東京株式市場では、3月13日(金)に日経平均株価がついに終値で19,000円の大台を回復しました。過去、最後にこの大台を付けていたのは2000年4月17日(月)ですので、ほぼ15年ぶりとなります。景気・企業業績への拡大期待に加え、下落局面では年金買いへの期待が高まるなど、総じて良好な需給関係が下支え材料となっています。
ただ、3月13日(金)の取引に関しては、ファナック(6954)急騰のインパクトが大きかったことは否定できません。同社株はこの日、前日比3,135円高(上昇率13.2%)の26,870円で取引を終えましたが、同社1社で日経平均株価を123円(この日の日経平均株価は前日比263円高)押し上げた計算です。この日の日本経済新聞朝刊で、「4月に株主との対話窓口となる部署を設け、増配や自社株買いも検討する」と報じられたことが手掛かり材料となりました。
この一件は、市場がいかに配当や自社株買いなどの株主還元に強い関心を持っているかを示しています。現在、東証一部の予想配当利回りは株価上昇もあり1.42%と、一時よりは低下していることは確かです。しかし、10年国債利回りが年0.4%以下にとどまり、利回り格差は1%をキープしています。株式投資のトータルリターンを考える時に、キャピタルゲインのみならず、配当利回りの確保も考慮すべきであることに変わりはないと思います。
そこで、今回の「日本株投資戦略」では、いよいよ3月決算企業の「権利付最終日」を3月26日に控え、好配当利回りが期待できる銘柄をチェックしてみました。好業績が見込まれ、株価的にも出遅れている銘柄をピックアップしています。
【相場ピックアップ!】 「原油先物相場が「6年ぶり安値」で「電気・ガス」に追い風か」
ラストチャンス!?出遅れ・好配当利回り銘柄を探る |
冒頭でご説明した通り、いよいよ3月決算期末を控え、配当の権利取りが「ラストチャンス」となってきました。
ここで改めて好配当利回りが予想される銘柄にスポットライトを当ててみました。スクリーニング条件は以下の通りです。
(1)から(3)までの全条件を満たす銘柄を、今期の予想配当利回り(市場コンセンサス)の高い順に10銘柄掲載しました。
(1)東証一部上場の3月期決算銘柄
(2)今期、営業利益、純利益ともに増益が見込まれる銘柄(市場コンセンサス)
(3)昨年末からの株価上昇率が12%未満の銘柄
仮に予想配当利回りが高くても、減益となり最終的に減配になってしまうと、予想された利回りを確保できません。そこで、営業利益及び純利益で、少なくとも増益は維持しそうな銘柄を選ぶことで、減配リスクを低減させています。また、最近の株価急騰を配慮し、大きく上昇した銘柄は除くことにしました。日経平均の年初来上昇率が12%(3月18日時点)ですので、それ未満の上昇率にとどまる銘柄を対象にしました。
ランキング上位の銘柄で素直に好配当利回りを確保することも可能ですが、パッケージ投資でリスクを分散させることも検討すべきかもしれません。上位5銘柄をパッケージで買い付けた場合の投資金額は約100万円ですので、比較的少額でリスクを分散しつつ、好配当を取りにいくことが可能となっています。
図表1:出遅れ・好配当銘柄10
取引 | チャート | コード | 会社名 | 株価 (3/18) |
予想配当 利回り |
今期予想 一株配当 |
年初来 株価騰落率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2760 | 東京エレクトロン デバイス | 1,638 | 3.7% | 60.00 | 7.1% | ||
6412 | 平和 | 2,428 | 3.3% | 80.00 | 1.0% | ||
9505 | 北陸電力 | 1,584 | 3.2% | 50.00 | 2.9% | ||
7995 | 日本バルカー工業 | 319 | 3.1% | 10.00 | -1.2% | ||
7637 | 白銅 (注) | 1,227 | 3.1% | 38.00 | 11.0% | ||
9600 | アイネット | 972 | 3.1% | 30.00 | 8.2% | ||
8078 | 阪和興業 | 478 | 3.1% | 14.67 | 11.9% | ||
1878 | 大東建託 | 13,815 | 2.8% | 393.35 | 0.8% | ||
5013 | ユシロ化学工業 | 1,551 | 2.8% | 44.00 | -9.2% | ||
6617 | 東光高岳 | 1,786 | 2.8% | 50.00 | 1.5% |
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。データは2015年3月18日現在。
