% | 米国の塩ビ子会社に追い風 | ||
5233 | 太平洋セメント | 303 | 3.4% | カリフォルニア等に3工場 | ||
5333 | 日本碍子 | 2,171 | 4.6% | 電力貯蔵システム | ||
5801 | 古河電気工業 | 3,035 | 16.7% | 光ファイバー子会社が米国に | ||
5821 | 平河ヒューテック | 943 | 15.4% | ファーストソーラに納入実績 | ||
6240 | ヤマシンフィルタ | 634 | 26.3% | 大手建機を主要顧客に高シェア | ||
6301 | 小松製作所 | 2,331.5 | 0.5% | 「北米」売上比率は24% | ||
6305 | 日立建機 | 2,189 | 12.8% | 「北米」売上比率は12% | ||
6326 | クボタ | 1,676 | 10.6% | 建機、農機、環境、社会インフラ等 | ||
6432 | 竹内製作所 | 2,031 | 39.9% | 米国の売上比率が47% |
各種資料をもとに、「クリントン大統領」実現が追い風になりそうな「米社会インフラ投資」や「再生エネルギー事業」に関係があるとみられる銘柄を例示したものです。「クリントン大統領」実現が追い風になりそうな企業が他にもある可能性もありますので、ご注意ください。なお、株価の騰落率の起点を9/26としたのは、第1回テレビ討論会の日付であり、その日以降クリントン氏の支持率が上昇しているため、同氏が大統領になる可能性を株価がどの程度織り込んでいるのか、ひとつの参考になると考えたためです。
「トランプ大統領」となった時、市場はどうなるのか?物色される銘柄は? |
仮にトランプ氏が逆転で大統領選挙に当選した場合どうなるのでしょうか。米国の国益を前面に押し出すその政治スタイルを見る限り、為替政策ではドル安政策を取ってきそうです。さらに市場ではリスク回避の円買いが増える可能性があり、円高・株安になる可能性が大きそうです。したがって、円高がデメリットになりやすい輸送用機器や電気機器、機械等の「輸出関連銘柄」には逆風が吹きそうです。また、TPP(環太平洋経済連携協定)の実現はさらに困難になるとみられ、倉庫や冷凍食品等の関連銘柄には逆風が吹きそうです。
ただ、仮に「トランプ大統領実現」となっても、同氏が選挙中に主張したような過激な政策のすべてが実行できる訳ではありません。過去の何人かの大統領がそうであったように、トランプ氏も次第に現実的な対応を取ってくる可能性があるので、株価の下落や円高が長期化しない可能性も考えられます。
ただ、「クリントン大統領」が実現した時に逆風を受けるとみられる金融、医薬品などは、「トランプ大統領実現」で不安感が後退する可能性もありそうです。
なお、トランプ氏は選挙中に、日米安全保障条約の見直しに言及しています。駐留米軍の費用をすべて日本が負担することは非現実的とはいえ、我が国の防衛費に増加圧力がかかる可能性は十分あります。このため、トランプ氏が当選した場合に株式市場では、石川製作所(6208)、豊和工(6203)、東京計器(7721)他の「防衛関連」株が人気になる可能性があります。
また、トランプ氏は米国の「攻撃用サイバー兵器」を重視する姿勢を打ち出しています。クリントン候補の私用メール疑惑もあり、今回の大統領選挙ほどサイバーセキュリティが話題になった選挙はないと言えます。したがって、トレンドマイクロ(4704)やラック(3857)、DIT(3916)などのサイバーセキュリティ関連株も人気を集める可能性がでてきそうです。
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