- ※予想はすべてBloomberg集計の市場コンセンサス。売買単位は、日本バルカーと阪和興業が1000株で、あとはすべて100株。配当利回りは年間ベースで、中間配当がある銘柄は、それも含めた利回りとなる。予想配当利回りは、市場コンセンサスであり、会社計画とは異なることがある。年初来騰落率は2014年12月30日〜2015年3月18日の株価騰落率を示す。
- (注)3月18日取引終了後に白銅(7637)は年間配当予想を一株45円に修正しています。
権利落ち後の株価下落リスクに注意 〜中長期投資の視野も必要か |
3月権利付最終日を間近に控えたこの時期、好配当利回り銘柄に投資する場合、どのような点に注意すべきでしょうか。以下に整理してみました。
- (1)3月末を決算期とする大半の企業は、3月26日が権利付最終日ですので、その日まで買い付けないと配当(株主優待がある場合はその権利)を受け取ることができません。なお、3月決算企業でも、まれに権利付最終日が3月26日と異なる場合もありますので確認が必要です。ちなみに、図表1の銘柄はすべて3月末決算です。
- (2)配当利回りは、一般的に年間ベースで表示されています。従って、中間配当等の期中配当がある場合は、そこでの配当も取ったことを前提とした利回りとなります。ちなみに、予想配当利回りは、データ作成時点の株価及び予想一株配当を基準に計算されていますので、株価あるいは予想一株配当が変化すれば、数値が変わることになります。
- (3)今回の分析では、株価上昇率が相対的に低い銘柄を選んでいます。それでも、権利付最終日に向けて権利取りを目的とした買い需要が増え、株価が上昇し、購入単価が上がってしまう可能性があり、注意が必要です。逆に、27日の権利落ち後は、買い需要の後退で短期的に株価が下落するリスクが出てきますので併せて要注意です。特に、権利付最終日に買い、権利落ち日にすぐ売却するような取引では、こうした株価特性に配慮する必要があります。
配当利回りを考慮に入れた投資では、前項で述べたようなパッケージ投資や、ある程度腰を落ち着けた中長期投資も検討対象になると考えられます。
「株主還元」強化は時代の要請 |
今回のレポートで述べてきた、配当など企業による株主還元強化の恩恵は、投資家だけのものではありません。周知の通り、年金基金が国内株式の組入れ比率を増やしつつあり、国民の間接的な株式保有比率は高まる傾向です。すなわち、株主還元強化は広く国民のメリットになります。また、それが広く海外投資家による日本株への評価向上につながれば、外国人買いの増加を通じ、株高にもつながりやすいので、その恩恵はますます浸透することになるでしょう。
株主還元の強化を可能にする企業の現金預金の蓄積についてですが、それは上場企業の一角だけでなく、広く日本企業全般の傾向でもあります。3月2日に財務省から発表された「法人企業統計」によると、企業(資本金1億円以上)の現金・預金は、2014年12月末現在で72兆円に達し、平成バブル景気直後である1991年9月末以来の高水準となりました。
企業の現金・預金は、平成バブル景気崩壊以降、減少を続け、1997年6月末に52兆円で一番底を付けた後、2008年9月末に48兆円で2番底を付けるまで底ばいが続きました。この時期の日本経済は、不良債権問題や金融危機、リーマンショック等、内外の大きな経済的困難に襲われ、総じて企業は「守り」の姿勢を強化せざるを得ませんでした。ましてやデフレ経済が深刻化した時期で、企業は借入金を減らし、現金預金を蓄積させることが求められました。現在の現金預金残高の回復は、そうした苦しい時代の企業努力のたまものでもあります。
ただ、時代は変わりました。政府が脱デフレを目指し、日銀により緩和的金融政策が推進されたことで、為替が円安となり、現金預金を蓄積するだけでは資金効率的に良くないと考えられるようになりました。体力の乏しい中小企業はともかく、ある程度、体力に余裕のできた大企業には、外部から様々な圧力がかかるようになりました。配当や自社株買い等の株主還元の強化や、賃金・賞与の引き上げ等による従業員への利益還元等が、それら「圧力」の具体例と考えられます。
冒頭のファナックのニュースは、こうした流れの中で考えるべきニュースであると思います。このニュースが、株主還元や効率経営の面で、内外の投資家から「日本企業が大きく変わるエポックメーキング(新時代を開くほど重要な変化)となり、強く歓迎されるニュースであることは間違いないと思われます。
図表2:日本企業の「現金・預金」の推移(兆円)
- ※財務省「法人企業統計」より、SBI証券が作成。資本金1億円以上。
相場ピックアップ!
今週も、直近の株式市場で、注目すべき事柄をピックアップして解説いたします。
今回注目したのは、「電気・ガス業界」です。注目した理由は、原油先物相場が再び安値圏に入ってきたためです。図表4に示したように、昨年夏には1バレル100ドルを超えていた原油先物相場ですが、2015年1月に向けて6割近い下げとなりました。主な理由は、(1)米国の安価なシェールオイルが増産されたことで、構造的に原油の供給が増えたこと、(2)サウジアラビアがシェアを維持するために、価格調整の役割を放棄したこと、(3)新興国経済の減速で需要の伸び悩みが懸念されたこと等です。米国の生産設備の一部停止等で需給改善への期待が高まり、一時リバウンドする局面もありました。しかし、基本的に在庫過多の状況に変化がないこと等もあり、再び下落基調となってしまいました。そして3月16日にはついに、1月28日の安値を下回ってしまいました。
2014年12月19日の「日本株投資戦略」では、「原油価格下落で注目される業種・銘柄は?」と題し、注目銘柄を探りました。過去の統計から、原油価格の下落局面で相対的に優位な業種は、「電気・ガス」を筆頭に、「空運業」、「パルプ・紙」、「陸運業」等であることをご説明しました。「電気・ガス」は、原油価格下落に最も抵抗力があると考えられる業種なのです。
図表3は、東証業種別指数「電気・ガス業」(全18社)のうち、時価総額ウェイトが高い5社を、時価総額順に並べたものです。表に示した5社の時価ウェイトは、業種全体の58%を占めています。従って、原油価格下落に備えるべく、「電気・ガス業」に属す銘柄を買う場合は、この上位銘柄から選ぼうとする投資家が多いと考えられます。
原発問題の影響が残っているため、ガス会社が上位1位、2位を占めています。このうち東京ガス(9531)は、「2016年3月期に自社株買いを実施する公算が大きい」と報道(日本経済新聞)され、3月17日相場で人気化しました。それでも、業界全体的に予想PERが高い銘柄は少なく、注目される余地は大きいとみられます。
原油価格下落に対し、下がりにくいという株価面での統計のみならず、2016年3月期は業界内の多くの企業で、燃料コスト低下の影響が業績改善として表面化しやすいことも追い風になるでしょう。年初来から株価があまり上昇していない銘柄も散見されます。「電気・ガス」関連企業の動向に注目したいと思います。
図表3:上場「電気・ガス業」(18社)の時価総額上位5社
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 | 業種内時価 ウェイト |
年初来 騰落率 |
来期予想 増益率 |
来期予想 PER |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
9531 | 東京ガス | 739.3 | 18.7% | 13.4% | 5.5% | 14.3 | ||
9532 | 大阪ガス | 492.3 | 10.6% | 9.2% | 11.7% | 12.9 | ||
9502 | 中部電力 | 1,415.0 | 11.1% | -0.2% | 46.8% | 17.9 | ||
9503 | 関西電力 | 1,055.0 | 10.3% | -8.1% | 黒転 | 8.7 | ||
9501 | 東京電力 | 454.0 | 7.6% | -7.7% | 9.5% | 3.0 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。株価他、データは2015年3月16日現在。
- ※年初来騰落率は2014年12月30日以降の騰落率。来期予想増益率、来期予想PERはBloomberg集計の市場コンセンサス。
図表4:原油先物相場(WTI)・日足
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。